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2017年6月18日日曜日

竜盤類狂想曲

 
 先日話題になったネーチャーの論文

 A new hypothesis of dinosaur relationships and early dinosaur evolution

=>A new hypothesis of dinosaur relationships and early dinosaur evolution : Nature : Nature Research
 
 
 ∧∧
(‥ )”恐竜の系統関係における
\−  新しい仮説の提案と
    初期恐竜の進化について”
    もう3月の論文だけどもね
 
  (‥ )3月当時、俺は
      〆切の真っ最中だぜ?
      読んでなんかられるかよ
 
 しかし次の仕事は恐竜だ。というわけで前の〆切も終わり、次の仕事に必要とあっては読まねばなるまい。
 
 ∧∧
( ‥)恐竜の2大系統のひとつ
    竜盤類の解体と再定義の
    提案であるね
 
  ( ‥)うちのHPの竜盤類の記述も
    −/ これを踏まえて
      大幅に直しておいた
 
 =>Untitled Document

 
 ∧∧
(‥ )ずいぶんシンプルな内容に
\−  書き換えたものですな
 
  (‥ )昔はよ
      分類と系統の
      区別ができないライターが
      おってだな
      めちゃくちゃなガセネタ
      書きよったからな
      いやガセネタではないな
      本人の勘違いなんだ
      ともあれ
      それを踏まえて
      ついぐだぐだ枝葉末節を
      説明してしまってな

 
 しかし時代は変わったのである。そういうことはもういいだろう。余計な部分はバッサリ切ってリニューアル。コンテンツのアドレスやリンクも整備し直して、取りあえずこれで良いだろう。他コンテンツや内容の改良、書き換えはこれから工事続行すれば良い。
 
 ∧∧
( ‥)でっ?
    問題の論文の方はどうだ?
 
  ( ‥)んー
    −/ ざっと読んだだけだが
       そうねえ
       まずは
       データマトリックスの
       表記にどうも
       不備があるっぽい
       あくまで表記に関して
       だけだがな
 
 データマトリックス。この場合のこれは系統解析をした時に使ったデータの一覧だ。系統解析をした論文ではしばしばネット上に付加的な情報としてデータマトリックスのpdfファイルがリンクされているものだし、これもそう。そしてこれ、本文よりもある意味大事。
 
 このデータ行列の表記がどうもおかしい。共有派生形質とされているナンバーの項目を見ても、それが0。つまり無いことになっている事例がたくさんある。

 最初はどういうこっちゃ? と面食らっていたのだが。
 
 ∧∧
(‥ )どうやらこれは
\−  1文字ずれているようですな
 
  (‥ )多分、冒頭に余計な0が
      くっついているね
      まず間違いないな
 
 まず間違いない。なぜって冒頭の形質だけがすべてのタクソンで0なのだ。これは解析の上で意味がないし、そもそもありえないコーディングでもある。なぜかというに冒頭たる形質ナンバー1は頭骨のプロポーションを述べたものなのだが、頭骨が見つかっていない種類でも0のままになっているからだ。
 
 ∧∧
(‥ )この0がないと
\−  説明内容と順番が
    整合するんだよね
    この0は一体なんだろうね?
 
  (‥ )さあなんだろうな?
 
 
 以上のように書くとえらいこっちゃに聞こえるが、どうもこの余計らしき0。系統解析自体には影響を与えていないように思われる。

 単にデータマトリックスを表記した時になにかおかしなことが起こったのではなかろうか?
 
 そして何か問題があったのなら後日、論文があるだろうし、取り急ぎ、この内容を踏まえてみよう。実際、1文字ずらせば問題無く論点は通るわけだし。
 
 ∧∧
( ‥)そしてあなたの感想としては?
 
  ( ‥)ざっくり目を通した
    −/ 限りでは
       これは
       かなり良い提案
       じゃないかな?
 
 恐竜の2大系統群。竜盤類と鳥盤類。実はこれ、系統解析以前の分類群が元になっている。そして鳥盤類は良いとして竜盤類は名前からして実はやばい。
 
 ∧∧
(‥ )竜盤類とは
\−  トカゲ型の骨盤を持つものたち
    これあからさまに
    原始形質による指定だからね
    まじやばですよね
 
  (‥ )そこんところは
      系統解析以前の
      分類学時代の名残りだな
      とはいえだ
      竜盤類を束ねる
      派生的な特徴は存在するから
      竜盤類自体の単系統性は
      結果的に保障されたのだ
 
 例えば獣脚類と竜脚形類にはサブナリアル・フォラメンが存在する、あるいはどちらも手が顕著に左右非対称である。
 
 問題があるとしたら、サブナリアル・フォラメンは確認が難しかったりすること。例えば、エオラプトルは本当にこれ持ってますか? という点。
 
 あるいはそれ以上に問題なのは、手の顕著な非対称性とは、実は獣脚類と竜脚形類の専売特許ではないように見える。ここだろう。実際、原始的な鳥盤類ヘテロドントサウルスの手は左右非対称だ。

=>https://www.google.co.jp/search?q=heterodontosaurus+manus&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwj3mdqS_cbUAhUBOpQKHTGtB74Q_AUIBigB&biw=1024&b…
 
 ∧∧
( ‥)これは竜盤類を束ねる
    証拠が少なく
    さらに証拠が弱いということ
    だとすると
    別の束ね方が提案され
    そちらの方の証拠が多い時
    竜盤類は比較的容易に
    砕けてしまうだろう
 
  (‥ )でっこの報告では
      砕けちゃったー
      と言ってるわけだ
 
 恐竜が3系統に分かれることはまず間違いない。獣脚類、竜脚形類、鳥盤類。

 問題はこの三つがどんな系統関係にあるかだ。2分岐を想定した場合、単純に言って三つの可能性がある。そのうちの二つ、
 
 (獣脚類、竜脚形類) 鳥盤類
 
  獣脚類(竜脚形類、鳥盤類)
 
 この二つの組み合わせと可能性はすでに試行されてきた。
 
 ∧∧
(‥ )今回はこれまで事実上
\−  試みられてこなかった
    第三の組み合わせ
   (獣脚類、鳥盤類)竜脚形類を
    試してみたら
    他よりも良かったよ
    という報告ですかね
 
  (‥ )なんというかな
      これまで試みられた
      別の二つの組み合わせが
      持っている
      脆弱性や利点
      これらが
      この組み合わせで
      すっきりすると
      言えばいいかな
 
 分かりやすい特徴だけに注目してざっくり言うと、
 
 (獣脚類、竜脚形類)鳥盤類は、実は鳥盤類が派生的だからそう見えただけ。
 
 獣脚類(竜脚形類、鳥盤類)は実のところ原始形質と収斂という類似性でまとめられた偽系統。
 
 まあそんな感じ。
 
 個人的には、今回提案された(獣脚類、鳥盤類)竜脚形類の組み合わせは、これまでよりもむしろすっきりして分かりやすい。
 
 ∧∧
(‥ )問題は初期の鳥盤類の化石が
\−  あまり見つかっていない
    ことですかねえ
 
  (‥ )そこ次第だね
      今後見つかりうる
     三畳紀の鳥盤類の化石が
     どの仮説を支持するか?
     それ次第じゃねえか?
 
 まあまてば良いのだ。その時までは竜盤類を使えば良い。

 そしてなぜ竜盤類に脆弱性があるのか? それを説明すれば良いだけのこと。

 新説とは、脆弱性がある箇所で生まれるものである。
 
 ∧∧
(‥ )それにしても
\−  著者らが提案した
   (獣脚類、鳥盤類)の名称は
    ダーウィンのブルドッグこと
    ハックスリーさんが
    1870年に提案した
    ものを使ったんだね
 
  (‥ )オルニソスケリダ
      Ornithoscelida
      まんま訳せば
      鳥脚類になって
      しまうのだが
      鳥脚類はすでに
      オルニソポーダ
      Ornithopodaの訳語として
      存在するからなあ
 
 そもそもスケリダはスケリドサウルスから来ているのだろう。当時、ハックスリーは肉食恐竜や鳥盤類であるスケリドサウルスをまとめる際にこの用語を作ったのだ。
 
 スケリドサウルス=>https://www.google.co.jp/search?q=heterodontosaurus+manus&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=0ahUKEwj3mdqS_cbUAhUBOpQKHTGtB74Q_AUIBigB&biw=1024&b…


 このスケリド:scelido-とは、一般的に足の意味で使われる。事実、スケリドサウルスは当時これまで見つかったどの恐竜よりも頑強な足を持つという意味合いでつけられたらしい。

 ちなみに命名者はダーウィンの友人にして、後に彼の敵対者となり、ハックスリーと代理戦争を戦った大解剖学者オーウェンである。19世紀ビクトリア朝を飾る科学者達のつばぜり合い。なんとも豪華絢爛な面々である。
 
 ∧∧
(‥ )でもスケリドーは
\−  ギリシャ語では
    スケリデス:σχελιδεσ
    どうやら本来は
    牛の肋骨のことだそうですな
 
  (‥ )そうだなあそれを
      踏まえればあれか?
      オルニソスケリダの
      訳語は鳥骭類か?
 
 骭:この漢字の読みは、はぎ、カン、である。おかしなものでこの漢字、足の脛や”はぎ”の部分を示すと同時に、あばらのことも指すという。
 
 ∧∧
( ‥)なに? 骭は奇しくも
    ギリシャ語スケリデスと
    ほぼ同義語か?
 
  (‥ )鳥骭類を読むなら
      ”とりはぎるい”ですかね?
 
 あるいはそれなら、鳥脛類でも良いのかもしれぬ。
    
 いずれにせよ、発見が仮説を検証するだろう。
 
 


 
   

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