自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2014年11月16日日曜日
生きているサーバーの物語
機械で維持されたネットの世界に自分の精神をコピーする。そうしてネットが存続する限り、無限の寿命と果てしない楽しみを謳歌する。
これは魂の実在を仮定したもので、非現実的な願いだ。実際にはそのように動作できないだろう。
∧∧
(‥ )ただそうだとしても
\‐ 電子の世界にすむ電子人間は
電子の世界の快楽を覚え
電子の世界の欲望と美を
見つけるだろう
(‥ )自らの動作を司る
プログラムを
そうなるように
作り替えるわけだが
蛋白世界の楽しみを電子世界に持っていこう、これは間違いであるし、それは無理だ。
しかし、電子世界にいって楽しもう、これはありうる。
だから、ここまではありだ。
だが、無限の寿命によって楽しみを果てしなく謳歌出来るか、というと、それは無理だろう。
心をネットに移し替える。バーチャル世界で永久に生きていく。
より正確に言うと、自分の記憶をネットにコピーし、それを動作させるプログラムを設定する、そういうことなのだろうけど、これは古典的には精神を機械に移植する、という言い方をされていたものだ。
だがしかし
∧∧
( ‥)問題はですよ
”精神を機械に移植する”
これをした瞬間に
機械の利点と欠点を
両方受け継ぐことに
なるよね
( ‥)機械の利点と欠点は
‐/ 表裏一体なんだよな
機械は化学的、力学的な破壊や摩耗や疲労でない限り壊れない。なぜなら自己増殖しないので、バクテリアのようなものに犯されないからだ。機械には破壊はあるが病気というものはない。
*ここではカビによる破壊とか、コンピューターウイルスのように自己増殖するプログラムとか、そういうことは割愛する。
一方、機械は自己増殖ができない。それゆえ、自分で自分を修理することができない。
∧∧
(‥ )機械を修理する機械を
\‐ 作ることはできる
でもそうしたら
修理する機械それ自体を
修理する機械を作らねば
ならない
これはどこまでいっても
きりがない
(‥ )部品を用いた機械が持つ
強みであり弱みだな
病気というものが
存在しない代わりに
自己修復も自己増殖も
できない
生物はこれとは正反対である。水に溶けた原子や分子で体を作っているから、部品の品質は事実上一定であり、組み立ての動力にはブラウン運動を使えるので、熱と液体の水がある限り、組み立て工程が自動的に進行する。
その代わり、同じように自己増殖するバクテリアや寄生虫の餌食になるので、生物はそれに対抗する仕組みを幾つも用意しなければならない。
病気にならないが自己修復も増殖もできない機械
自己修復も増殖も出来るが病気に悩まされる生物
つまり、生物である人間が機械に精神を移植するとは、機械が持つ耐久性を手に入れると同時に、機械にはできない自己修復を自分で行わなければならないという問題を背負うことでもある。
∧∧
( ‥)せっかく機械の体を
手に入れたのに
それを整備するために
有機物の肉体を端末として
持っているという状況
(‥ )おそらくそうなっちゃうの
だよね
これは、知能を備えたロボットが叛乱を起こして人類を滅ぼすなんてことはないということでもある。
これは、知性を備えたロボットは人間を自己修復できる便利な労働力として奴隷にする可能性を示している。
あるいは機械に心を移植した電子人間たちは蛋白人間の存在を必要とする。そういうことでもある。
最低限、電子人間は蛋白質で出来た人型の端末を操作して、工場や発電所やネットや送電網、道路や輸送機関を整備しなければならない。
∧∧
(‥ )ものすごく面倒だし
\‐ 非効率的だよね
いっそのこともっと
生物化したらどうですか?
(‥ )逆に言うとその手が
あるよな
病気はメンデル遺伝と
免疫機構で対処可能だしな
今から1万年後、地球は人為的に引き起こされた氷河期に突入していた。これによって森というものは消え去った。リグニンで強化された樹木は、建材としてはともかく、食料としては利用しがたい。エネルギー効率の観点から、効率の悪い樹木は抹殺されたのである。寒冷化で降水量は減り、地球の大部分は乾いた草原に覆われた。本来の野生動物はことごとく滅ぼされた。鳥もネズミも残っていない。バッタさえも駆逐された。いるのはほんのわずかな節足動物だけである。
しかしおびただしい動物がいる。それはウシのようだが大きさは最大級のサイに近い。巨大な頭と顎で草を延々と食べている。足は奇妙に太い。速く走るというよりは、転倒しても傷つかないように、安全性を考慮した作りだ。敵というものがいないし、仲間と争うようにも設計されていないのだ。
この動物は知能が低く、餌を食べることしか考えていない。しかし、脳自体は巨大だ。そして頭には奇妙なコブがある。これは送受信できる器官である。
光合成によって成長した草を食べ、そのセルロースを分解し、そうして得たエネルギーで巨大な脳を維持し、さらに化学的な発電を行って電波を飛ばす。この動物は遺伝的に設計された、生きているサーバーなのだ。自己増殖し、自己修復し、自ら発電し、電波を生み出して演算する。
そしてこのサーバーたちが作り出すネット世界に人類がいる。本来の体を放棄し、生きているサーバーの中で生活し続ける電子人類の心は、もはやホモ・サピエンスのそれではない。確かに、かつての祖先と共通するところも多い。生存に関わる戦略は蛋白質の体を持とうが、電子化されていようが同じだからだ。だがそれ以外の部分ではまるで変化してしまった。
もう誰もいない地球で、生きているサーバーたちが草を食べている。しかし、この世界にはそれでもなお、数百億の人類が電子的な意味で存在するのだ。
ホモ・サピエンスとは異なる道徳と美意識を持ち、繁栄を謳歌する人類がここにいる。時々、サーバーの眼がいつもと違う動きをすることがある。ネット世界にすむ電子人類の誰かが外部の世界を覗き込んでいるのだが、それはすぐに興味を失ったかのように元の無関心な眼に戻ってしまう。
こんな感じで
∧∧
( ‥)これならかなり問題を
解決出来るけど
これですらも
問題山積みだよね
(‥ )あたりまえだけどさ
ここまでしても
資源の争奪戦からは
自由になれないんだよな
例えば、誰かが考えるであろう。
あの草原を手に入れれば、自分たちのサーバーをもっと増やせるはずだ、と。
それを考えれば以上で設定されたような、無害な草食獣としてのサーバーという姿は消え去るはずだ。生きているサーバーを維持するには豊富な草原が必要で、それを防衛するために攻撃に特化したサーバーが作られるはずだ。というか、それはもうサーバーというよりも戦闘用の端末である。巨大なゴリラのような姿をしているのかもしれないし、武器と鎧を身につけて優勢に立とうとするために、工場を運営しているかもしれない。こうなると、すべてを生物化して効率よく楽しく過ごそう、という目論みは前提が崩れ始める。
軍事費と防衛費をかせぐためにサーバーの演算能力が動員されることもありえよう。生きているサーバーたちが作り出すネットとそこにすむ電子人間たち。彼らは何らかの奉仕や支払いを迫られるはずだ。資源は有限であり、人は資源の限界まで自らを増やそうとする。そうであれば、この世界の電子人間たちは現代の我々と同様、様々な困難に直面しているだろう。楽しい生活なんかできないだろう。
∧∧
(‥ )しかもそういうところは
\‐ ホモ・サピエンスと共通だから
美意識は違っているけど
愚痴は同じかもね
(‥ )たぶんあれだな
役所の連中は
税金だけとって仕事しない!
電子人間もそんなことを
言っているんだろうな
これはhilihiliのhilihili: 蛋白世界と電子世界の続き
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