*の続き
∧∧
( ‥)じいさんは寂しかったのだろうと
( ‥)ずっと一人で暮らしてきたのじゃ
-□ ないかな。
外見がだらしない、服が無駄に安物、すっかりよれて白くなった無精髭を剃っていない、中年太りとは対極にやせている、腹が出ていない、まだ歩ける体力が残っている一方で、皮膚が過剰にしわしわ
(‥ )あの年齢であの姿ということは
過酷な労働、低賃金、あるいは
支出が無駄に多いことを示して
いると思う。就職はしていないし
結婚もしていないだろうな
∧∧
( ‥)あんまりな推論ですね
(‥ )就職出来ないと給料が上がらない
集団に所属しないと結婚相手が
見つからない、稼ぎが少なくて
嫁さんがいないと食生活は悲惨
やせる、あるいは不健康に太る
洋服の選択もそれに準じる
寂しさに負けて、酒、タバコ、
ギャンブル。体力と年齢以上の
過剰な老け込みとガタが来た肉体
∧∧
( ‥)ああ、ひどい決めつけ
そういえばなんかで見たな、その日暮らしをずーっと続けてきた独り身の男性たち。行き着いた先は、支えてくれる家族はなく、すみかである家もなく、老後の蓄えも、売るべき財産もなく、自堕落な生き方をまがいなりにも支えてきた体力さえもはやなく、見回せばすべての方角が閉ざされたおっさんたち。
仕事をする力を喪失したのに、しかし死ぬまでまだ10年以上、ひょっとしたら20年あまりの時間を残してしまった人々が集う場所
∧∧
( ‥)集うというか、なけなしの保護を
受けているだけですけどもね
( ‥)どういうわけなのか、北欧から
介護の研修にやってきた女の子、
その子が帰る日がやってきた。
その子に世話になったおっさん、外見はじいさんだが、おっさんは羽田空港までその女の子を見送りにくるけど、なんで帰っちゃうんだよーとか怒ったり、泣きながら、ありがとうと言って花束を渡したり。
(‥ )まるでガキんちょなのだ
∧∧
( ‥)その年齢の独りってのは発狂するくらい
つらく悲しいってことじゃないですか?
ああ、そうなのだろうさ
だけどもだ、みんなこうなるって知っていたはずだろう?
就職しないと決めたあの日に
就職できないとあきらめたあの時に
稼ぎが上がることはもうない、これが限界だと気づいた時に
もしいたなら子供は幾つだろう、とふと思った時に
体が示すわずかで、しかし不可逆な衰えがこのまま蓄積したらどうなるか推論した時に
誰もどこにも相手がいないと感づいたその時に
(‥ )ここに来ると分かっていたはずだ
そうだろう?
∧∧
( ‥)いつかどうにかなる、むしろそう
思っていたのでは?
ああ、だからちゃんと気がつけよ。
いつかどうにかなんぞなるわけがない
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( ‥)事実、
(‥ )いつかどうにかなったことが
あったのか? ないだろ?
気づくべきはそこよな
みんなここに来ると分かっていたはずだ。
あきらめろ。出来ることはただひとつ、終わりの時間を可能な限り先延ばしにするように投資する。それによって機能停止してしまう時を、死ぬ時に可能な限り近付ける。それだけだ。