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2015年9月23日水曜日

位置と立場は相関する

 
 キリスト暦12世紀、アフガニスタンのゴール朝が北インドに侵入、征服に成功。しかし主君が暗殺されて混乱状態に。これを機に、当地を制圧した奴隷軍人が自立してインドの地にイスラーム政権を打ち立てる。いわゆる奴隷王朝。あるいはデリー・スルタン朝の始まり。
 
 *デリー・スルタン朝はこれ以後、ちまちまと成立した複数のイスラーム政権や王朝を総称する呼び名。
 
 ∧∧
(‥ )イスラーム世界は
\‐  自立心が旺盛な部族社会で
    彼らがいつ反乱を起こすか
    分からない
    だから
    イスラームの君主は
    購入した奴隷軍人を
    重用することが
    多かったのだよね
 
  (‥ )無敵のモンゴル軍を
      事実上初めて撃破して
      エジプト支配の基礎を
      作ったマムルーク朝だって
      奴隷軍人による
      王朝だからな
 
 
 そもそもマムルーク自体が白人奴隷の意味である。そしてマムルークなり奴隷軍人なり、彼らはしばしば中央アジアから購入されたトルコ人やその他、騎馬民族の子供や若者であった。古代と近代、その間の中世において、馬上から合成弓を自在に撃ってくる騎馬民族は最強の兵器になる。そりゃあ購入して雇うでしょう。
      
 ともあれ、インドは豊かな土地だ。北部の山岳地帯からたびたび異民族の襲来を受けた。デリー・スルタン朝のひとつで、15〜16世紀にかけて北インドを統治したローディー朝は、前の政権に仕えていたアフガニスタン軍人が創始したものだそうだ。
 
 ∧∧
(‥ )でもこれは次に侵入してきた
\‐  バーブルによって打倒され
    デリー・スルタン朝は
    これでお仕舞い
    そして
    キリスト暦16世紀初頭
    ムガール帝国が北インドに
    建国される
 
  (‥ )バーブルはその血を
      辿ればティムール
      さらには
      チンギスハーンに
      行き着く騎馬民族の
      指導者だよね
 
 
 もっとも時代は変わりつつあったので、バーブルは銃や大砲をたくみに用いたという。 
 
 それからおよそ200年後のキリスト暦18世紀初頭。未だに豊かではあるが最盛期を過ぎたムガール帝国に対し、イランを支配した暴君ナーディル・シャーが襲いかかってくる。この人物、中世イランを統治したサファビー朝ペルシャ皇帝を傀儡とすえた軍人で、勇猛果敢、公平にして残忍非道。ムガール帝国の大都市デリーを破壊して大虐殺を行い、帝国の富をほとんど略奪して持ち去った。
 
 そして、この侵略の口実は、ムガール帝国の皇帝がアフガニスタンの制御に失敗した、というものであったという。

 *ナーディルはあろうことか自分の親衛隊を皆殺しにしようとしたので、逆に親衛隊に殺され、バラバラに切り刻まれるという最後をとげたそうだ。ナーディル・シャーは日本では無名だけども、自分はあちら出身の人からこの人の物語を聞いたことがある。サファビー朝をないがしろにした暴君、デリーの虐殺、親衛隊に切り刻まれた最後。西アジア近辺ではかなり有名な人かもしれない。
 
 いずれにせよ、アフガニスタンをなんとかしろ! というナーディルの大義名分には、幾分かの理があった
 
 ∧∧
(‥ )これまた最盛期を過ぎていた
\‐  サファビー朝ペルシャは
    アフガニスタンから
    やってきた部族に
    短期間だけども
    支配権を奪われたことも
    あるんだよね
 
  (‥ )インドやイランにとって
      アフガニスタンは
      鬼門なんだよな
      どうしても制御の
      必要がある
 
 
 中央アジアがロシアに制圧されると、鬼門からやってくる脅威たちにロシア帝国が加わった。そして19世紀、ムガール帝国を滅ぼし、インドを支配した大英帝国は、ロシアの南下を防ぐ目的で、アフガニスタンにおいて数度の戦争を戦うことになる。
 
 ∧∧
(‥ )...なにも変わりませんね
\‐
 
  (‥ )同じ場所にいれば
      人は同じ立場に
      立つわけでな
      そりゃ同じことをする
      というか
      やらざるをえないわけよ
      位置と立場は相関する
      我々に自由意志はあっても
      自由自体は
      ないってことさ
 

   
 アフガニスタンに軍隊を進めて、勝ちも戦果も見えない戦いを行った君主や軍人や王朝や国家はひとつや二つではない。イギリスも、そしてアメリカも。反対に南下しようとしてひどい目にあったロシアもまたしかり。
 
 何度も同じことが繰り返されるとは、そうしなければいけない状況があるということである。
 
 アフガニスタンにおける戦いは不毛ではあるんだろう。そしてこれを愚かと笑う人は多い。
 
 確かに愚かだ。少なくとも戦果が見える当てすらなくてもやらねばならぬとは不毛であるには違いない。自分たちの仕事を思い出せば良い。義務と必要性とはしばしば愚かしく、そして不毛なものではないか。
 
 だが、この諦観から一歩離れて、
 
 愚かなことをしているからこいつらは馬鹿に違いないwww 
 
 と外野がただあざ笑うとしたら、それは物事が見えていないと言うのだ。
 
 笑っている人は、自分の人生を見回してみると良い。そんな人生をお前は本当に望んだか? そんな人生がお前の自由意志の結果か? 自由意志で掴んだのだというのなら、それは本当にお前の本心か?
 
 お前が義務と必要性に挑んだ人を笑った時、お前は何に対して目を閉じたのであろうか? 

 それは自分のどうしようもない人生から、目をそらす口実ではなかったか?
 
 愚かで不毛なことを笑うものではない。
 
 
 
 
    

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