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2015年1月11日日曜日

あなたを認めてくれる統制があなたの望み?

 
 昔こんな番組を見た。
 
 ライオンは雌が群れを作り、雌が狩りをする。
 
 ライオンの雄は狩りはしないが、群れを守る役割を果たす。
 
 しかしやがて若い雄ライオンが現れて、それまでいた雄ライオンを倒し、群れから追い出す。
 
 新しい雄ライオンは、雌ライオンたちが育てている前の雄との間に出来た子供を皆殺しにする。
 
 ひどいように見えますが、これも強い個体を残して種を強くするために仕方がないことなのです。
 
 ∧∧
( ‥)番組はそう説明したけど
    それは間違いだよね
 
  (‥ )個体は種の事なんか
      考えて
      行動したりはしないからな
 
 いや、考えることは可能なのだ。単に不安定だから消えるだけである。
 
 実際、種全体のことを考えて皆のために利益を供与しよう。そういう行動を行なう個体がいたとする。
 
 厳密には他人のためになる行動を行なう遺伝子を持つ個体、となる。
 
 そんな遺伝子とそれを持つ個体がいても、すぐに消えてしまう。
 
 ∧∧
(‥ )そうは行動しない他の個体に
\‐  たかられてお返しももらえずに
    食いつぶされて
    終わりだからね
 
  (‥ )他の個体の利益になる
      行動を司る遺伝子は不利だ
      食いつぶされて終わり
      個体ごと死んでしまうから
      そういう進化は起きない
 
 もちろんこういう、”他の個体にたかられて終わり”、という状況を突破する方法も幾つかある。

 だがしかし、それはようするに他人のために振る舞っているようでいて、他人に奉仕しているその本人が一番大きな利益を得ている、そういう場合である。
 
 アリや社会生活を行なうハチがそういう例。
 
 もうひとつ、異論はありえようが、無償奉仕する自分を仲間に見せつけて、しかるべき地位を要求し確保している場合があるらしい(地位の高い人間が食事をおごるような感じ)。
 
 いずれにせよ、行動と利益には複雑な関係があるから、色々な抜け道がありえようが、まあ、原則そういうことだ。世の中には個体の淘汰だけでなくもっと大きな単位の淘汰も起こるのだ! マルチ淘汰があるのだ! と主張する人もいるが、まあこの考えはそう言っている人がいるよね、という程度の話で、認められているような状況ではない。つまり理論として成果が上がっていないのだ。そういう見解を論ずる必要はなかろう。
 
 ∧∧
( ‥)でっ、以上を踏まえると
    冒頭のライオンの行動は
    非常に単純ですよと
 
  (‥ )雌が群れを作る
      だったら
      雄ライオンは雌の群れを
      支配した場合
      女の子たちを全員
      独占できるわけだ
 
 つまり、人間が妄想するようなハーレムである。もっとも雌からすればこの雄は他所から押し掛けてきたただの闖入者だとも言えるので、人間が考えるようなモテモテかというと、そういうものではない。
 
 しかし、子づくりで大成功できることに違いはない。
 
 *ちなみにライオンの群れはプライドと呼ぶから、ハーレムと例えるのは適切じゃないかもしれないけど、まあ、ここではハーレムとする。
 
 ∧∧
(‥ )でも他の雄も同じことを
\‐  考える
    ハーレムで大成功を
    全員が考える
 
  (‥ )つまりそれまで
      雌の群れを支配していた
      雄を倒し
      群れを乗っ取る
      そうすると女の子を独占
      自分の子供をたくさん
      生ませることができる
      だったらそれをする
      全員がそれを行なう
 
 生物が行なっている生存競争、これは試合に腕力で勝てば良い、というものではない。ゲームの勝敗は、子孫をどれだけ残せるかで決まる。ダーウィンはそういう意味を込めて生存競争を”存続をめぐる争い”と表現した。
 
 女の子の群れを自分のものにすれば、自分の子供をたくさん生ませることができる。雄ライオンの場合、ゲームの勝ち負けはここにかかっている。
 
 問題は、全員がそう考えて挑戦し合うので、女の子を独占できるのは本当に短い期間だってことだ。
 
 ∧∧
(‥ )以前論文を読んだら
\‐  平均して1年と半年しか
    もたないそうですよね
 
  (‥ )ぎょっとしたよなあ
 
 しかも、これ、困ったことに雌ライオンが子供を育て上げるのにかかる時間とほぼ同じなのだ。さらに言えば、その間、雌ライオンは新しい子供を作ってくれない。
 
 ∧∧
( ‥)つまり前の雄ライオンを
    倒した新しい雄は
    雌の子育てが終わるのを
    待っている時間がない
 
  (‥ )だったら子供たちを
      殺してしまうのが
      手っ取り早いのだ
 
 理由は単純だ。子育てが終わるのを待っている紳士的な雄は、自分の子供が作れる時間がないまま追放される可能性が強い。進化のゲームは、子孫をどれだけ残せるかで決まる。だとしたらそういう待ってあげるライオンの遺伝子は消えてしまう。
 
 残るのは前の雄の子供を殺す遺伝子である。
 
 当然、雌ライオンはこれに抵抗するが、雄ライオンは遅かれ早かれ子供たちを皆殺しにしてしまう。
 
 ∧∧
(‥ )ところがそうなると
\‐  雌ライオンはただちに発情して
    新しい雄ライオンを受け入れ
    新しい子供を作る
 
  (‥ )番組の解説者が
      そこに一番
      ショックを受けて
      呆然としていたのが
      印象的でな
 
 たぶん、自分の子供を殺した男と寝るなんて! ということなのだろう。
 
 だがしかし、雌ライオンからすればそんなこと言っていられないのだ。私の子供を殺した雄なんていらない! と拒否したら、その雄が別の雄に倒されるまで子づくりを待たねばならない。
 
 ∧∧
( ‥)そんなことしていたら
    生涯に作れる子供の数が
    顕著に減ってしまうよね
 
  ( ‥)雌ライオンは
    ‐□ 人間の価値観に従って
      いられないんだよな
 
 ライオンの子殺しは単純に言って、以上のように進化理論で説明される。
 
 しかし、一部の知識人や文化人、あるいはマルクス主義者も含めて、彼らは子殺しを説明できる進化理論に軽蔑のまなざしを見せた。
 
 彼らは言った。進化理論は子殺しのような非道を正当化する理論であると。ゆえにそれは間違っているに違いないと。
  
 だが、その理屈でいうと、犯罪や事故の原因を説明できる理論は非道を正当化する間違った理論だ、ということになる。
 
 彼らの言っていることは間違っている。というか、連中は頭がいかれている。
 
 だが、ライオンのこういう行動、他の男の子供を殺し、あるいは自分の子供を殺した男と寝て子供を作る、こういう計算づくの行動にとまどいを覚える視聴者が多いのもまた事実である。
 
 このような時にテレビ番組が見せた説明が、ライオンの子殺し、これは強い個体を残して種を強くしようという本能なのです、という説明であった。
 
 だがしかし、この手の説明は非道どころの騒ぎではない。これは集団の質を下げる弱者は抹殺しろ、という主張なのだ。ナチスのガス室も、スターリンの収容所もびっくりの説明である。
 
 ところが、これに対して異論が出たという話を聞いたことはない。
 
 進化理論を非道だとか言っていた連中が文句を言ったという話も聞かない。
 
 ∧∧
(‥ )単に知らなかった
\‐  だけなのでしょうけどね
 
  (‥ )だがな
      本当にそれだけか?
 
 
 マルクス主義者はしばしば個人は全体に奉仕するべきだ、と述べた。実際、スターリンのやったことを見れば、正反対の立場と言われたヒトラーやファシズムと表裏一体、鏡に写った己自身のように全体主義であった。
 
 あるいはこうである
 
 自由、権利、民主主義、なんでこんなことも分からないのか? そう怒っていた人が、人間の弱者保護は人間が種として持つ生存戦略であって当然なのです、という説明に諸手を上げて賛成するのを見た。
 
 これは一体なんであろうか?
 
 自由を主張しつつ、集団全体を統括する司令部を認めて、その指令にそむことは許さないと無邪気に主張する。
 
 あるいは、自ら正しいと信じる道徳が遺伝的に正当化されていると聞いて、喜びに天まで舞い上がる、これもまた種全体を統括する司令部と、その命令に歓喜している。
 
 これは一体なんだろうか?
 
 個体がどれだけ子供を残すのか? そういうルールで子殺しを説明する進化理論に対し、露骨に嫌悪感を示す連中が、集団全体のために個人はこうするべきだし、弱者保護は遺伝的に決定された人間の性質なのだと説明されると、今度は一転して舞い上がる。
 
 この構図は一体全体なんだろうか?
 
 自由と言いつつ、集合に奉仕する事を求め、集団全体が均一に遺伝子の命令に従っていることを賞賛する。
 
 これはなんであろうか?
 
 ∧∧
( ‥)単に自分にとって
    都合の良いお話を
    集めただけ?
 
  (‥ )おそらくはそうだな
 
 自由とか言っているくせに、自分は人間という種が定めた遺伝子の命令に従っている、それが道徳的なのである、そういう言説を無邪気に信じ込んで賞賛する。
 
 自由が欲しいとか言っているが、それは本当なのか?
 
 お前が求めていたのは自分を認めてくれる世界。自分の価値観を肯定してくれる世界ではなかったか?
 
 確かにお前は、お前の考えを認めてくれない世界からの自由を求めた。
 
 だがしかし、本当に望んでいるのは、あなたを認めて受け入れてくれる統制ではなかったか?
 
 お前が本当に好きなのは自由じゃない。自分が理想とする全体主義ではなかったか?
 
 だって、そうでもなければ種の統制という主張に舞い上がったお前の心理を説明できないじゃないか。
 
 
 
 

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