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2013年10月26日土曜日

うろ覚えではあるが、少佐の話はそういう事ではないと思う

 
 小学生の時、スピーチで校長が曰く、ドラえもんには死んでしまったイヌを生き返らせる話があります。でも漫画と違って現実で死んだものは生き返りません。命は大事なもので...

 
 ∧∧
( ‥)それ、しずかちゃんの
    飼っていたワンちゃんが
    ”死んだ”という回で、
    タイムマシンで時間を
    遡って、
    あらかじめ
    病気を治療した
    という話じゃなかった
    でしたっけ?
 
  (‥ )ようするにそもそも
      死んでないんだよね
 
 ”死亡”した前夜に戻ってシロに薬を呑ませる。死んだようになる、しずかちゃんが死んだと思い込む。”死んだ”から生き返らせてくれ、と、ドラえもんに頼む。
 
 つまりこれ、”死んだ”という事象自体が実は誤謬なのだ。だから病気の治療はしたが、そもそも死亡していない。だから治療したにも関わらず”生き返らせてはいない”。いわば死んだ者を生き返らせる、という最大のタブーをタイムパラドックスで回避した、そういう秀逸なストーリーではなかったか?
 
 ∧∧
(‥ )本当は要確認ですが、
\‐  少なくとも子供のあなたは、
    校長先生は
    いい加減なことを
    言ってるなあー
    そう思ったのだと
 
  (‥ )うろ覚えだが、
      そうだね。
 
 うろ覚えは要確認だけども、うろ覚えで書けば以上のように。
 
 ∧∧
( ‥)でも、なぜにこんな話を?
 
  ( ‥)ほら、攻殻機動隊って
    ‐□ あるだろ。
 
 漫画家の士郎正宗氏が執筆したコミック。
 
 第一話で、部長にいわば騙される形で、”働かせてもらえる孤児院”みたいな施設に主人公たちが突入をかける場面がある。
 
 僕らを助けにきてくれたんですね??
 
 と泣いて喜ぶ子供に、
 
 義務をまかずに福祉を食べる事か? 
 
 そう答える少佐。
 
 まあ、ようするに、そんなの自分でなんとかしろよ、そういう台詞を投げかけて、主人公である少佐は立ち去る。
 
 ∧∧
(‥ )ネットだと少佐の台詞は、
\‐   福祉にたからず、
     自分で生きろ、
     単にそういう意味だと
     解釈されて
     賛否両論ですよね。
     まあ、そういう意味
     ではあるのですけどね。
 
  (‥ )福祉にたかるナマポは死ね
      少佐の台詞に賛成ー
      その反対に、
      福祉を否定するとは
      なんてひどい登場人物
      なんだろう?
      あるいは曰く、
      この世界ってディストピア
      なんだろ? 
      とかね
 
 ディストピアもなにも、あの世界はひどい世界でしょうよ。核戦争があって、日本だけを見ても関東は完全に破壊されたままだし、沖縄は中国の核攻撃によって事実上、消失。それだけで終わらずに世界はまた再び大戦を行って、生物兵器、細菌兵器、毒ガス、あらゆる武器が使用された世界。それでも復興はとげて、とてつもなく巨大なビルが立ち並ぶ都市群、はるかに進んだ技術。生活は再び豊かになった。しかし人口は減ったままで、日本では色々な巨大企業が強大な力を持ち、後に続くアップルシードになると大日本技研、改め、企業連合ポセイドンが日本を牛耳り、かつての二大超大国、アメリカ、ロシアの後継国家が現在と同様に紛争へ介入すると、ポセイドンが見境無く武器を売りさばく。こんな世界でも福祉はあるし、しかし、福祉はあるが、それでもこういう世界だ。
 
 *ナマポ:生活保護の略、生保を読んだスラングらしい。ようするに”ずるがしこい不正な生活保護受給”を裏切り行為と見なした蔑称。あるいは不正受給者に対する蔑称として最近しばしば使われる。
 
 ∧∧
( ‥)攻殻機動隊の
    第一話だって、
    孤児を保護するといいつつ、
    その施設がしていることは
    孤児を低賃金でこきつかって
    電脳に接続して洗脳し、
    必要な設備を作らせている
    そういう実態であり、
    そこに突入する話ですしね
 
  (‥ )働きが悪い子には電撃の
      懲罰があるんだよな。
      施設突入前に、
      カメラ越しにそれを見た
      少佐が、うわあ、痛そう、
      って顔をしかめるのよね
 
 なんでこんなことをして問題にならないのかしら? と言うオペレーターに、この施設で作られる装置は必需品だからね、世間は残酷よ、と少佐が答える。
 
 *2013.11.01追記:以上の正確な台詞は
 
 なぜ人権擁護局が騒がないのかしら?
 
 ここで作っている浄水器は人権より重要だからね…. 大衆は残酷よ
 
 
 この後にあった台詞が、以上の、義務をまかずに福祉を食べる気か? であって
 
 そして物語はこれで終わらない。
 
 ∧∧
(‥ )確か、一コマ
\‐  後日談があって、
    少佐たちの突入以後、
    子供たち自身で施設を
    運営しているらしいことが
    示されるのですよね
    多分もう電撃もないし、
    洗脳もない、
    改善されているのですよ
 
  (‥ )でもどうにもならない
      みたいなんだよね。
      少佐に例の台詞を言われて
      「そんなー」って
      言ってた彼が、
      施設の経理かなんか
      やっていてな、
      今度は経理で頭抱えて
      これじゃ必要なものが
      何も買えないよー
      って嘆いてて、
      その脇では
      就業時間が終わったから
      あ、俺もう帰るわ、と
      言ってる子供がいる
 
 *2013.11.01追記 以上の一こまの正確なやり取りは、
 A:肉もエアコンも買えないよう もっと働いてくれよう
 B:あっ もう休憩の時間だ(おそらく昼食なのだろうけども、12時にはまだ至っていない)
 C:オヤツでないのはズルイ奴がいるからだな
 
 
 こういう描写も、今時だと、色々な評価をされるんだろう。
 
 社畜肯定だ、あるいは反対に、先に帰る奴は本当、裏切り者だよ、とか、あるいは、こんな労働環境しか許されない社会は間違ってる、そういう色々な立場、見解が沸いてくるんだろう。
 
 とはいえ、現実にはグローバル化ってのはこういうことでもある。
 
 ∧∧
( ‥)子供たちが作る機具は
    安いのでしょうね
 
  (‥ )必需品だけども売り上げが
      あまり良くない。
      それは利潤が少ないわけで
      つまり安いってことだし
      安くなければ
      子供をこき使う意味なんか
      そもそもないからな。
 
 
 状況は是正されたけども、それだけでどうこうなるわけがない。そしてそこまで面倒を見るのは、確かに主人公たち公安の役目でもない。
 
 現実を決定するのは低賃金で働く子供でもないし、命を張って突入する公安でもない。
 
 決定するのは、世間の”これが安いから買うわ”なのだ。
 
 ∧∧
(‥ )グローバル化って
\‐  極端に言えば、
    地球全体の格差が
    満遍なくすべての国で
    実現するってことですからね
 
  (‥ )例えば日本において
      時給10万の奴と
      時給10円の奴が
      同居する
      それがグローバル化
      なんだよねえ。
 
 実際、意地悪な言い方をすれば、100円ショップで物を買う人間や、国産の米は高いからベトナムの安い米が入ってきたら嬉しい、と言っている人間が、低賃金労働が悪だ、などと言って良いはずがない。それを買う、ということ自体が、他国の人間に極貧と恐ろしいまでの低賃金を押し付けている行為だからだ。
 
 あるいは”低賃金が悪だ”と言うのではなく、正直に、あるいはより正確に、次のように言い換えるべきなのだろう。
 
 俺が低賃金であること。それは許されざる悪だ。他は知らん。
 
 
 ∧∧
( ‥)まあ、その言い方だと
    問題ないですね
 
  ( ‥)それだと
    ‐□ 100円ショップで物を
      買ってもモーマンタイ
      あるいは
      メイウエンティーよ
 
 *モーマンタイ 無問題 (広東語)
  メイウェンティー 無問題 (北京語)
  どちらも”問題ないです”の意味。
      
 
 ともあれ、
 
 ∧∧
(‥ )ともあれ、あれですね
\‐   攻殻機動隊のあの台詞って
     やるせない話の
     一部でしかないんですよね
 
  (‥ )話はあっけらかんと
      しているし、
      登場人物は無駄なくらい
      前向きに生きているの
      だけどね、
      描写がろくなもんじゃ
      ないし、
      そのろくでなしさって
      ほぼ現実なのよな
 
 まあ、いくら現実に近くても、漫画は漫画、と言うことは出来る。冒頭で述べた校長のようにだ。それは事実であるし、しかし事実の全部でもない。
 
 ∧∧
(‥ )ともあれ、皆さん、安いものを
\‐   買いたがりますし、
     それ自体は当然ですよね
 
  (‥ )安いものを買って得したい
      福祉に金を払いたくない
      もっと賃金を上げてほしい
      支出を減らしたい
      矛盾して見えて、
      実際にはすべてが表裏一体
      むごいことよな。

 
 *2013.11.01以下追記
 
 ∧∧
( ‥)「攻殻機動隊」、
    見当たらないから
    買ったのね
 
  ( ‥)Amazonから本日到着だ
    ‐□ 初版を買ってたはずだが
      初版は1991年、
      もう22年前なんだな。
      色々うろ覚えだったから
      上の方では
      実際の台詞のやり取りを
      追記で引用しておいた
 
 大戦後に発生した戦災孤児を救済する福祉施設(作中での名称は「聖庶民救済センター」)、そのひとつ。後に部長が語るところでは私欲に走ったので、他の施設へのみせしめとして、突入の指示が出たことになっている。
 
 ∧∧
( ‥)漫画の世界に限らず、
    僕らの世界は
    皆が安いものを求め
    安く買う代わりに
    貧乏を誰かに押しつけている
    それが現実
 
  ( ‥)攻殻機動隊は現実の
    ‐□ パロディーなんだよな
 
 貧乏は、間抜けに押しつけられることもあるが、しばしば運の悪い人々に押しつけられることもある。彼らが食い物にされるのだ。作品の中で食い物にされたのは戦災孤児。
 
 食い物にされた子供は、必需品の浄水器を作っているはずなのに状況が改善しない、という現実に最後、直面する
 
 食い物にした施設の要員は、公安?? 馬鹿な? 公安部ごときに何ができる? 何も変わらんぞ?? と少佐に問う。
 
 食い物にした人々を逮捕した少佐は、「大衆は残酷だから施設の実態に目をつぶっている」、という事実をオペレーターには告げたが、子供には、義務をまかずに福祉を食べる気か? 後進国を犠牲にする気か? と言う。
 
 ∧∧
( ‥)でもそれだけではない
 
  (‥ )電脳にもアクセスできる
      じゃないか、
      未来を作れ、と言う。
      つまり、
      公安の仕事は犯罪の摘発で
      福祉の仕事でも
      就業の斡旋でもないし、
      これ以上は何もできない
      後は自分でやりなさい、
      少なくとも、
      電脳を持っている時点で
      それなりに優位なのだから
      まあ、そういう発言だよね
 
 確かに、先進国に産まれただけでも、これは相当に有利なことなんである(もちろん、先進国内部ではそれだけでは全員が同じスタートラインなので、その有利さはまったく実感できないし、その意味においては無意味に思えるのだけども)。
 
 ∧∧
(‥ )それを考えると、
\‐  攻殻機動隊って相当に
    手厳しいパロディーだ、
    とも言えますかね。
 
  (‥ )食い物にされた人、
      食い物にした人、
      それをとりしまった人、
      でも、
      その構造を作り出した
      大衆だけが、
      この物語では
      登場しないのだ
 
 なお、ぱらぱらと読み直したら、連載第2話、単行本では第3話に出てくるゴミ収集車の清掃員が、この「聖庶民救済センター」の出身であったこと、それが描かれていたことに気づき、思い出した。
 
 ∧∧
(‥ )センターにいた時の方がまだ
\‐  楽だった、そうぼやいてますね
 
  (‥ )子供たちを搾取していた
      施設とはまた別の施設の
      出身なのだろうけども
      やっぱやるせない話よな
      搾取される施設から出ても
      結局、大衆から貧乏を
      押しつけられる立場な
      わけだね。
 
 ちなみに、攻殻機動隊は映画化されたけども、確か、この「ぼやいていた彼」は映画に出てくる。洗脳されて自分は離婚調停中だと信じ込まされて、ハッカーに利用されていた男性として。
 
 ∧∧
( ‥)それ自体は、原作の通り
    なんですけどもね
 
  ( ‥)映画はねえ、
    ‐□ 自己の存在や証明
      そういう哲学的な
      側面が強調されて
      こういう社会構造や
      大衆の無自覚な残忍さは
      割愛されちゃったからね
 
 *なお、原作にはないが映画にあるのが、自分以外に誰も写っていない写真を家族写真だと彼が思っていた、その事実を知ってこの「ぼやいていた彼」が愕然とする、という描写だ。これはかなり有名な場面ではあるが、攻殻機動隊、本来のテーマとは全然関係ない場面だとも言える。
 
 **ついでに言うと、原作はもっとちゃらけた部分がある。ぼやいていた彼も、同僚に、「えー? 離婚問題の悩みが消えた?? なんで?」と問われて、ゴミ収集をしながら、消えたのー、真夏の悪夢って感じで、と答える場面がある。また、単行本化時に追加、加筆された部分ではいわゆるオカルトちっくな要素や神秘思想、超能力などといった要素も入っている。
 
 とはいえ、元の作品はこういう話なわけで、義務をまかずに福祉を食べる気か? という部分だけを取り出して非難するのは、いかがなものか
 
 ∧∧
( ‥)そういう受け取り方こそが
    まさにこの漫画で描かれ
    そして登場することが
    なかった大衆...ですかね?
 
  (‥ )構造と仕組みを把握せず
      言葉と困窮という事実
      これらのみを取り上げ
      非難をするが
      状況の根本原因である
      自分たち自身の
      改善には失敗する。
      そういう意味では
      そういうことかな
 
 以上のような解釈を、”漫画ごときを深読みし過ぎ”、”うがちすぎ”、と評することもできるが、たぶん、その評価は間違っているだろう。例えば単行本第10話には、「消費優先の生活こそが貧民国に対する暴力だわ」、という少佐の台詞が出てくる。こういう台詞は以上のような理解、つまり、
 
 ”私たちが安さを喜ぶ時、それは誰かに貧乏を売りつけていることである。それが搾取される者を作り出す”
 
 これがなければ出てこない。
 
 そうなのだ、安さを喜び消費生活をする人こそが、貧困を作り出すのである。そうである以上、そうした生活をする人々がいくら社会正義を唱えても、それはただの言葉でしかなく、当然、問題は解決できない。そしてそう考えないと少佐のもろもろの台詞は分からないし、説明もできないだろう。何よりそのままでは、他人の人生と命を食べる人食いのままで終わるのだ。
 
 
 追記した2013.11.01の部分よりは時間的には前になるけども、次へ続く=>hilihiliのhilihili: 人生とは単なる牢獄 だが、馬鹿げているがこれを使うしか無い
 
 
 *後、少佐が「興進国を犠牲にして」と原作で言っているのだけど、これは「後進国」の誤植だろうか? 意外と漫画は版を重ねても誤植がそのままであることが多く、以前見た「かってに改蔵」も新装版だというのに妙な誤植があった。
 
 ∧∧
(‥ )意外と漫画は誤植を
\‐  直さないのですかね?
 
  (‥ )まあ、おいらも
      誤植を見逃したことは
      あるんだけども。
 
 
 
   
 

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