*の続き
未来人は脳が大きく、知能が発達し、体力は衰え、未来食は丸薬みたいなちいちゃいもので、柔らかいものばかり食べるから顎は細く、使わない肉体は退化している。
∧∧
( ‥)こういうイメージって多分、ウェルズさんの
-□ 時代に確立されたのでしょうね
(‥ )この手の未来像は
100年ぐらいの歴史あるって
ことだよな。
もちろん、使わないから退化する、というのはいわゆる用不用説、使わない器官は退化し、使う器官は発達し、それが子孫に伝えられて進化が起こる、という説。これは訓練や経験で獲得した特徴が遺伝するという獲得形質なので、
∧∧
( ‥)例外的な事例はあれども、この理解は
あからさまに間違いですよね
( ‥)そういう意味ではウェルズの
-□ 火星人って間違い進化論
の見本みたいな存在なんだよな
もちろん、自然淘汰説もダーウィニズムもそういうものではない。
∧∧
(‥ )ただ、誤解をまねくふしはあったの
□- あったのかもしれませんね
(‥ )ダーウィンはもはや自然淘汰の圧力に
影響されない器官の退化を説明する
ために獲得形質の可能性を考慮した
(たぶん、そういうこと)、これが
一見すると用不用説の再来だと
思われたってことはありうるかもね
というか、ダーウィンの本を読んだ人がよく思い込むのは、ダーウィンは種の起源の後、獲得形質にもっと重きを置くようになった、とか、彼は獲得形質を認めている!! という勘違いで
∧∧
( ‥)言葉通りの意味では確かにそうなの
ですけどもね
(‥ )言葉通りの意味でとると大間違いって
世の中、よくあるぜえ。
例えば曰く、ケプラーは惑星の運行の原動力を霊力だと考えたらしい、このように彼は迷信と近代科学のちょうど狭間にいた人物である
∧∧
( ‥)よくある評価で、額面通り受け取れば
確かにそうなのですけども
( ‥)この言葉通りに、これを揶揄と
-□ 受け取ると、ケプラーが霊力で
何をどう説明したのか、その恐るべき
側面を理解できずに終わるだろうな
同じように、ダーウィンが獲得形質の可能性を考えていたことを、そのままの意味、今では捨て去られた誤った理論をダーウィンが信じていた!! という意味でとらえると、ダーウィンの恐るべき側面が理解できなくなる(ようするに、先のような受け取りは理解などではない)。
∧∧
(‥ )それを考えると、火星人って不思議な
□- 存在なんですよね。
(‥ )知性を持つ動物の進化の極限、
そのシンボルのような存在として
有名だけども、その進化の理解が
げろげろだというな
ウェルズの火星人は極言すれば脳と神経、機械を操作する指だけの存在になった知的生物で、内臓がほとんどないために。情緒というものがない、冷酷で冷静な知性だけの存在だとされている(とっ、小説中で説明されているわりには、お食事の時には嬉しそうな声を上げるし、病気で死にかけた時には悲しげな声を上げたり、誤って落っこちたりすると、おびゃー、とでも言えばよいのか、奇声を発するが、まあ、それは置いておく)。
問題はここ。
情緒のない純粋な知的存在。
∧∧
( ‥)ダーウィンさんは人間は性淘汰、男女の
特に女性の好みで人間の進化が起きたと
考えたのですよね
(‥ )情緒や気持ち、美意識と恋で
進化と淘汰が起きる
ウェルズの火星人には
そういう視点がまるっと抜けて
いるのよね。
19世紀後半から20世紀にかけてダーウィンの自然淘汰説は一旦、顧みられなくなった。性淘汰にいたっては30年前に復権したばかり。もしかしたらそういう時代の空気を反映したものが、性淘汰がなく、用不用説で進化した純粋知性という火星人像かもしれぬ。
∧∧
(‥ )まあ、性に関してはフォローの余地が
\- あるのですけどね
(‥ )ウェルズの火星人は単為生殖する
からなあ。
*設定上、彼らはあろうことか出芽で増える。体の一部からちいちゃな火星人が生えてきて、それが分離するというぶっとび設定。性がなければ性淘汰は確かにないだろう。ようするにウェルズの火星人は単一のクローンであるらしく、そりゃあ病原体に弱いよなあ(同質のクローンではひとたび伝染病や寄生虫が現れると、全員が同じように感染するので絶滅しやすい)
∧∧
( ‥)でも、ほとんど脳だけになっちゃった
-□ 火星人って異様な魅力を放っているの
ですよね
(‥ )事実上、機械が体になっていて
状況に応じてそれを着替えるという
生態になっているのよな。
昔、なんかの軽いSFで、人類と交戦する正体不明の異星人たち、その実態は液体状の体を持ち、戦闘機や歩行兵器、戦艦などは全部、彼らの外骨格だった、というものがあったそうだが、ウェルズの火星人はほとんどこれに近いし、こういうアイデアの元祖だとも言える。