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2016年4月6日水曜日

あぶらむし物語

 
 ∧∧
( ‥)例えばどんな物語に
    なるんでしょう?
 
  (‥ )んーそうねえ
 
 
 会社を休んで寝ているうちに、夢を見た。熱にうなされると必ず見る夢だ。
 
 どしんどしんと響く音。うなるように聞こえる幾つもの怒声と悲鳴。空気はひどく悪い。焼けた臭い、血の臭い、腐った臭い、そしてきつい人臭。いつもと違うがいつもと同じだ。

 狭くて暗い部屋、折り重なる死体の中でうずくまり、僕を呼び寄せたのは、今度は女の子か。祈りをささげる指は骨張り、しかし、落ちくぼんだ眼は今や驚きで見開かれて、ぎらぎらしている。怪我をしているのかもしれない。他人のものなのか自分の血なのか、血糊で濡れた衣服をふるわせて、ぜーぜーと荒い息だ。
 
 神様ですか?
 
 ずいぶん、苦しそうだ。声もひどく小さい。まるでつぶやいているようだが、そこにはすがりつくような歓喜の気配があった。
 
 そうとも。
 
 女の子の口が動くが、言葉はもうよく分からない。
 
 願い事は知っているし、望みはかなえてやろう。お前の祈りに応じて私はここに来たのだから。
 
 これもいつもと同じやりとりだ。別のやりとりをしたこともあったが、話がややこしくなるだけだ。あんなやり取りは二度と御免だ。
 
 動かなくなったその子を後にして僕が部屋から出ると、薄暗い通路にいた槍をもった男が、兜の下でぎょっとした顔をするのが見えた。そりゃそうだろう。鏡は無いが自分の今の姿はよく分かる。

 人面の獣、真っ白な毛皮。
 
 何かをする気にもならないし、する必要も無い。うずくまる自分の周りで、集まった兵士たちが騒ぎ出し、槍で突くものもいるが、いつものようになにも感じない。痛みが無いとかじゃない、触る事はできるが、影響が及ばないのだ。
 
 私は神獣である。
 
 僕がそうしゃべると、びくっと兵士達が身をふるわせる。
 
 私を手にするものは天下を得るであろう。
 
 兵士たちが困惑し、隊長らしき男を呼ぶ。その男も、困惑してどこかへ向かっていった。多分、この軍勢を率いる将軍にでも報告するのだろう。
 
 町を攻め滅ぼせる軍勢には国があり、そして王がいる。天下を得ると自ら述べる怪物を私物化したと知れたら、それはもう謀反人に違いない。そんな危険をわざわざ犯すものなどいないのだ。
 
 檻に入れられて都に運ばれる途中。色々な町を見た。物珍しさに、こわごわと近寄る人たち。彼らは僕がインフルエンザにうなされていることなど知らない。そして、いつものことだが、インフルエンザはこの世界の人々にまったく未知のものだ。

 人の動きは僕が運ばれるよりも早い。自分が都についた時には、すでに影響が出ているようだった。
 
 玉座に引き出されて数日ぐらいたっただろうか、再び、王の前に連れ出された。この前よりも廷臣が減ったように思われた。
 
 あなたは天下を得ます。

 そう伝えて、王を安心させた。
 
 しばらくして自分から檻を出た。道がよく分からないので迷って、玉座までずいぶんかかってしまった。人はまだいたが、力なくうなだれるだけだ。誰も僕を見とがめはしない。驚いた事に玉座にはまだ王が座っていた。近づく僕を、赤く充血した眼で力なく見ている。いや、はたして本当に見えているのだろうか?
 
 王にまつろわぬものなど、もはや誰もおりません。
 
 おめでとうございます。あなたはついに天下を得ました。
 
 耳元でささやいたが、答えは無かった。王の姿がかすみ、夢も終わった。目が覚めると、熱はすっかりひいていた。
 
 
 ∧∧
(‥ )やはり流行病の能力を持つ
\‐  主人公は厄神になって
    しまいますなあ
 
  (‥ )古代中国の奇書
     山海経には様々な厄神がいて
     中には疫病を司るものもいる
     インフルエンザにかかった
     主人公が中世、古代的な
     異世界に転生
     あるいは召喚された時
     彼は蜚となるのだ
 
 
 *蜚:読みはヒ、あるいは”あぶらむし”である。第四、東山経の最後に登場する厄神で、牛のごとくで白い首、一つ目で蛇の尾、水をいけば水が尽き、草をいけば草枯れる。これが現れると天下大いに疫病はやる。
 
 **以上では便宜上、人面にしている
 
 ∧∧
(‥ )それにしてもこの話
\‐  他人に移せばカゼが
    治るって内容だな
 
  (‥ )世の中ってのは
      身もふたもないもんさ
 
 
 
 
  

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