自己紹介

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2015年9月25日金曜日

エアカーは幽霊である

 
 一世代前、アシモフ博士が予言したエアカーが普及した未来。
 
 ∧∧
(‥ )アシモフ博士が予言したのは
\‐  グランドエフェクト
    ビークルという名称だったの
    だよね
 
  (‥ )ようするに地面効果を
      利用して
      低高度を自在に飛ぶ
      乗り物ってことだな
 
 
 地面すれすれを飛ぶと揚力が大きくなる。小さな翼でも飛べる。例えばそれこそGround Effect Hovercraftで検索するとこういう動画も出てくる。

=>UH 19XRW Hoverwing™ Ground Effect Hovercraft, - YouTube
 
 ∧∧
(‥ )実用化はされているわけだ
\‐  ただ実用的では
    なかったわけだね
 
  (‥ )翼があるし
      かさばるし
      小回りがきかないし
      車輪と地面との摩擦を
      利用できる自動車と比べて
      制動性が悪いし
      プロペラを利用するから
      ものをまきあげるし
      都市部では使えないよね
 
 それでもアシモフ博士がこの意味でのエアカーを予想したのは、未来にたくしたロマンだったのかもしれない。あるいは博士自身の社会予想も原因かもしれない。博士は人口増加に応じて建築物を作りやすく、なおかつ温度の安定している地下に都市が広まると考えたから。
 
 ∧∧
(‥ )都市が地下に沈んで
\‐  しかもアメリカみたいに
    平原と荒野がある国だと
    都市同士の移動に
    エアカーはありかもね
    日本はちょっと難しいかな
 
  (‥ )とはいえ
      人間も動物も移動跡を
      見れば分かるけど
      同じ経路を通るのだよな
      だから道ができる
 
 それを考えると都市が全部地下に沈んでも、道はそのまま残るし、やっぱり自動車だろう。
 
 ∧∧
(‥ )でもアシモフ博士の
\‐  エアカーって
    機械的にはありうるし
    実際に作られているものでも
    あるわけだね
 
  (‥ )ここが一般のSFで
      出てくるエアカーと
      違う点でな
 
 普通、SFに登場するエアカーは翼が無い。そのくせ以上のような弱点もない。空中に浮遊しているのに自由に止まり、自由に加速するし、自在に小回りが効く。車輪がないはずなのに、まるで車輪を持っているかのように動く。
 
 ∧∧
( ‥)好意的に受け取ると
    慣性や重力、質量を自在に
    制御する超技術なのです!
    ということなんだけども...

 
  (‥ )実際には車輪と地面の
      摩擦で制動している
      自動車の動きを
      そのまんま
      再現しているだけで
      書き手はなんにも
      考えてないんだよね
 
 実際、エアカーのカーチェイスがある小説で、主人公の宇宙船は大気圏内を移動するために翼がある、というものを見た事がある。
 
 宇宙船は大気圏内で機体を制動するための翼を持っているのに、ちっちゃなエアカーは翼がないまま自在に空中で制動しているというこの矛盾! そしてご丁寧にも、翼がある宇宙船で宇宙港に降り立った主人公は、そこからエアカーに乗ってご出勤ってわけだ。
  
 ∧∧
(‥ )...へ理屈はつけられるよね
\‐  エアカーはリニアモーターと
    同じで
    磁場で浮遊して制動して
    もらっているだけです
    道からは外れられませんとか
    でもこういうのって
    行き当たりばったりな
    後付け設定だよねえ
    しかもそれでは説明できない
    場面が大概あるし
 
  (‥ )たぶんこれは
      心理的なものなんだ
 
 大空を飛ぶ天使は鳥の翼を持つ。天使の文化的な祖先であったメソポタミアの合成獣たちもそうである。ライオンの頭と翼を持ち、自在に空を飛ぶ。世界中どこでも発想は同じだ。中国でも翼のある虎の話がある。
 
 ∧∧
( ‥)つまり
    空を飛ぶものは翼がある
    翼があれば空を飛べる
    そういう心理的な理解が
    人間にはあるのだね
 
  (‥ )だが揚力とか
      空を飛ぶための
      出力とかには
      思いが至っていないわけよ
 
 大気圏内を飛ぶ宇宙船に翼があるというのはこれと発想が同じなのだ。航空力学ガーとかもっともらしく理屈づけている人もいるが、そのもっともらしさとは実のところ航空力学なものではない。

 その発想は迷信的、心理的なもので、天使と変わりない。天の使いだから翼がある。翼があれば空を自動的に飛べるはずだ。翼のある宇宙船は、これと立ち位置がまったく同じなのである。
 
 そうでなければ、宇宙船は大気圏内において翼で制動するのに、同じく空中で浮遊するエアカーに翼が無い事、それにもかかわらずエアカーは完全に制動できている矛盾を説明できない。ここには世界の背景に存在する技術という設定が丸ごと抜けている。こんな状態でメカ設定をして悦に入るなど笑える冗談だ。
 
 あるいは反対に言うとこうである、エアカーは実のところ空飛ぶ乗り物とは考えられていないってことだ。
 
 ∧∧
(‥ )エアカーは車輪のない
\‐  不思議な自動車だとしか
    思われていないって
    ことだね
 
  (‥ )さらにいえば
      僕らは自動車が
      車輪と地面の摩擦で
      動いていることを
      理解できていないって
      ことでもあるんだよな
 
 実のところこの無理解は、我々自身の理解にも言えることなのである。つまり人間は自分たちが足と地面の摩擦で動いていると理解できていないのだ。
 
 事実、幽霊は空中に浮遊しているし、足が無い場合さえあるのに自在に移動できるのである。
 
 ∧∧
( ‥)ああ幽霊ってエアカーなんだ
 
  (‥ )というかSFに登場する
      エアカーは幽霊と
      同じ原理で動くってことさ
 
 幽霊と同じ原理で動くとは、もちろん物理的なものではない。

 その原理は翼さえあれば空を飛べる天使と同じように、心理的なものである。自分たち自身が足と地面の摩擦で動き、制動しているということ。これを私たち自身が理解していないこと。この心理的な無理解が幽霊を生み出し、そしてエアカーを生み出したということだ。
 
 かように、エアカーと大気圏を翼で制動する宇宙船、この組み合わせはまったくもって非科学であるし、それは神話と同じ心理的なものでしかない。このことからSFが科学でないことは明白である。あるいはフィクションの前に科学の名を冠するのであれば、エアカーと翼のある宇宙船を同時に登場させた小説はSFではない。断罪されるべき単なる異端である。

 これが論証されるべきことであった。
 
 
 ∧∧
(‥ )エアカーや
\‐  気圏内を翼で制動する宇宙船が
    登場する物語はSFではない
    だとすると
    スターウォーズは異端ですか?
 
  (‥ )あれは正統なSFで
      良いんじゃねーの?
 
 ∧∧
( ‥)なんで?
 
  (‥ )我こそSFなりなんて
      馬鹿で失礼なことを
      言ったりしてないだろ?
      だったら正統だよ
 
 SFというのは便宜的に作られた概念であり恣意的な定義でしかない。つまり実在はしない。存在するのはただひとつ。定義不可能なまま拡大した人間の創作という離合集散するネットワークだけである。それを恣意的に定義し、恣意的であるにも関わらず、これぞSF、これぞSF魂と抜かしよる。これは自分の心理とそれを生み出した神経を他人に押しつけることに他ならない。
 
 下品な言い様をすれば、これぞSF、これぞSF魂という主張は自分のチンコを相手に押しつけているようなものなのだ。弾劾されるべきはこれであった。
 
 

 

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