自己紹介

イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック

2015年9月17日木曜日

せいぜいソクラテスを殺せるぐらい

 
 何をもって末期というのか? 

 その定義や認識はともかくとして、王をいただかないことを誇りとする国家があった。アジア的な専制君主制ではなく、自分たちで自由と政治を運営する、これこそが誉れなり。それを皆が信じている民主国家アテナイ。だがしかし、今やその栄光は風前の灯。
 
 ∧∧
(‥ )その時期に
\−  自害を宣告されたのが
    哲学者ソクラテス
 
  (‥ )哲学
     ギリシャ語だと
     フィロソフィア
     本来の意味は
     知を愛する
     だから哲学者とは
     学問愛好家のことだな
 
 哲学者というと象牙の塔の住人のごとき感があるが、民主制とは、本来、市民と戦争と軍隊が一心同体であった。当然、アテナイ市民であるソクラテスも兵士であり、戦争に参加している。敗北した時、潰走する人々の中にあって、そのしんがりでなおも追いすがる敵兵と戦ったという。
 
 ∧∧
(‥ )ソクラテスさんというと
\−  知らぬ風を装って
    相手に根本的な質問を投げかけ
    相手が得意げに答えるのを
    受け止めつつ
    実は相手の知らないことを
    相手に気づかせる
    そういうことを得意とした
    人ですよね
 
  (‥ )弟子のプラトンが伝える
      ソクラテスって
      すげー嫌な奴なんだよな
      毒人参を飲まされたのは
      当たり前だよね
      
 
  だが、同じくソクラテスから教えを受けた職業軍人クセノフォンが伝えるソクラテスはまるで別人である。
 
 我こそはアテナイを改革せん。そう理想に燃える若者にソクラテスは質問するのである。
 
 政治家になりたいのかい? そりゃいいね。ところで政治家になって改革するからには、年間の国防予算とか知っているのだろうけど、どうしたら良いと思うかね?
 
 えっ? 知らないの? ではどんな兵種をどのぐらい配備すれば効果的だと思う?
 
 えっ? 分からない? うーん、そりゃ困ったな
 
 ∧∧
(‥ )兵種と配備と規模と効果
\−  それらをさらに
    敵の数や質と比較考慮して
    それでようやく
    国防費とかが算出できるからね
 
  (‥ )結局この若者は
      ソクラテスの質問で
      己の無知に気づいて
      政治家をあきらめるのだ
      かように
      クセノフォンが伝える
      ソクラテスは
      まともで
      実直な人なんだよな
 
 二人の男が伝えるソクラテスがなぜこれほど違うのか? これは職業軍人でいつも現実と直面したクセノフォンと、なんだかんだいって机上の理想論者であったプラトンとの違いなんだろう。プラトンは一応、自分の理想の実践は試みたのだけど、あえなく失敗しているし、それになにより、プラトンはトンデモSF作家でもあった。
 
 古代エジプトよりも偉大な文明は実はアテナイで、かつて海の彼方から襲来した侵略者、アトランティス帝国を撃退したのはアテナイなのである!
 
 というトンデモ架空戦記(未完)を書いたのがプラトンだ。そして、アトランティスなどという根も葉もない存在が2000年以上が過ぎた今でも中二病患者を生み出している始末。
 
 ∧∧
( ‥)ある意味、作家としては
    大成功だけど
    プラトンさん
    かなり痛い人ですよね
 
  (‥ )理想が高じて
     君主のアドバイザーに
     なったり
     架空戦記を書いちゃうとかね
     なんか
     駄目な人なんだよなあ
 
 同じ駄目人間としての性なのか? 後世の知識人はプラトンとプラトンのソクラテスをありがたがった。だがしかし、実際は痛い人である。こんなプラトンが伝えたソクラテス像とは、おそらく元のソクラテスとほとんど別人なんだろう。
 
 だがどっちのソクラテスが正しいにせよ、人々は彼に死刑判決を下し、毒人参による自害を命じたのであった。
 
 ∧∧
(‥ )今の人でも
\−  ソクラテスと話したら
    彼を嫌い
    批判する人は
    いるでしょうねえ
 
  (‥ )現実と数字を見て考えなさい
     防衛に必要な兵種と
     予算はいかほどで
     それは我々の経済規模で
     考えた場合
     現実的なあるべき姿とは
     なんだろうか?
     こういうことを問うのが
     ソクラテスだ
     だがしかし
     こんなことを問われただけで
     目を白黒させたあげくに
     顔を真っ赤にして
     激怒する連中は
     山ほどいるだろうからな
 
 
 ソクラテスの質問で、理想に燃えていた若者は、己の無知を知って政治家をあきらめた。
 
 職業軍人のクセノフォンはこの話を好意的に紹介している。そりゃそうだろう。何も知らないで削減するだの、何も知らないで増強するだの言われたらたまったものではない。
 
 ∧∧
( ‥)でも人によっては
    せっかく民主制のために
    立ち上がろうとした
    若者の理想を質問で
    消してしまうなんて
    ソクラテスはなんて
    下種な老害なんでしょう!
    けしからん!
    そう怒るかもしれない
 
  (‥ )若者の政治デモを見て
      すばらしいと
      ただただ絶賛する
      理想主義者もいるからな
 
 理想主義者は現実を見ない。理想にこだわるから理想が現実的かどうかとか、そういうことも考えない。理想主義者は遠い現実よりも頭の中にある身近な理想に拘泥する。理想主義者は原理的に近視眼であるし、近視眼であるから理想主義者なのだとも言えよう。

 だが所詮のところ理想は理想。理想は現実ではない。そして理想は絶えず現実に敗北する。
 
 実際、理想に燃えるアテナイはペルシャ戦争勝利以来の伝統、古式ゆかしき総力戦を何度も敵に挑むが、結局は歴史の表舞台から消えていったのであった。
 
 やって来たのは生まれながら政治家であることを義務づけられ、子供の頃から軍事、経理、統治を実践してきた2世、3世の世襲制議員たち。そしてその彼らに率いられたプロの軍団、ローマであった。
 
 ∧∧
(‥ )ローマの政治家ときたら
\−  ろくなもんじゃ
    ないんですけどね
 
  (‥ )ピンキリではあるけど
      基本的には
      ひたすら
      私腹を肥やすだけの
      連中でな
      だがそれは現実でも
      あったのだろうなあ
      そして
      現実の中で訓練された
      彼らが
      勝利者となるのだ
 
 
 押し寄せる現実を前にした時、理想主義者に出来ることなどない。せいぜい、ソクラテスを殺せるぐらいである。
 
 汚い、汚くないも関係ない。現実を操作できたものが勝利者であり、操作できるからこそわずかだが現実を改変し、理想に近づけることができるのだ。理想主義者に世界を変えることなどできない。できることと言ったら、悪くすることだけである。
 
 
 
     
 

ブログ アーカイブ