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2014年11月30日日曜日

物理法則を再現しない電子と物理世界のノイズを持つ紙

 
 ∧∧
(‥ )紙に絵を描く利点とは
\‐  なんだと思います?
 
  (‥ )まず第一に
      保存が効く事だな
      20年、30年は問題ない
      次に特別な読み取り機を
      必要としないことだね
 
 電子データはこの点が信用できない。というか事実として駄目だった。媒体なりメディアなり、それらが新しくなると古いデータは回収や閲覧ができなくなったり、読み取れなくなったりする。
 
 ただし、これは作業上の利点ではない。
 
 ∧∧
(‥ )作業上の利点は?
\‐  
 
  (‥ )眼で見て直に操作できる
      ことだよね
      後は紙の上に描くと
      物理世界の法則が
      効いてくることだよな
 
 ∧∧
( ‥)そりゃあ現実世界ですからね
 
  (‥ )パソコンのプログラムや
      容量では
      これは再現できないんだ
 
 いくら人間が都市に閉じ込められ、自らを飼いならしてしまった動物だとはいっても、本来はサバンナを歩いていた猿なのである。神経も筋肉も認識もホルモンも全部そういう風に設計されている。そうである以上、物理世界の法則が直に効いている紙の絵には独特な刺激がある。電子ではこれが再現しきれない。
 
 
 ∧∧
(‥ )反対に電子で絵を描く利点とは
\‐  なんでしょうね?
 
  (‥ )複製が容易であることだね
      例えばデータのやり取りが
      簡単だし
      画像の切り貼りも容易だ
      それから
      上描きしやすいよね
      その点は油絵に似ているが
      油絵は乾くのに
      時間がかかる
      だけど電子なら即座
 
 ∧∧
(‥ )電子のお絵描きは
\‐  光の波長と強度しか
    再現していない
    だから可能な芸当だね
 
  (‥ )物理世界の法則
      溶剤やコロイドのふるまい
      溶媒の揮発、顔料の固定
      そういうものを
      再現していないがゆえの
      利便性であるな
  
 つまり電子上のお絵描きが持つ長所は、物理的なシミュレーションが不完全であることの裏返しでもある。

 ∧∧
( ‥)それに電子なら
\‐  絵の具をそろえる必要も
    混ぜる必要もない
 
  (‥ )絵の具なんて
      白赤黄青があれば
      十分なんだけどな
      それでも
      混ぜるとなると
      それなりに
      空間を使わなくちゃいかん
      水や油を使うと
      事故の危険もある
 
 コラージュ、油絵的な上描き、作業のやり取り、空間の節約、安全性。
 
 このように電子は作業上の利点が多い。特に、大人数でやり取りする時には、これは便利だろう。
 
 だがむしろ 検討すべきはである。
 
 ∧∧
( ‥)お金になるのかどうかだね
 
  ( ‥)例えばの話な
    ‐/ 電子でとても綺麗で
       こったイラストを
       描く人がいるだろ?
 
 あれ、採算が取れているのか? という問題。
 
 ∧∧
(‥ )2日で描いて
\‐   支払いが3万円なら
     日給1.5万円になるけども
 
  (‥ )残念ながらイラストって
      そんな大した金には
      ならんのだわ
 
 少なくとも本のイラストはそうだ。そもそも出版社が支払える絶対的な金額がさほど多くないのである。
 
 例えばひとつの本で作者に支払われる原稿料は70万円程度だし、60万と見た方が良い。
 

 ∧∧
( ‥)10枚のイラストを描いて
    それぞれにつき3万円を
    請求すると
    それだけで30万だよね
 
  ( ‥)その場合は著者と
    ‐/ イラストレーターで
       原稿料を半分に分ける
       ことになってしまう
 
 本を書いた人からすれば、は? という話だろう。
 
 わずか10枚のイラストで、本の平均的なページ数、200ページを作った自分の取り分が半分になってしまうからだ。仮にイラストがフルカラーで見開きをまるまる占領していても、180ページ分の原稿料が、10見開き(20ページ分)と同等だ、ということになってしまう。
 
 
 ∧∧
(‥ )イラスト1枚の金額は
\‐  現実的に言えば
    1万程度で
    一冊の本に10枚とか
    そんな感じでしょうね
    イラスト1枚の完成に
    3日かかったら
    日給は3333円だね
    死んじゃうね
 
  (‥ )1万で採算が取れるイラスト
      1日ですぐ描けるもの
      それはまずモノクロだな
      そして線画だ
      さらに小さいものだ
      あまりこっても
      印刷には出てくれないしな
 
 
 電子で絵を描くと細部を拡大して作業出来る、という人もいるけど、この状況ではあまり意味がない。数センチ四方のイラストに細かい点は出てこないし、そもそも読者もそんなところまで見たりはしない。

 それならさっさと手書きで紙に描いてしまえば良い。人間はもともと眼で見て手を動かし、物を操作する動物である。いくらパソコンを使い慣れても、紙に描いた方が速い場合がある。
 
 ∧∧
(‥ )こうなると
\‐  イラストを描く時に
    電子と紙
    どっちがすぐれているか
    その争点が
    不明瞭になってくるよね
 
  (‥ )まあ基本的には
      電子であるのだ
      作ったものはデータ化して
      先方に送らなければ
      いけないわけだからね
 
 とはいえそれも、手で描いたものをスキャンすれば良いだけの話。

 つまり、
 
 パソコンの画面上で絵を描くよりも手で描く方が速く効率的で、なおかつその利点がスキャンするという余計な手間を越える場合、手書きをスキャンするという選択肢が最善の解答ということになる。
 
 ∧∧
( ‥)こうなると二者択一の話では
    ないってことになりますか
 
  ( ‥)きれいでこったイラストを
    ‐/ 効率的に描くのなら
       電子なんだがな
       需要と採算という
       現実の要素を加味すると
       異なる解が
       出てくるわけさね

 
 紙か電子か? 作業の効率だけを考えるか、あるいは採算まで考慮するのか、それで結論は人それぞれ、まるで異なるものとなろう。
 
 そして考えても見れば、紙が持つ原始性や頑強さや不便さは、人間の肉体と物理世界が持つ性質やノイズの結果でもある。だが、人間の認識は肉体によって作られているし、その肉体は物理世界の法則と性質に適合しているのだ。その延長線に物理的な紙と、紙に描くという行為があり、それが生み出す肉体への刺激がある。
 
 ∧∧
( ‥)紙の利点とは
    そこにあるのだと
 
  (‥ )物理法則を
      再現しないがゆえの
      電子の利便性
      物理法則のノイズが
      生み出す紙の刺激
      どれをどう選ぶのか
      そういうことなのだろうな

 

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