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2015年11月1日日曜日

あの最後は50代以上以下で変わりますよねえ

 
 ∧∧
( ‥)例えばの話
 
  ( ‥)昔、ナウシカが
    ‐/ 完結した時
      研究者の人と話題にして
      あの馬鹿みたいな最後って
      一体何?
      という話になったよ
 
 ナウシカ漫画版では、最後に世界の謎が明かされる。

 腐海は汚染された地球を浄化するために作られた人工の生態系であり、地球浄化計画の一環として設計されている。

 ナウシカたちは汚染された環境で生きていけるように遺伝的に調整された人類である。これは人類存続のための必然の選択であったが、清浄な環境では生きていけない。

 これゆえ腐海が地球を浄化し尽くした時、ナウシカたち遺伝子改造人間はそのままでは絶滅してしまう。

 このため地球浄化計画の発案者たちは、清浄な環境に適応した新人類を用意した。
 
 浄化されていく地球の中で滅びゆく旧人類と新人類を円滑に置き換える計画である。
 
 そのための知識が人工の浄化神である墓に保存されており、そうした知識の中にはナウシカたち調整済み人間を清浄な環境に適合させる術も保管されている。
 
 これを見抜いたナウシカは計画に従う事を否定し、墓を殺し、人類の未来を進化にまかせる。
 
 ∧∧
(‥ )ナウシカさんの選択肢に
\‐  問題はないんだよね
 
  (‥ )こんなお馬鹿な計画に
      付き合う必要性なんか
      まったくないからな
      ちゃっちゃっと
      墓をぶっ殺して
      地球浄化計画なんか
      ぶちこわせばいい
 
 かように地球浄化計画を破壊、放棄することに問題はない。

 問題があるというか違和感があるとしたら、浄化計画の放棄をナウシカが悲壮な決断として行うこと、そして計画の破壊は人類を滅ぼすかもしれない、と考え、恐れることにある。
 
 ∧∧
( ‥)こんなんで人類が
    滅びるわけないじゃん
 
  (‥ )進化学や遺伝学をある程度
      知っている人間なら
      そう思うだろうな
 
 汚染された環境でないと生きていけない。清浄な環境では死んでしまう。
 
 何の問題もない。

 人間は顕在化していないだけで、無数の遺伝的な変異を持っている。腐海に浄化された清浄な環境が拡大すれば、それに耐えられない遺伝子のものは死に、耐えられる遺伝子を持つ人間が増えるだけの話。というか、普通に考えればナウシカの世界で早く死んでしまった子供たちこそ、次世代に数を増やす人々の候補ではなかろうか。
 
 ∧∧
(‥ )そしてそもそも地球浄化計画が
\‐  馬鹿丸出しであると
 
  (‥ )こんな計画がうまくいく
      わけねーからな

 
 地球浄化計画は一から100まで設定したデートプランのようなものだ。細かすぎて意味がない。
 
 細々と設定する必要なんてないんである。汚染物質を無力化することで汚染された土地でも生存できる人工生物を作る。結果的に土地の浄化が可能である。人間も遺伝的に改造して汚染された土地で生活できるようにする。それだけで十分。
 
 ∧∧
( ‥)あとはほったらかしに
    しておけばいい
 
  (‥ )状況は刻一刻と変わる
      だけど進化にまかせれば
      逐一対応できる
      反対に状況が変わるのに
      あらかじめ設定された
      枠内だけに
      押し込めようとすると
      おかしなことになる
 
 もちろん、それがナウシカという物語の後半で出てくる解決されるべき問題であった。墓からよからぬ計画が出てくる、それが世界に制限を与え、それが狂気を生んでいる。

 これはいってみれば出来もしない5カ年計画を執行部が逐一その通りに実行しようとするから、現場がどうにも混乱して、死者が出たり、あまつさえ、目標が達成できないのは反革命分子が存在するせいだと粛清が横行するようなものだ。

 かように地球浄化計画は放棄されるべきものであったし、かようにナウシカが計画の放棄を目論むのはまったく正しい。
 
 ∧∧
(‥ )だけども
\‐  放棄して当然のお馬鹿計画を
    ナウシカさんが
    無駄に深刻な顔をして
    破壊するから
    読み手からすると
    すごく違和感が出てくるのだと
 
  (‥ )あんなの
      鼻歌まじりに
      ぶち殺せば良いだけの
      話だからな
      敵が強大であるしても
      殺す側が
      人類を滅ぼすかも...と
      余計な心配をする必要は
      まったくないよね
 
 ただ、読み手からすると非常に珍妙に見えるあの最後、実は世代間の差なのだとも言える。
 
 ∧∧
( ‥)今の50代以下の
    人間からすると
    地球浄化計画は
    お馬鹿計画にしか
    見えないし
    ナウシカさんの決断は
    無駄に力がはいりすぎ
 
  (‥ )でもなあ50代より上
      本気でマルクス主義を
      信じた世代にとって
      ナウシカに登場する
      地球浄化計画と
      その破滅は
      ほとんど実体験だよね
      マルクス主義は
      それこそ
      決定論的な世界観で
      剛直で融通が利かず
      そして滅びたからな

 そもそもナウシカという物語の一面がそういうものであろう。軍事国家トルメキアが、巨大ではあるが多民族連合で寄り合い所帯の感が強いドルクへ進行する。

 これは独ソ戦。
 
 しかし、その戦争の最中に虫の津波、大海嘯が発生する。トルメキア遠征軍は壊滅、ドルク連合も解体してしまう。内紛が勃発し、難民が続出し、民族紛争が巻き起こる
 
 これはソ連崩壊とユーゴ内戦
 
 だがこの混乱を奇貨と見たトルメキアのヴ王は一路長駆し、マルクス主義の総本山であるソ連の首都モスクワならぬ、ドルク連合の聖都シュワを強襲、攻略する。
 
 ∧∧
( ‥)ヴ王さんは
    墓の秘密が欲しい
 
  (‥ )でもさ
      ヴ王の動機って
      よくわからんのだよね
 
 聖都を攻略した遠征軍は膨大な戦利品を得る。

 だが王はそれに見向きもしない。一兵に至るまで分配せよ、朕の目的は墓だ、と言う。
 
 さらに奇怪なことに、地球浄化計画に協力する対価として不老不死を提示されているのに、それをもヴ王は一蹴してしまう。
 
 ∧∧
(‥ )お金でもない不老不死でもない
\‐  失政は政治の基本だと
    言っているから
    処世術を知りたいわけでもない
    ヴ王さんが欲しかったものが
    さっぱり見えてこない
 
  (‥ )ただ分かるのは
      ヴ王が渇望していること
      そして墓の秘密を知って
      それに非常に強く
      失望しているって
      ことなんだよな
      逆に言うと
      ここ大事よね
      
 
 聖都シュワを征服したヴ王は欲しいものが得られなかった。そして地球浄化計画を前にして失望し、計画に協力などしないことを告げる。

 
 ∧∧
( ‥)平たく言えば
    マルクス主義の総本山の
    モスクワ詣でをしたら
    がっかりしましたと
 
  (‥ )あれってそういう話
      だよね
 
 そしてそこに乱入したナウシカが、こんな5カ年計画は破棄しまーす! 執行部は死ねー! そう告げて計画を破壊する時、ヴ王はそれに賛同し、執行部の反撃からナウシカをかばって死ぬ。
 
 ∧∧
(‥ )そう読むとナウシカの物語は
\‐  50代以上の人間の
    物語なのであると
 
  (‥ )それに対して
      50代はな
      マルクス主義に毒された
      上の世代と戦って
      遺伝子の生存競争で
      進化を説明する
      ダーウィニズムを普及させ
      勝ち取った世代なんだよね
 
 それを考えると、ナウシカの物語に対して50代の研究者が、なにこの最後?? と違和感と軽蔑を持ったことは当然であろう。

 新しい世代からすればナウシカにおける問題設定も問題の解決策もまったく当然で、ありきたりで、むしろ中途半端なのである。あの最後にあるのは、彼らがかつて打倒した色褪せた旧世代の残骸でしかないのだ。
 
 ∧∧
( ‥)でも50代以上にとっては
    自分が信じた世界観を
    血を吐くような思いをして
    放棄することだったのだと
 
  (‥ )つまりだ
      ナウシカの決断って
      50代以上には
      正視できないほど
      恐ろしいのだな
      だが
      50代以下には
      いやこんなの
      当たり前でしょ?
      なにが新しいわけ?
      なんでこんなに無駄に
      力はいってるの??
      となってしまうわけよ
 
 あの物語は、世代によって読み方がまったく変わってしまう物語であり、最後であろう。

 ちなみに、ナウシカの最後の評価は50代でかっきり分かれてしまうだろう、というのはあくまでも進化学者とかに焦点を当てた場合であって、一般的にはその限りではない。
 
 ∧∧
(‥ )一般的にはナウシカさんの
\‐  決断を批判する人は
    多いですよねえ
 
  (‥ )誰もが
      メンデル遺伝を学校で
      習っているはずなんだが
      それがどんな意味を持つか
      一般的には周知されて
      いないからな
      そういう理解で見ると
      ナウシカの決断は
      自殺行為に見えるだろうね

 *メンデル遺伝とは発現しない状態の遺伝子を蓄積するという効果を持つ。だから有害な変異さえ無数に保存できる。私たちは誰もが、発現したら死んでしまうような致死的なものも含めて、様々な変異を細胞にそなえているのだ。もちろん、メンデル遺伝の性質ゆえにこれは表立っては見えてこない。だがそれらは確かにそこにある、これゆえにこそ、自然淘汰の変化に人間は即座に対応できる。つまり浄化計画が放棄されても別に何も困らない。これに気づけるかどうかはメンデル遺伝の意味を理解しているかいないかによって違う。
 
 **逆に言うと、ナウシカも、ナウシカの創造主である作者もメンデル遺伝は知らないってことでもある。そうでなければあれほど決然と悲壮な決断をしたりはしない。ついでにいうと、銀河英雄伝説に劣悪遺伝子排除法という設定があるように、銀河英雄伝説の作者もメンデル遺伝を理解していないことが分かるだろう。このようにメンデル遺伝を理解していないとは、実のところ普通のことなのだ。これはつまるところ、私たちは進化を全然理解できていないということでもある。
      
 それにしてもこう考えるとヴ王は作者の分身であるということであろうか?
 
 ∧∧
( ‥)紅の豚のポルコみたいに?
 
  (‥ )そのせいかさ
      ヴ王かっこいいんだよなあ

 登場したのを見た時、クシャナたちが侮蔑して語っていたようなキャラじゃないじゃん!! 話が違うぞ?? そう思ったものである。
 
 ∧∧
(‥ )でも軍隊で一番人気なのは
\‐  クシャナさんなんだよね
 
  (‥ )やっぱ顔か?
      やっぱ顔なのか?
      世の中ままならんな
 
 
 
 

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