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2014年6月30日月曜日

別の鏡が必要だ

 
 「銀河英雄伝説」という大ヒットした小説がある
 
 当初存在した銀河連邦は途中で独裁者が出現し、銀河帝国となった。これに反旗を翻した共和主義者たちが建国した自由惑星連合と帝国の戦争、帝国における王朝の交代、新王朝の開祖による連合の征服と銀河統一で終わる物語。
 
 ∧∧
(‥ )この小説の中に非常に
\‐  奇妙な設定が出てくると
 
  (‥ )まあ、小説は物語のための
      ご都合主義だからな
      それ自体は当然なんだが
      面白い部分でね
 
 銀河連邦を帝国に変えた独裁者が、劣悪な遺伝子を排除する法律を制定した、そういう歴史がこの小説では描かれる。
 
 ∧∧
( ‥)いわゆる優生学だね
    優秀な遺伝子を残し
    有害な遺伝子を持つものを
    排除しよう
    そのために断種や安楽死まで
    含めた手段を用いるという
 
  ( ‥)まあ、人間の品種改良だね
    ‐□ 
 
 これ真面目に論ずると、非常にちんちくりんな設定なんである。
 
 ∧∧
( ‥)なんでかというと
    遺伝学の見地からすれば
    ”劣悪な遺伝子”を排除したって
    何の意味も無いよ
    ということがすでに
    明らかになっている

 
  (‥ )例えば”劣悪な遺伝子”
      とは一体何か?
      という問題だな
 
 これは定義の問題に限らない。遺伝子は生物が持つ特徴なり行動なりを司るが、別にひとつの遺伝子がひとつの特徴を司っているわけではない。
 
 ∧∧
(‥ )有害とされる遺伝子が
\‐  他の必要な特徴を
    支配している可能性
 
  (‥ )そういうのを
      切り捨てたらどうなるか?
      何が起こるか分からない
      あるいは反対に
      ”優秀な遺伝子”だけを
      集めたら一体どうなって
      しまうのか
      これも何が起こるか
      分からない
 
 有害なものを切り捨てているつもりで必要な箇所も切り捨てているかもしれない。あるいは優秀なものを集めているつもりで、状況がむしろ悪化することもある。
 
 あるいはこう
 
 ∧∧
( ‥)以上を無視して
    主観的に”有害な遺伝子”を
    排除するとしましょうか
 
  (‥ )どうやってするの?
      という話になるのだよね
 
 例えば血液型で考えてみよう。血液型は赤血球の表面にある物質の違いで分けられる。A型、B型がそれぞれAタイプの糖鎖、Bタイプの糖鎖を持つのに対して、O型はそもそもその部位を持たない。つまりオーというよりはむしろゼロである。
 
 ∧∧
(‥ )だから遺伝子型AAの人と
\‐  遺伝子型OOの人が結婚すると
    産まれる子供の遺伝型はAO
    となる
 
  (‥ )タイプAの糖鎖を作る
      遺伝子がある以上
      子供の血液型は必然
      A型になる
 
 つまり、この場合、Oの遺伝子はA型に覆い隠されることになる。これは相手がB型でも同様だ。
 
 さて、ここで仮にO型の血液型にだけ致命的な効果を与える架空の病気がご都合主義的に発生したとする
 
 ∧∧
( ‥)O型の人がばたばたと死ぬ
    でもO型の遺伝子は
    そのまま残るのだよね
 
  (‥ )AOやBOの形で残るのだ
 
 もちろん、AOやBOの人同士が結婚すればO型の血液型が生まれてくるし、以上の架空の病気によって死ぬことになろう。しかし、そうしてO型の遺伝子が減れば減るほど、O型が産まれる確率は減る。
 
 ∧∧
(‥ )つまり覆い隠された遺伝子は
\‐  最初は急激に減るが
    減れば減るほど
    減りの速度が遅くなる
 
  (‥ )つまりだ、有害な遺伝子を
      排除するって鼻息荒く
      息巻いたって
      そんなこと
      出来る訳ないじゃん
      ということになるんだよな
 
 そしてさらにこれを踏まえれば、理解は核心へと及ぶ事になる。
 
 以上のように、遺伝子には覆い隠されて潜在化しているものがある。そもそも”有害な遺伝子”とされるものも、たまたまペアになったから表立って見えるようになっただけなのだ。だとしたら、”有害な遺伝子”とやらは数こそ少ないが必ずあるものだ、ということになる。
 
 ∧∧
( ‥)そして人間は個体として見た時、
    何かを司る遺伝子を
    大量に持っている
 
  (‥ )ひとつの遺伝子に
      限って言えば
      個人が有害な遺伝子を
      潜在的に保有している
      確率は低いのだ
      だが、人間はそもそも
      大量の遺伝子を持っている
      だとしたら
      1個人が持つ
      複数の遺伝子の中に
      有害なものがある可能性は
      非常に高くなる
 
 実際、死産などが、潜在化していた”有害な遺伝子”が発現した効果であると考えた場合
 
 ∧∧
(‥ )計算してみると
\‐  人間は誰しも何かしら
    有害な遺伝子を持っている
    これが明らかとなった
 
  (‥ )優生学は、これで
      ぽしゃったんだよな
 
 定義も分からん、意味も分からん、効果は予測不可能、技術的に無理、そもそも劣悪な遺伝子を排除するって言ったら、あなたも私も僕ら全員該当者でしょ、全員持っているんだから
 
 これでは優生学が成り立たないのは当たり前。
 
 ∧∧
(‥ )それを考えると
\‐  冒頭で紹介した小説において
    未来世界である銀河帝国で
    優生学が猛威をふるうってのは
    ナンセンスなのですよね
 
  (‥ )まあ、ナチスがやった
      障害を持つ乳幼児の
      組織的な安楽死
      あれをパロディ化したもの
      なんだろうな
 
 非常に意地悪な言い方をすれば、優生学にとどめをさしたのは人権意識ではなく、遺伝学と現実だったと言える。それでも人権意識というものに効果があるとすれば、以上のような理屈が分からなくても、無意味なことをあらかじめ禁止出来ることにあるのだろう。
 
 ∧∧
( ‥)間違ったり、説明能力がない
    そんな仮説であっても
    役立つことはある
 
  ( ‥)ましてや小説だからね
    ‐□ 独裁者はこんな恐ろしい
      ことをしますよ
      それを漫画的に描ければ
      それで充分なわけだよ
      民主主義と権利を
      手放してはいけないよ
      そう主張できれば
      ナンセンスでもなんでも
      設定としてはありだろうな

 
 とはいえ、ここで気がついてしまうことがある
 
 現実世界においては以上のようにして優生学はすたれたが、これ、実は非常に奇妙なことなのだ。
 
 なぜって、優生学的に子供たちを処分する時、そこにあった大義名分のひとつが、障害者を養う経費を節約できる、というものだったからだ。
 
 ∧∧
( ‥)つまり、全員が有害遺伝子を
    持つ事が分かっても
    経費節約こそが本当の
    動機であるのなら
    安楽死を続けるはずだと
 
  (‥ )少なくともだ
      経費削減が本当の目的なら
      全員が有害遺伝子を持つ
      と分かったところで
      躊躇はしないよね
 
 これ、むしろこういうことを示していないか?
 
 経費削減など口実にすぎなかったと。
 
 本当はこうだったのではないか?
 
 自分の気に入らないものを抹殺したい、それだけであったと
 
 ∧∧
(‥ )確かに当然のことなんだよね
\‐  優生学は人間自身の品種改良
    人間自身のペット化
    なのだからね
 
  (‥ )そうであれば当然
      気に食わないを殺し
      お気に入りを
      残す事になる
      単純に言えば理想主義者
      なんだよな
 
 もっともらしい理屈はこねるが、実際には、気に入らないものを殺したい、ただそれだけではなかったか?
 
 そしてこうなると、これはもはや品種改良ですらない。
 
 優生学を信奉した人々が、”あなたの言う気に入らないものって、理屈の上ではあなた自身も該当するよ? どうするの?”という遺伝学の指摘にひるんでしまったとは、そういうことではなかったか。
 
 ∧∧
( ‥)理想主義者は
    自分にとっていやなものを
    殺したいだけである
    
  ( ‥)いかれた潔癖性だとも
    ‐□ 言えるよな
      ピーマンが嫌いだから
      ピーマン農家は
      皆殺しにすべし
      そう主張するような
      ものだからね
 
 考えてみれば、理想主義者というのはどいつもこいつもそうであった。
 
 そして、それはすでに指摘されていることでもあった。
 
 例えば、エロ漫画を規制しようとする人々は、なぜ実際に被害にあっている小さな子供たちや事実上の人身売買を規制しようとしないのか?
 
 それはまたすでに感づかれていることでもあった。
 
 エロ漫画は規制するのに、女の子を泥酔させてレイプすることはなぜ黙認されるのか?
 
 ∧∧
( ‥)エロ漫画は気に入らないから
    殺したい
    女の子をレイプするのは
    合法だから問題ない
    規制派の人々が持つ
    そういう世界観が
    あからさまであると
 
  (‥ )すでに分かっている
      ことではあった
      だがこの認識をまず
      開始点としなければ
      ならない
 
 =>hilihiliのhilihili: これが理解のスタート地点でしょう
 

理想主義者は殺したいから殺すだけである
理想主義者にとってエロ漫画は汚らわしいから殺したいだけである
理想主義者にとって子供の人権が教育が、というのは口実にすぎない
殺すために口実があるのだ 口実があるから殺すのではない
そもそも理想というものはそういうものだ
殺したいから殺す それこそが理想である
 
 ∧∧
(‥ )優生学主義者たちは
\‐  自分たち自身が
    殺したい相手であることを
    遺伝学に思い知らされて
    経費削減とかいう口実を
    放り出して逃げ出した
 
  (‥ )鏡で自分自身を
      見せつけられて
      奴らは逃げ出したのだ
      考えてみればさ
      エロ漫画の規制派にも
      同じ攻撃をしかけた人が
      すでにいるんだよね
 
 エロ漫画規制派の議員が女の子を買ってセックス三昧であった。これはいかなることか?
 
 この攻撃と指摘は正しい。問題はである。彼ら理想主義者にとっては、買春もレイプも恥ではなかったし、合法だったという点だ。
 
 ∧∧
( ‥)買春とかレイプとか
    さらには人身売買でさえも
    エロ漫画規制派にとって
    ダメージにならないと
 
  ( ‥)子供を殺したナチスと
    ‐□ 違って
      彼らには別の鏡を
      見せないと駄目だって
      ことだろうな
 
 彼ら自身が本当にいやがるその姿を見せてやらないと駄目だ、そういうことだろう。
 
 そして、彼らが本当に嫌がる自分自身の醜い姿とは、果たしてなんだろうか? それこそが問題となる。
 
 
 
 
    

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