人はしばしば曰く、次のような渇望を口にする。
電子とバーチャルの世界にいって肉体から開放され、無限の時間の中で無限の楽しみを満喫したい。
∧∧
( ‥)残念、それは不可能だ
(‥ )これを言う人は
魂の実在を信じているのだ
例え電子の世界に
移植されても
蛋白質の肉体で
演じられてきた
この心は不変であるとな
もちろん、実際のところそんなことはない。
魂なんてものは存在しないからだ。
魂なんてものはない。魂は比喩でしかない。実際のところ心は神経細胞が作り出すもので、あるいは内臓や諸器官が作り出すホルモンなどで調整されている。
心は神経細胞が作る電位差や器官が作る化学的な刺激で構成されたもので、物質の影だ。
∧∧
(‥ )そうである以上
\‐ 自分の記憶を持ち
自分をそっくりそのまま
再現できるプログラムを
電子の世界で動かしても
それはもう人間じゃない
(‥ )正確に言えば
肉体を再現できるけども
電子の世界では不自然で
それゆえに不安定なのだな
∧∧
( ‥)肉体を電子的に
再現することは
可能なのだよね
(‥ )自分の記憶と記録を
どう実行するのか?
そのプログラムに何を
選ぶのか
そういう話であるな
例えば性ホルモンが過剰であり、新陳代謝も激しい、そういう神経と内臓の作用を電子的に再現したプログラム
思春期14歳ver.8.5
というような感じで。
このように肉体を再現することは可能なんだろう。
電子の世界に自分をアップ出来る技術。それはオリジナルの自分からすれば自分のコピーを電子の世界に子孫として託す、という話でもある。
どの肉体を選ぶのかはアップ主である自分の自由であるし、あるいはアップされて、いまや主体となった電子人間の自由でもある。
若返りたい奴はそうするであろうし、俺はもう老成した状態で良いよ、という奴はそれに合った肉体を購入するのだろう。
より正確には肉体を再現したプログラムなのだが、こういうことは可能なんだろう。肉体だけじゃない。大容量かつ超絶的な高速演算を可能ならしめる機械があれば、リアルタイムで変化する自然な世界を再現することもできるだろう。水が流れ、雲が沸き、雨が降り、虹が出て夕日が西の地平線へ沈み、風が樹々を揺らし、紅葉が落ち葉となって舞い落ちる。電子化された人間たちが集う広い世界。
その世界に分子や原子はないだろうが、人間の知覚には現実世界と変らない世界が再現できているのだろう。
問題はである。
∧∧
(‥ )それは電子世界においては
\‐ まったく不必要な再現だ
ということですよね
(‥ )電子の世界を維持するには
機械を維持し
機械を維持するための
部品を調達し
部品を調達するための
工場を維持し
工場のための部品を
製造のための資源を
資源採掘のための鉱山を
そしてすべてを動かす
電力を維持するという
ことである
そんな世界において、以上のようなことに機械の容量を使うなどまったく完全に不経済だ。
∧∧
( ‥)不経済であれば
それはどこかの時点で
放棄されることになるだろう
(‥ )なにかしら
危機があるだろうからな
必然、電子人間たちは
無駄を切り捨て
容量の確保と
電力と金属の調達
これに専門化した
プログラムを持つように
なるはずだよな
例えば電子の世界で理想の異性と永遠にいちゃラブする。しかしそれはずいぶん容量を食う話だ。電子の世界も資源は有限だ。資源が有限であれば資源の利用には支払いが必要になる。生活が苦しくなったら、人は一時的にバーチャル異性の運用を止めるのではないか?
∧∧
( ‥)あるいはバーチャル異性を
必要としない肉体に
乗り換えたり
バーチャル異性に欲情する
プログラムを停止するかもね
(‥ )そもそもそれが正しいのだ
電子世界には電子世界の
欲望があって
電子世界において
蛋白世界の欲望は
いまや不必要なのだからな
人間は本来、蛋白質世界の住人で、体を維持するタンパク質、デンプン質、糖分、脂肪、ミネラルを好むように出来ている。それを効率的に確保する個体こそが素晴らしいとされている。
なれば同様、電子の世界の住人は容量を確保し、電力を確保し、それらを維持するための金属資源とその調達に心を砕くであろうし、それらを効率的に確保する個体こそが生き残る。そうである以上、そういう個体とプログラムのあり方が素晴らしいとされるだろう。
彼らは電力と容量の確保を効率的にこなす肉体、つまり電子的な肉体にこそ欲情し、渇望するだろう。
∧∧
( ‥)つまり電子人間の世界では
蛋白世界のバーチャル的な
再現を好む個体は
不利となって
淘汰によって除かれる
そうして
電子世界に適合した
プログラムを持つものが
数を増やしていく
(‥ )趣向自体も変るのだ
風や花や
女の子や
フィギアやアニメを
喜ぶように作られた
プログラムは
廃れていくだろうな
電子世界において蛋白世界のバーチャル的な再現は不安定だ。進化的に不安定なのだとも言える
電子の世界に移植された蛋白人間の子孫は、我々とはまったく違う存在になる。まるで違う欲望と美意識を持つようになる。
つまり心が変る。
それは人の子孫ではあるが、もはや人間ではない。
当然、我々の文明、いわば蛋白文明が生み出した文化も伝承もまったく不安定だろう。残す必然性がまったくないし、電子人間たちの心の琴線にも触れないからである。
蛋白人間の作り出した文明と美と欲望のすべて、これらのほぼすべてが顧みられることのない、くだらないものとして打ち捨てられる。
∧∧
(‥ )あなたたち人類は
\‐ 無駄なことを誇示する
生物だから
無駄に残している
可能性自体は
あるのだろうけどね
(‥ )我々の巨大な脳は
こんなにエネルギーを食う
脳みそを無駄に
維持できています
そんな僕ってすごいでしょ
そういう誇示で
巨大化したんじゃね?
という説もあるからな
そういう意味では、もしかしたら蛋白世界のAVとかエロいフィギアのデータなどを後生大事に残している電子人間もいることはいるのかもしれない。
例えばの話
∧∧
( ‥)これが蛋白世界の欲情と
‐□ エロを表現した
フィギアの元データです
主題は
オークに捕まった女騎士
これは古いものでね
これ専用に設定した
プログラム上でないと
閲覧することも
できないのです
もはや数少ない一品ですよ
(‥ )ああ、初めて見ました
こういうのを
保存するには
特殊な技術と投資が
必要で
コピーすら
容易ではないとか...
話では聞いていましたが
まさか本当に
残っていたとは
∧∧
( ‥)我が王家の歴史
分かっていただけましたか?
(‥ )感服しました
こんな感じで
これはhilihiliのhilihili: オタク啓蒙計画などというのはあり得ないの続き