自己紹介

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2016年5月20日金曜日

男の宇宙は宿業なり

 
 余談めいた話をすると。
 
 世界にはそれぞれ文化があり、その文化はそこのルールだ。だから嫌でもなんでもそのルールに従わないと人は動いてくれない。
 
 ∧∧
(‥ )たとえおかしなルールでも
\−  それに従わないといけないし
    そのルールはおかしいから
    変えましょうといっても
    反発されるだけである
 
  (‥ )おかしなルールを
      変えるにしても
      それには
      そのおかしなルールに
      従わなければいけないのだ
 
 つまりこの話、hilihiliのhilihili: 勇者は酒盛りを開始したの続きでもある。
 
  
 例えば世の中には自分から見ておかしなルールを
 
 こんなのおかしいよ!

 と叫ぶ人がいる。それ自体は当然なんだが、彼らは叫ぶだけ、口先だけでうまくいかない。それは反発するだけでルールを利用しないからだろう。
 
 *こういうと、そういう風に旧弊を擁護する人間がいるから変革できないのだ! といつも他人のせいにするのもこの連中の特徴だ。
 
 これは要するに、ルールを使わないとそのルール自体を変えることができない、ということでもある。
 
 つまるところアメリカがイラク統治に失敗したのも同じような理由であろう。
 
 あるいはルールを変えるには、社会を変えねばならぬ。それには何世代もかかる。短期的な試みでは、変えようという力に対して、本来の勢いがまさって、短期的な試みが終わればすぐ元に戻ってしまうだろう。
 
 もしやるなら何世代も同じことを続けねばならぬ。
 
 ∧∧
( ‥)砂の惑星の神皇帝は
    それをやってしまう
    物語ですよね
 
  (‥ )3500年も暴政が続けば
      そりゃあ社会も変わるよな
 
 砂の惑星は作品時間内で5000年が過ぎ去っている。最初の主人公がいた世界は運輸を独占するギルドと諸惑星を統治する王家、そして抜きん出た軍事力を持つ帝室コリノ家、この三大勢力が均衡している状態だった。そしてこれはカーストによって凍結した世界でもある。

 移動はギルドに独占され、そのギルドは必要なスパイスの供給に制限され、それを管理する大軍事力を持つコリノ家の統治が続き、権力者はほとんど統制経済としか思えない状況を人々に強いている。

 最初の主人公ポウルは砂の民を率いることでコリノ家を打ち破る。こうしてポウルは、軍事に優れた民族でありながら圧政を強いられてきた砂の民に反抗の機会を与えることで、彼らの救世主となる。そしてコリノ家を破った以上、いまや彼こそが帝国最強の軍事集団だ。さらに砂の民の故地でありスパイスの供給源である砂漠を押さえた以上、ギルドも必然的に彼に屈服した。

 ギルドを意のままに操り、好きな時に好きなだけ、好きな場所に宇宙最強の軍隊を送り込める救世主。

 こんな恐ろしい宗教指導者が神としてこの世界に誕生した以上、その結果は明白である。あるいはこの世界の仕組み、それ自体が生きた聖者を生み出す恐ろしい可能性を秘めていたのだとも言えよう(メタ的に言えば、小説、砂の惑星は救世主ポウルを生み出すように設定された小説なのだ)。

 そして、政治と宗教が同じ車に乗り、それが生きた聖者によって動かされる時、何人もそれを阻むことはできない。

 聖戦が荒れ狂い、神たるポウルが開始したジハードによって数百億の人類が殺された。
 
 ∧∧
(‥ )でもポウルの息子である
\−  神皇帝はこれをも上回る
    暴政を行うのである
 
  (‥ )その目的はいわば
     砂の惑星という小説の設定を
     破壊することなのだな
 
 神皇帝はスパイスの供給を事実上、破壊してしまう。ギルドはその力が衰え、ほとんどの人類は生まれた惑星に孤立した。

 なんとかしてスパイス抜きで宇宙航行を出来るようになれないか?

 神皇帝の圧倒的な権力ですべての王家は事実上、消滅した。そして宇宙全体に渡る均一な圧政と強制的な平和。

 逃げたい。そしてもうこんな支配は嫌だ。
 
 3500年の暴政の果てに、ついに神皇帝が打倒された時、残された人類は宇宙飛行が制限されて孤立する一方で、新たな宇宙航行技術をついに完成させた。

 もう移動の自由をギルドに独占されることはない。
 
 しかも孤立した惑星はすべて一からそれぞれてんでバラバラに自立、発展した。これでは統一など不可能だ。それができないほど世界は多様になってしまった。

 こうして均一だった帝国は解体し、さらに皆が好き勝手に逃げ出した。3500年の暴政は全人類の記憶となった。もうあんな圧政は嫌だ。
 
 次々に人々は出て行き、そこで異なる集団がそれぞれ合流し、あるいは分岐し、あるいは融合して、さらに外へ外へ外へ…

 ∧∧
( ‥)こうして神皇帝打倒より
    さらに1500年後
    人類は均一などとは
    とうてい言えない
    異形の集団だらけとなり
    もはや唯一の支配に
    服することなく
    自由に宇宙を移動しそして争う
    混沌かつ多様な種族に
    なりましたとさ
 
  (‥ )まあ、言い換えればだ
      固定されて
      凍結してしまった社会から
      人類を解き放つ
      たったこれだけのことを
      するために神皇帝は
      3500年を生き抜いた
      わけなのよね
 
 正直言って、実にくだらない人生である。

 やらねばならぬことかもしれないが、人類を救うなどというくだらないことのために自分を犠牲にしたのみならず、3500年、配下も友人も次々に死んでいく中、たった一人で統治し、計画を遂行し、残るは自分を神と崇める信者のみ。

 これは狂気の沙汰だ。
 
 実際、神皇帝は自ら選んだこのくだらなさから逃れたいがために、見え透いた罠にはまり、そして打倒される。
 
 でっここまで踏まえて思う。
 
 ナウシカは砂の惑星のぱくりだと言う人がいる。
 
 もちろんそれは言い過ぎだろう。二つの作品に共通点などほとんど無い。
 
 とはいえ確かに、初期のスケッチには砂漠をいくユパ様のような人と、その後ろに妙に長いオームの原型らしきものが描かれていて、それにはサンドオームと書かれている。
 
 ∧∧
( ‥)砂の惑星の
    スパイスを生産する惑星
    アラキスにいる
    巨大な怪物サンドウォームを
    模したことは事実なの
    でしょうね
 
  (‥ )でもそれでぱくり
      言われてもな
 
 ともあれ、以上を考えてみれば面白いことに、砂の惑星の神皇帝と、ナウシカの土鬼帝国皇弟ミラルパは立ち位置が似ているかもしれぬ。
 
 ∧∧
(‥ )ミラルパさんも不死で
\−  100年は生きているよね
    そうして土鬼帝国を
    必死で切り盛りしてて
    でも体がもうぐだぐだに
    なってしまっている
 
  (‥ )正直者の兄である
      ナムリス皇帝に言わせれば
      最初はナウシカによく似た
      本当の名君だったけど
      民衆の馬鹿さ加減に
      うんざりして
      暗黒面に堕ちたんだよな
 
 神皇帝は3500年を耐えた
 
 考えてみれば、この設定、あまりにも非現実的だ。


 皇弟ミラルパは暴政とは言え義務を100年果たした
 
 こっちの方が現実的かもしれぬ


 神皇帝はついに人類の進路を偏向させることに成功した
 
 しかし、そんなことを彼がする必要はあったのだろうか?
 
 
 皇弟ミラルパは血を吐き、そして言う。余の苦しみは帝国の苦しみだ。

 いや、そんな義務を負う必要が、あなたにあったのだろうか?
 
 
 ∧∧
(‥ )似てると言えば似てるね
\−  そして神皇帝よりは
    ミラルパさんの方が現実的
    ですかねえ
 
  (‥ )神皇帝は設定を破壊する
      ためのキャラだ
      いっぽう
      皇弟ミラルパは
      ソ連をモデルにした
      土鬼帝国の
      スターリンだよな
 
 
 神皇帝とミラルパの違いは、作者の違いでもあるし、作品世界の違いでもあるんだろう。
 
 片や、救世主を生み出すためだけに作られた世界と、その救世主に破壊された宇宙を救うため、救世主を二度と出さない世界を! と立ち上がった暴君
 
 片や、ある年齢の知識人なら誰でもあこがれた地上の楽園ソ連とそれを統べる偉大なる指導者の栄光。そしてその真実の姿と大粛清によって、リベラルを気取った若者たちに挫折の苦い味をかみしめさせたその姿
 
 ∧∧
(‥ )この違いが
\−  両者の現実感の違い
    なのかもしれませんね
 
  (‥ )でもさ
      おかしなもんでよ
      両方とも女性に
      救われているんだよな
 
 神皇帝はそのためだけに作られた女性フウイ・ノレイに出会って救われ、そして破滅する。
 
 皇弟ミラルパはナウシカによって退けられ、ついには兄に殺される。しかしナウシカによって救われてその魂は成仏する。
 
 ∧∧
( ‥)なんだ?
    おっさんの世界観とは
    こういうものなのか?
 
  (‥ )ほほほほほっ
      宿業よのう
 

 
 
 

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