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2016年9月18日日曜日

物書き術とは自然淘汰による絶望的な結果なのである

 
 
 進化論などは典型的な例なのだが、一般人と研究者の間では、学問に対する認識がしばしば正反対である。
 
 一般人やサイエンスライターの世界では、ダーウィニズムは否定され、今西進化論や断続平衡説、中立説が相並び、今や百家争鳴状態にある。だいたいこんな認識だ。実際、これを真面目に書き立てたサイエンスライターがいたのだった。
 
 だが研究者の世界では、ああ、正しいのはダーウィニズムですよね、で話は終わりだ。*中立説は、ダーウィンが注目し解決を試みた問題解決に成功した、というのが正しい。中立説は一部知識人が勘違いしているようなダーウィニズムの否定ではないのである。
 
 ∧∧
(‥ )だがこうした正しい知見は
\−  一般というクラスターには
    まったく
    浸透しないのである
 
  (‥ )これは
      サイエンスライターの
      問題なのだが
      読み手の問題でもあるのだ
 
 
 実のところ正しい見解、少なくとも現段階で一番手堅いと思われる仮説や理論、理解や知見を知る方法は実に単純である。大学向けの教科書、あるいはそれに準じる専門書を読めば良い。
 
 ただし、こういう本は読み手。つまり買い手が少ないので高いことが多い。だいたい3000円以上、5000円とか7000円だ。
 
 ∧∧
( ‥)要するに読み手は
    高い本を買わないから
    正しい知見に行き着くことが
    できないのであると
 
  (‥ )理由は単純なんだよ
      これはライターも同じでな
      安い本しか買わないんだ
      めんどうくさいし
      支出を抑えたいからな
  
 つまり、

 間違いを書いた安っぽい本がある。

 ライターはそれを買って参考にして間違った安っぽい本を書く。

 そして別のライターが同じことを繰り返す。

 これが何世代も続いてきたのである。


 ∧∧
(‥ )このぐるぐる渦巻く世界から
\−  離脱できた人は事実上
    いなかったと
 
  (‥ )いることはいるけど
      そういう人は教科書の世界
      という別世界に入って
      安っぽい間違いの世界とは
      まったく隔絶してしまう
      そしてお互いに
      影響を及ぼさない
 
 単純にいうと、

 一般の人が心に思い浮かべる理解の世界(実際には間違っている)
 
 と
 
 科学が検討し提案した理解の世界(現時点では一番妥当とされる)


 の間には5000円の壁があるってことだ。
 
 5000円。たったこれだけのことを、誰も突破できない。
 
 
 二つの世界の間にそびえるこの5000円の壁を破壊し、知識の正しい普及につとめるべきと期待されているサイエンスライターも、この役割を果たすことは一切なかった。
 
 ∧∧
(‥ )なんででしょうね?
\−

  (‥ )やっぱ
      めんどくさいからだろうな
 
 
 この前、ふとしたはずみで知っているサイエンスライターが書いた古い本を読んだ。時代は1990年。当時その人が34歳で書いたものだ。
 
 正直驚いた。34歳でここまでたくさんの文献を読んで縦横無尽に知識をきらめかせ、記事を書く。普通の人間にはまったくできないことだ。彼は自信過剰な人間だったが、これを見るとそういう自信を手に入れたのも分かろうというものだ。
 
 しかし、この記事を読んで自分が愕然としたのはこのことだけではない。
 
 ∧∧
(‥ )この記事の何がすごいって
\−
 
  (‥ )ここまで調べたのに
      正しいことが
      何一つとして
      書かれていない
      そこなんだよな
 
 正統な意見を聞きかじりで紹介し、正統論に問題点があると勘違いして指摘し、科学者が相手にしないマイナーな仮説を持ち出して、これこそが真の解答だ! これが次にくる理論だ真実だ! と締めくくる。
 
 ∧∧
( ‥)まあ物書き術の真骨頂では
    ありますよね
    これが模範解答であると
    まずは紹介する
    そして紹介した後で
    実はこの模範解答は
    間違っている!!
    なっなんだってー??
    と読者にゆさぶりをかける
    そうして読者を不安にしてから
    トンデモを売りつける
    ライターの典型的な手だ
 
  ( ‥)意図的な詐欺ではないのだ
    −/ 俺は彼のことを
       知ってたから言うけど
       彼は実のところ
       自分の見解を
       本気で信じていたからね
 

 彼は悪い意味で最悪のオタクだった。とにかく皆が知らない知識を誰よりも早く知って、それをひけらかしたくてたまらない。

 彼は単純に、誰も知らない自分だけが知っている知識をあなたに教えます、というやり方で、自分自慢をしていただけではなかろうか?
 
 そして結果的に、その行動が詐欺師のような効果を生み出した
 
 ∧∧
(‥ )でももっと即物的に言うと
\−
 
  (‥ )やっぱな高い本を
      買ってないんだよ
      彼の蔵書に教科書を見た
      覚えは無いし
      読んでいたらあんな記事は
      書けないよ
 
 ∧∧
( ‥)論文収集には何十万も
    使ったけども
    5000円以上の本を
    買うことはありませんでしたと
 
  (‥ )教科書ってさ
      買うのも大変だけど
      読むのも大変なのだ
      教科書に書かれた
      たった1行のくだらない
      知見には
      その知見に至った
      無数の論文と議論があり
      そこには
      研究者の了解がある
      それを把握するのは
      論文を単純に集めるより
      大変だし重労なんだよ
 
 そして当然なんだが、教科書はつまらないのである。教科書には劇的ということがない。教科書にあるのはつまらない知見の累積だ。

 少なくとも一般人にとってはそうであろう。

 そして教科書を買いて売れるか?
 
 もちろん売れない
 
 では記事を売りたいライターはどうする?
 
 ∧∧
(‥ )教科書を読まずに
\−  自分の思い込みと勘違いを
    書けば良い
 
  (‥ )サイエンスライターだの
      科学ジャーナリズムだの
      ライターってのはな
      この自然淘汰に
      全員負けたのさ
 
 誰もこれに逆らえなかった。さもなくばすでに述べたように、この自然淘汰で有利になるような個体、つまり

 教科書の”間違い”を思い込みで発見してそれを書き立て、読者を不安にしてからトンデモを売りつけるという個体

 が選別されてきた。
 
 つまり状況はどうにもならないのである。
 
 ∧∧
( ‥)つまり物書きの極意とは
 
  (‥ )調べずに書け
      勘違いして批判しろ
      読者を不安にして
      トンデモを売りつけろ
      だな
 
 そしてこれこそが分かりやすい文章を書く極意なのだ。

 というわけでライター諸君。諸君らはただ自然淘汰に身を任せれば良い。

 そのうち自然と自分もそうなる。この自然淘汰に逆らえた者はいない。
 
 
 

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