自己紹介

イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック

2013年10月29日火曜日

鍋の中の虫と語る

 
 夢を見た。ひどい夢だ。
 
 道に迷っていた。いつものように夢の中で道に迷っていた。しかし、いつものような道ではなかった。風景と道は家の周辺を思わせたが、居並ぶ建物は全然違っていて、中に入って昇降機を使おうと乗り込むと、こじゃれた外見と裏腹にエレベーターというよりもむしろ貨物リフトを思わせるものだった。しかも動くと同時に突然暗転し、えっと思う間もなく、ゴミみたいに土もろとも放り出され、気がつくと坂の脇に半ば埋もれていた。
 
 確かに昇降はさせてもらえたようだがひどい有様だ。周囲の土に埋もれるゴミは、幸いなことに何か古着のようなものや、あるいはぬいぐるみだった。一体全体どうしてこんなことに? 土から這い出るように立ち上がると、右手に何か握っていた。どうも無我夢中のうちにつかんでいたらしい。
 
 なんだろう、でっかい人形なんだが、ずいぶんぞんざいな作りだ。時々あるチープだけど手作り感のある、手足は紐で、ディフォルメされたような、そういう人形。
 
 ただ、大きさが等身大だ。おかげで異様な迫力があり、そして髪は大変なボリュームで、そこだけは丁寧によく出来ていた。
 
 赤いワンピース、そして金髪のツインテール。顔は...、顔はまるで分からなかった。どうも自分の脳が顔まで描写するのは面倒くさいと言わんばかりに、髪の毛は分かるが、顔が分からない。というか認識できない。首をひねっていると自動車が目の前に停止した。えらく車高の低いオープンカーで、というかこれは本当に自動車なのか? 四輪ではあるし座席もあるが、誰も乗っていない。代わりに、左の座席の前に鍋のようなものがあって、それが、ぱかっと開くと黒い虫たちがうごめいていた。
 
 そのうちの一匹がしゃべった。いや、しゃべったように見えた。そのお人形をゆずっていただけませんか? 私、人形の収集家なのですが訳あって人前には出られません。そこで虫たちを乗せて遠隔操作で車を使い、人形を..

 
 理屈が分からん。だが、望みは分かった。ああ、これは私のものではないのです..そう説明しようとすると、わあ、虫がしゃべってる〜と通りがかりの親子連れが寄って来た。
 
 途端、虫は黙り、おかしいなあ、しゃべらないや、とやいのやいの言う親子に、ああ、そりゃあ虫ですからしゃべりませんよ。虫はしゃべったりしません。そう自分が言うと彼らは立ち去っていった。
 
 いきましたよ、いきましたか、そう話を続けようとすると、親子連れはぴたっと立ち止まって振り返り、やっぱりしゃべってるー、と
 
 うざい親子だ。
 
 引き返してきたこの連中をどうしようか、と思っていると、途端、フライパンのような容器の虫たちがもがきだし、まるで火をかけられた鍋の上ででもあるかのように暴れて、そして動かなくなり、興味の失せた親子もいなくなった。
 
 一人残され、どうしようと思っていると、動かなくなった虫たちの脇にある小さなブザーのようなものが音を立てた。まるで電話の呼び出し音のように。手に取ると、それは確かに受話器のようにはずれた
 
 もしもし?
 
 ああ、私、先ほどの虫を代理にしている....

 やはり訳が分からない。しかしなにより深刻なのは彼の説明の内容がちっとも本題に入らないことだ。
 
 突然、自分にはもう時間がないのだ、ということに気がついた。
 
 待って! まだ話が...、相手も気づいたらしい。だがすでに遅いのは明らかだった。どうやってどこに送ればいいんです? この車にこの人形を入れればいいんですか? ああ、でも、もう駄目だ、
 
 待って、もう少し...と相手の声は聞こえたが何もかも手遅れだった。認識ではなく自覚が脳を駆け巡るのと同時に、目の前の風景は急激に色褪せてコントラストが不鮮明になり、あっという間に細切れになるとすべてが真っ白となって....
 
 眼を開けると、そこは自分の部屋
 
 ∧∧
( ‥)何? このおかしな夢
 
  (‥ )知らんよ、
      こんなの初めて見た
 
 ちなみに、
 
 ちなみに虫はどう見てもユキシリアゲムシだった
 
 =>ユキシリアゲムシ
 
 
 

ブログ アーカイブ