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2015年5月31日日曜日

我ら全員、時代遅れのモデル

 
 物心ついた時は石油ショックの後だったので、近所には廃工場があり、そこで遊んだ。
 
 廃工場や工場が無くなったのは何年も後、自分が中学生になったぐらいだ。もう80年代も半ばに突入していた。
 
 高校、大学時代はバブルの時期だ。本屋にいくと翻訳本が幾つも並んでいた。アメリカ人が日本の強さの秘密は改善にあるのだ、とか、日本の会社は巨大なひとつの家族なのだ! とかそういう内容だ。
 
 それを見て思った。
 
 アメリカ人が狂った!!
 
 ∧∧
(‥ )まあ
\‐  なんて言うんですかね
    題名やテーマからして
    安易な本の
    オンパレードですね
 
  (‥ )絵に描いたような
      馬鹿っぷりでな
      でもこれ
      普通の人間の
      普通の所行なんだよね
 
 本を作って売る、売り手側に回った今なら分かる。危機感を煽って愚にもつかないことを売りつけて儲ける。これは単なるビジネスなのだ。ただ、悪質であるし、愚にもつかないことである。
 
 大学を卒業する頃、ちょうどバブルが終わってはじけた。そして今は亡き、イラクのフセイン大統領がクウェートに攻め込み、それをパパブッシュが打ち破り、アメリカの威信が回復した時期である。
 
 憲法九条を日本に押しつけたくせに彼らは言うのである。軍隊を出せない日本は腰抜けだ! アメリカは偉大だ!
 
 それを見て思った。
 
 うわあっ、アメリカ人は正真正銘、底抜けの馬鹿だ!
 
 ∧∧
(‥ )まあ人間の理解なんて
\‐  上っ面ですからね
    そんなもんでしょうね
 
  (‥ )人間は25文字以上の
      文章は読めないからな
      アメリカ人が
      底抜けの馬鹿
      なんじゃなくて
      アメリカ人はただの人間だ
      そういうことよな
 
 もちろん、ただの人間であること、それこそが罪なのだ。許されざる罪である。
 
 やがてバブルの後に低迷する日本を尻目に、アメリカでバブルが発生した。アメリカの雑誌には景気回復の処方箋を日本に教えます! とかいう文句が乗った。
 
 それを見て思った。
 
 とうとうアメリカ人が壊れた???!!
 
 この評価は今にしてみれば拙速であった。
 
 それからしばらくしてアメリカはイラクへ攻め込み、そうして今度こそ本当にすべてがめちゃくちゃになっていった。リーマン兄弟は吹っ飛び、戦費はかさみ、オバマ大統領は良かれと思って軍隊を撤退させ、結果的に火に油を注ぐのである。まさに笑える状況で、事態は悪化の一途をたどり、もはや是正のしようがない。
 
 何もかもが間違いだ。
 
 一方、昨今は中国の躍進と日本企業の体たらくを見て嘆きの声が聞こえる。
 
 日本は衰退してしまう、衰退してしまう、どうしよう、どうしよう
 
 それを見て思う
 
 うわおう、とうとう日本人が狂った。馬鹿じゃねえの?
 
 ∧∧
(‥ )ベトナム敗戦後の痛手と
\‐   日本企業の躍進で
     気持ちは崩壊寸前だった
     80年代のアメリカも
     こんなだったのだろうね
 
  (‥ )この一連の流れを見れば
      分かるように
      日本が衰退してしまうとか
      馬鹿のたわ言ですよ
 
 不安だ不安だ言ってる連中も、どうせアメリカ人と同じで、状況が好転したら手のひらを返すに決まっている。そうして調子ぶっこいて次の破滅へ移行するのである。
 
 衰退するだのなんだの、そんなの歴史的には平常運転だ。そんなことを言ってる暇があるなら仕事作れよ。話は新しい仕事を作ってから聞こうじゃないか。馬鹿野郎。
 
 ∧∧
( ‥)とっ、言ってるあなたも
    仕事は作れてなーい
   
 
  ( ‥)困ったねー
    ‐□
 
 幾つか印象的なことがある。かつて日本企業が強かった時、その強みは実際には技術でもやる気でもなく、単に低賃金の反映であったのだが、この時代、アメリカの人は述べた。アメリカ企業の社長は短期契約で、その期間だけ売り上げを上げようとして人の首を切ったり、やたらとコストカットをしたりして長期的視点を持っていない。その点、日本の企業は違うと。
 
 ∧∧
(‥ )今じゃ日本人社長が
\‐  雇われ短期で
    馬鹿みたいな合理化をして
    企業をめちゃくちゃにして
    法外な退職金をせしめて
    とんずらするみたいだよね
    アメリカ企業の
    悪いとこだけ
    猿真似ですか?
 
  (‥ )社長としては
      適応度が高いの
      だろうけどな
      ただの詐欺師だよね
      
 
 まあ、アメリカかぶれの連中なんぞ、そんな程度だろう。
 
 というか、アメリカと同じ状況に陥って、もう会社のことを考える余裕は無くなった、だったら自分のことだけを考えよう。そう決断した。そのような決断は収束し、同じ振る舞いへと収斂した。こうして社長どもは寄生虫と詐欺師へと成り果てた。それだけの話だったのだろう。
 
 アメリカで起きた悪しき慣習は、アメリカ社会に特有の問題ではなかったし、日本社会がそれを排除していたのは日本社会が素晴らしかったからでもなかった。単に物理的な理由だった。条件さえ同じになれば同じ状況になり、寄生虫的な戦略を取る人間が現れる。彼らは寄生虫であるゆえに、合理化とロジカルシンキングでいかにも救世主であるかのように擬態する。
 
 つまるところ、成功と失敗、その理由を理解したと思っていたこと、これ自体が根本的に間違いだったのだ。事実、これまでの流れはすべて勘違いと、勘違いによる失敗の歴史であった。
 
 世界を支配している理は日本企業の家族制だの、アメリカの合理性などではない。
 
 世界を支配するのは、低賃金だとか、富の偏りだとか、格差だとか、確率論を突破する数だとか混沌だとか、もっと単純で物理的な力だ。
 
 つまるところ、我々が持つ説明、理解、知性、不安、諦め、憔悴、そのすべてがまったくの無意味、ただの幻想。
 
 すなわち、すべての理解と希望と不安と絶望を放棄せよ。
 
 ∧∧
(‥ )いまや何もかも
\‐  時代遅れなんだね
 
  (‥ )おれたちゃ
      全員時代遅れの
      モデルでしかないのだ
      もう何もかもを
      放棄しなければいかん
 
 
 

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