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2015年1月6日火曜日

劣悪遺伝子の排除とは無茶な設定です

 
 銀河英雄伝説という大ヒットした小説がある。本編の時代自体は独裁制を敷く帝国とそれに叛旗を翻した共和国の戦い、というものなのだけども、発端は銀河連邦の独裁制への移行と、帝国の成立であった。
 
 長く爛熟した時代を過ごしていた連邦に軍人あがりの政治家ルドルフが現れる。彼は国民の圧倒的な支持を得て首相になり、さらに独裁権を握り、ついには皇帝を自称した。これが帝国の始まり。そして彼は数々の圧政を強いるのであるが、その中のひとつに有害な遺伝子を排除することを義務づけた劣悪遺伝子排除法というのがある。
 
 ∧∧
(‥ )実はこれトンデモ設定
\‐  ですよと
 
  (‥ )銀河英雄伝説というと
      話の都合上
      登場する居住惑星は
      重力や環境どころか
      四季まで同じなんで
      あんなのご都合主義な
      宇宙三国志じゃないか!
      そう揶揄する人もいるが
      劣悪遺伝子排除法の方が
      設定は無茶なんだよな
 
 物語自体はかなり簡略化された民主主義 VS 独裁制、という話であり、それぞれの政体の長所と短所が述べられる。民主主義の欠点は例えば衆愚政治であり、そもそもその延長に本編の独裁制が生まれてくる。現実世界の政体の変化は実際にはそこまで単純ではないし、多分、間違ってさえいるのだろう。とはいえ、衆愚政治と独裁者という構図を体現したのがルドルフというキャラクターだ。彼はいわば劇画化されたヒトラーで、そういう意味では現実感があまりない。男の妄想を詰め込んだアイドルのような、無茶設定の集合体だと思えば良い。
 
 優生学やナチスの収容所を思わせる法律を施行するのもその一環だと言える。
 
 しかし実際のところ、優生学的な人類の改良計画とは、ご都合主義設定としてもあまりにめちゃくちゃである。口うるさいSFマニアが言う、居住惑星がどれも地球と同じというのは、そういう星を選んだからです、宇宙はあなたが思っている以上にずっと広いのですよ、そう言い逃れることができるだろう。
 
 だがしかし、劣悪遺伝子排除法は言い逃れができない。なぜかというに、そもそも有害な遺伝子は誰でも持っているからだ。
 
 ∧∧
(‥ )ルドルフさんは
\‐  人類改良計画を打ち出した
    わけじゃないから
    悪法を敷いた独裁者という
    キャラ付け程度の意味で
    考えれば
    これはありだけども....
 
  (‥ )とはいえやっぱり
      無茶なのは変らん
      劣悪遺伝子排除法とは
      理論上、人類の全員が
      排除の対象になる法律で
      あるからね
 
 実際、物語中でこんな場面があったと思う。
 
 劣悪遺伝子排除法が施行された時、さすがに人々はたじろいだのである。なぜなら自分が劣悪な遺伝子を持っていないと確信できなかったからだ...

 
 という描写、これが間違いなのだ。なぜなら、全員が有害遺伝子をすでに持っているのだから。

 *2016.07.28追記:例えば1万人に1人の奇病でもそれは100人に1人が持っている割とありふれた変異なのであるが、それはここで説明する=>hilihiliのhilihili: 無駄な理論武装よりは経済を
 
 
 ∧∧
( ‥)そもそも優生学が
    意味を失ったのは
    ひとつにはこのせいだからね
 
  (‥ )全員が致死に至るような
      有害な遺伝子を
      色々と持っているのに
      有害遺伝子を排除せよって
      なんだよその無茶ぶり
      お前は馬鹿じゃないのか?
      という話でな
 
 つまりルドルフさんは未来人でありながら、現在の遺伝学がすでに明らかにしたことを知らないのである。言って見れば現代人が天動説を信じて地球は平らですと信じているような中世的時代錯誤だ。彼が知らないにしても誰かがこれを知っているはず。帝国のスタッフは、「大帝、それは無理です」 と言わなければおかしい。
 
 でもこの無茶な設定から推し量れることがある。
 
 銀河英雄伝説の著者は、自分も含めて人類の全員が有害遺伝子をすでに蓄積して持っているということを多分知らない。
 
 おそらく読者のほとんども知らないであろう。
 
 そしてそれは例のこの話=>弱者を抹殺する。不謹慎な質問ですが、疑問に思ったのでお答え頂ければ... - Yahoo!知恵袋
 
 を見ても明らかである。
 
 ”人間が種として持っている生存戦略は弱者保護による有害遺伝子の蓄積”にあるという回答は、回答者がこれを知らないことを示唆している。
 
 また、この回答はネットで素晴らしい! と評価されているが、このことからやはり分かることがある。
 
 素晴らしい! と言った人も、自分たち自身も含めて、人類の全員が有害遺伝子を、いわば貯金としてすでに蓄積しているということを、おそらくは知らないであろう。
 
 ∧∧
(‥ )こういうことは義務教育では
\‐  習わないからね
 
 (‥ )メンデル遺伝は習うのだがな
     メンデル遺伝の必然的な
     結果として
     全部ではないにせよ
     有害遺伝子は
     通常の遺伝子によって
     効果が見えにくくなる
     つまりマスクされてしまう
     これを知らんのよな
 
 実際、こんなことを言う人がいるではないか。
 
 淘汰が起こると進化が起こる、そう科学者は言うけども、それっておかしくね? 淘汰が起こる時にどうして都合良く変異が起きるんだよ? なんだよそのご都合主義? 進化論っておかしいよね。ダーウィンの進化論ではないもっと別の進化論があるんだよ。そういえばウイルスの感染で進化が起こるとか、獲得形質を肯定するエピジェネティクスってのがあるんだろ? それが進化の原動力なんじゃね?
 
 この言い様は進化に対する勘違いのありがちな例である。突っ込みどころは山ほどあるが、特に大きいのはやはり、変異はすでに貯金として我々の中にある。それを知らないことだろう。
 
 有害どころか死をもたらす有害遺伝子まで我々の中にはあらかじめ保存されている。他にも色々なものがある。淘汰が起これば即座に対応できるのは当たり前だ。出来ない方がおかしい。
 
 ∧∧
( ‥)つまり人々のほとんどは
    このことを知らないのだと
 
  ( ‥)進化論を理解できない人
    ‐□ 優生学をいまでも
      まじめに考えている人
      反対に
      人間の生存戦略は
      有害遺伝子の保護にある
      そう信じている人
      それを聞いて素晴らしいと
      感嘆する人々
      銀河英雄伝説の無茶設定
      これらはすべて同じことを
      示唆しているのだろうな
      
 
 これはhilihiliのhilihili: それは一律に塗りつぶす理解ですが、それで良いのですか?の続き
 
 
 
 

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