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2016年3月1日火曜日

かくて物語は神話へと復帰する

 
 人は曰く、今時は漫画もラノベも血統、血筋。皆、あきらめてしまったのか? と。
 
 
 だが、考えてみれば、血統、血筋の対義語である、努力、友情、勝利。そもそもそんな作品、物語があったであろうか?
 
 ∧∧
(‥ )ドラゴンボールですかね?
\‐   修行するし
    宇宙人である点では
    血統だけども
    ベジータ王子と違って
    主人公は下級の出だよね
 
  (‥ )ドラゴンクエストの勇者は
      レベル1からこつこつ
      頑張るよな
      もっとも伝説の血を引く
      勇者なんだが
 
 いずれも30年前の作品であり、すでに1世代が経過している。
 
 ∧∧
(‥ )それを考えれば
\‐  努力、友情、勝利自体が
    厳密な意味では存在しなかった
    あるいはそれに近似だった
    存在しても
    無視できる程度だった
    そういうことだよね
 
  (‥ )小学生の時に
      図書館にあった冒険小説を
      片っ端から読んだことが
      あったけども
      巻き込まれた主人公が
      運良く勝ち残って
      帰ってくる話が
      ほとんどだったよなあ
 
 確かに、あなたには才能があるから、とか、ひょんなことであるものを身につけ、それがもとで採用されて異世界へ羽ばたく、とかそういうのはあったと思うけど。
 
 ∧∧
( ‥)努力、友情、勝利なんて
    見た事ありませんと
 
  (‥ )むしろ血統は
      少しあったと思う
 
 血統は少しあったと思うが、少ししかなかった。

 今にしてみると、これは奇妙な話である。なぜって物語の原点である神話の世界では、いずれも血統が重要であり、主人公は女神や精霊に加護を頂き、便利なアイテムを与えられるのが常だからだ。
 
 血統、血筋、ご加護と便利なアイテム
 
 ある意味、こういう露骨なえこひいきこそが物語のあり方ではなかったか?
 
 ∧∧
( ‥)でもあなたの子供時代
    図書館にそういう本は
    なかったと?
 
  ( ‥)読んだ限りでは
    ‐/ なかったよ
 
 なにゆえか?
 
 それは、魔王に対峙することなく、さらに魔法とかを使わないせいかもしれない。
 
 ∧∧
(‥ )魔法や格闘戦が無いのなら
\‐  才能というよりは
    運で生き残りましたって
    物語になるでしょうね
 
  (‥ )冒険ってのは基本的に
      異世界から帰還する物語
      つまり逃げる話だ
      だからかもね
 
 それに科学全盛の時代だ。自分が子供の頃はアポロの月着陸からまだ時がさほど経っていない。だったら魔法は使わないだろう。
 
 事実、行き先が過去だろうが未来だろうが、あるいは異次元だろうが宇宙だろうが火星だろうが。主人公が未開の地へ出かけて、文明の知識を使うことで窮地をやりすごすような物語が多かったように思われる。
 
 ∧∧
( ‥)失礼な言い方だけど
    冒険ダン吉みたいな
    ものですかね?
 
  (‥ )もともと19世紀
      西欧の植民地支配が
      盛んだった
      名残りかもしれん
      白人が非白人国で
      頭角を示し
      現地の人に受け入れられ
      ついには王になる
      そういう物語は多かった
 
 
 ドリトル先生は南の島で戦争して勝利し、ついに王になる。
 
 砂の惑星もこの範疇に入る話だ。権力闘争に破れた王子は砂漠に逃れ、野蛮人と軽蔑される砂漠の民に受け入れられ、ついには彼らの王になり、そして砂漠の民を率いて復讐を果たす。
 
 タイムマシンだってそうだろう。王にはならないが、19世紀の主人公は80万年後の退化した人類の中で暴れ回るのだ。
      
 
 ∧∧
(‥ )でも今はそんな時代じゃないね
\‐
 
  (‥ )転生し選ばれし勇者が
      魔法を使って勝ち進む
      ラノベの話を聞いてると
      物語が神話の世界に
      還ったのを感じるねえ
  
  
 アポロの月着陸から47年。科学技術の可能性と熱狂から1世代以上が過ぎた。その間にアメリカはベトナムから撤退し、日本に経済戦争で負け、しかしその日本も倒れ、復興したかに見えたアメリカはイラク戦争で全てを失った。そして台頭した中国も崩れ始め、かつての覇王、西欧は移民に押しつぶされかかっている。

 もうみんなアポロの夢から覚めてしまったのだ。そして理解した。

 この窮地を突破するには神性と、えこひいきとしか思えない幸運の加護と、そして便利な道具である魔法が必要なのだと。
 
 そんなものは無いと分かってはいるが、そうでないとこの状況は突破できないのであると。
 
 これはあきらめと表裏一体であるが、同時に現実なのだ。多分、無敵のヘラクレスに夢中になった古代ギリシャ人やローマ人も同じではなかったか? 五賢帝時代を終わらせたと罵倒される狂気のコンモドゥス帝は、自らをヘラクレスに模して闘技場に立った。彼も暗殺の恐怖の中で神性に頼るしかなかったのではないか?
 
 すべての人が努力する以上、すべての努力は等価となる。つまり無だ。努力で切り抜けられない現実を知った人が、一服の清涼剤として神と血筋と魔法にすがったところで、どうして責められよう。
 
 ∧∧
(‥ )かくて物語は
\‐  神話へと復帰する
 
  (‥ )ひるがえって
      意地悪な言い方をすればさ
      努力、友情、勝利を
      信じる人は未だに
      夢から覚めていないのな
 
 
 頑張ればこの牢獄から突破できると、お前はまだ本気で信じているのかい?
 

 
 

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