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2010年5月10日月曜日

人生等価交換

 
 夢を見た。コンビニのレジで商品を出したら、年齢不詳なお嬢さんが言うのです「ああ、これもおまけにつけてあげるわね」、そしていそいそとレジ袋に得体の知れないものを入れていく。 はてー? コンビニってそういう販売システムでしたっけ? そう思っていると、そのお嬢さんが言いました「ああ!! あたしの好きな人がきた!!」彼女の高ぶって希望に震える声を聞きながら店の入り口を見ると、えらい厚着のコートを着込んでひげもじゃの熊のような男がオノ○ーコとレディー・ガガを足して2で割ったような女と楽しく語らいながら入ってくるのが見えた。「修羅場だ!!」後も見ずにその場を逃げ出した。

 さて

    (‥ )理想は現実を語る能力を持っていない。
 ∧∧
( ‥)そりゃあそうでしょうね。

 かくあるべし、は、仕組みを説明してくれていない。かくて理想は挫折して、理想に燃えた連中は恨みのこもった眼で世界を眺めやる。

    ( ‥)まあ、勘違いも甚だしいわけだけど。
 ∧∧
( ‥)まあねえ。

 理想や夢なんてたわ言をほざく前に物事を説明する仮説を手にするべきだったのだ。違うかね?

 ∧∧
( ‥)しかし、あなたも理想を
    夢見た事がありました。

     (‥ )そうねえ。

 鵜呑みにする人間は、考えて答えに辿り着ける人間の妥当な回答を鵜呑みにする。

 だから鵜呑みにする人間は当座は妥当な解を得られるが、鵜呑みにしないで考える人間はそうではない。

 そして疑似科学とオレ様理論は鵜呑みにしないで考えるが、しかし、自力では答えに辿り着けない人間から生じる(当たり前の話で、鵜呑みにする人間は理論を生み出さないし、妥当な解を自力で見つけられる人間はオレ様理論を展開しない)。

 そして出来の悪い研究者とサイエンスライターも科学ジャーナリズムもまたこの世界にいるように見える。

 ルイセンコたちを見ればいい。オレ様理論はこの領域から生まれて、そしてこの領域に帰っていく。

 なれば。

 この領域とカテゴリーを構成メンバーもろともに破壊殲滅すればいい。ただの1人も残さずに。サイエンスライターだの科学ジャーナリズムだの、そんなものいらない。いや、むしろ有害だから欠片も残さずに消してしまおう。さすれば理想世界到来。

 ∧∧
( ‥)馬鹿げてますね。

     ( ‥)夢ゆえに馬鹿げているな。

 何をどうあがこうが、それは発生するし、そのようにカテゴライズされるものが消えることはない。むしろ反対にそれを組み込んで記述する説明を提案し、その妥当性を追求しなければいかん。操作に必要なのは理想でも夢でもなくて、適切な仮説だよね。

     (‥ )だから以上のような緩慢な自殺案は却下。
 ∧∧
( ‥)またそういう。

 別にいいではないか。命ってのは無生物に包含されるもので、引き延ばされてはいるが最後は命無き状態へ還る。全力を傾注した緩慢な自殺だろうが喜びを謳歌して老いていく人生だろうが、それは大して変わらない。
 
     (‥ )人間はなんで生きているか知ってるかい?
         死ぬのが怖いだけなんだ。
 ∧∧
( ‥)それ、オーウェルさんでしたっけ?

 当然ではあるが、人間は自分が最優先であるのみならず、それゆえに自分が愛されていないと不安でどうしようもなくなる。必要とされていないことに耐えられない。

     (‥ )だが悲しいかな、人間の価値は他人にとって
         限りなく0なのだ。
 ∧∧
( ‥)まあ実際にはそうではないでしょう?
    近親者を明らかに優先するし、大事な人を守るし、
    何より、あなたたちは相手に感情移入して
    手を差し伸べる不思議なサルです。

 それを血縁度と呼ぼうが、投資と呼ぼうが、あるいは優しさというものが進化によってはぐくまれたものであるにせよ、人間は確かにそういう動物だ。だがしかし、だからこそ愛されていないと不安になる。推論するにたぶんそう。

     (‥ )時々、サイエンスライターが科学者に対して言う時が
         あるだろう? なぜそんなことを言うのか?
         わたしは必要なことをしたではないか? 
         わたしは善意でことをなしたのではないかって。

 ∧∧
( ‥)ああ、まあねえ。

 そうか、そうだよなあ、愛されていないと不安になるよなあ。必要とされていないことに耐えられないよなあ。でもだよ? 冷静になって考えてご覧よ、その状況の原因はそれゆえにすでに答えが示されているのじゃないのかね?

 ∧∧
( ‥)そもそも最初っから必要とされていなかったのだと。

     (‥ )いてもいなくてもどっちでも同じなのだ。
         今すぐ消滅したところで誰も何も感じや
         しないのさ。

 最初っからいらなかったんだよ。それを今さら知ったぐらいで泣かれても困る。愛されていないと生きていけないなんてそんなの知るか。

 もし仮にあるサイエンスライターが死ぬまでに100の本を書き、それが(ありえないことであるが)すべて最低限正しかったとする。1冊につき売れる本を3000程度と考えた場合、のべにして30万人が妥当な情報を得たことになるだろう。

 ∧∧
( ‥)でも、それが身になるのは読者のごく一部ですけどね。

     (‥ )効率が悪すぎる、と言えばいいかなあ。

 もしも日本が科学技術立国という地位から(実際のところそもそもこの国が科学技術立国だったことが1度だってあったのか?という問題は置いておくにしても)すべり落ちていく場合、ひょっとしたら妥当な情報発信はどこかの子供に脱出の機会を与えることにつながるのじゃないかとも思ったが。

 ∧∧
( ‥)それはまったくの妄言ですね。

     (‥ )そうだな。

 出来る奴は自力で立ち上がるだろう。言われないとやらない奴はただの役立たずで、言われて立ったところで自力で突破することなどできないだろう。妥当な情報発信は出来る奴にとっては特に必要ないし、言われてする連中には最初から意味がない。

 では妥当な情報発信はどう正当化すればいい?

 ∧∧
( ‥)どう?

     (‥ )それでもなお、有益な効果は0でないとしよう。
         ではその人数は何人? 30万人以下、0人以上?
         現実的な数は、たぶん、数人か?

 しかしだ。100冊書いて数人の人生に何らかの有益な影響を与えるということは、実際上、ありえるんだろうか? よくわからないが、あり得ないことではない。しかしこれがどの程度確からしい見積もりなのかまったく分からない。

 ∧∧
( ‥)でも、言い換えれば、100冊で数人に
    有益をもたらせれば、それでいいのだと?

     (‥ )こんな言葉を知っているかね?
        「人生の前半は親に駄目にされる、後半は子供に駄目にされる」

 なんとすばらしい。これはようするに1人の生涯が数人の有益と等価交換だということに他ならぬ。

 人生という通貨で一体何を買う?


 ∧∧
( ‥)そしてついにあなたは子供の頃に夢見た夢を手に入れました。

     (‥ )かもね。

 夢と理想と希望の破壊が終わりまで続く不毛の時間。ああそうだ、確かに私は望みを手に入れた。

 

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