昨日、打ち合わせの帰りにこんなことを言われた。北村さんの絵、あの雑誌で見たことありますよ。
ああ、それはもうずいぶん前の仕事だ。
そしていわれた、また恐竜の本は書かないんですか?
∧∧
( ‥)でっそれは難しいと答えたんですよね?
(‥ )恐竜の本はね、企画が通りにくいんよね。
なぜ? 恐竜の本は売れないから、そう答えたら意外そうな顔をしていた。まあ確かに気持ちは分かるけども、恐竜の本は事実として売れない。北村の書いたものが、ではなくて、恐竜の本は誰が書こうが売れない。恐竜の本を出した大概の編集者はそう言う(というか例外を聞いたことがない)。
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(‥ )おかしーなーなんで売れないんだろう?って
□- みんなが頭をひねるんですよね。
(‥ )そして”恐竜の本は売れない”っていう
経験則だけが残って、ますます企画が
通りにくくなるってわけさ。
まだ経験の浅い編集者や出版社を騙すという手もあるけども、まあどうにもなりそうにない(そもそも出版社は多くの場合、持ち込み企画をうけつけない)。
雑誌は2つ潰れたし、科学のシリーズ物で恐竜を出したばっかりにお金が回収出来ず、シリーズそのものが潰れてしまったケースが少なくとも2件ある。
∧∧
( ‥)びっくりするくらい売れないみたいですよね
(‥ )なんかなあ、2つの事例とも作者が一生懸命なのは
よくわかったけどね、これが売れなかったらしいんだよなあ。
そしてシリーズごと消えてしまう。
理由はだいたい分かっている。消費者の大部分のニーズと制作者の作るものがまったくミスマッチ。ごく単純な話。そもそも恐竜という言葉自体にたぶん問題がある。世間一般で恐竜というと
∧∧
( ‥)首長竜や翼竜はおろか、サーベルタイガーとか
マンモスとかまで含む用語なんですよね。
(‥ )はなはだしい場合にはシーラカンスや
ユーステノプテロンまで含まれるんだよな。
恐竜という用語は一般の人々にとってが”鳥とトリケラトプスの一番近い共通祖先とそのすべての子孫につけられた名称”ではない。
かつまた、分類学が大好きな人が使う”直立歩行をする陸生の爬虫類”という形質に基づく(不安定な)定義でもない。
そうではなくて世間一般的には
”現生の心理的な分類群に包含できそうにない絶滅脊椎動物(できれば骨で展示されていることが望ましい)”
というような内容、それが恐竜という心理的な”分類群”。
∧∧
( ‥)それを考えると恐竜展って
お客さんからすれば中途半端かもしれませんね。
(‥ )マンモスやサーベルタイガー、オオナマケモノや
シーラカンスやユーステノプテロンも展示されていない
からなあ。
そして思う。恐竜の本が売れないのは当たり前。だって、皆が認識している恐竜は鳥盤類と竜盤類だけじゃないんだから。
∧∧
( ‥)首長竜とか翼竜が恐竜ではない、ということ自体が
問題ありだということですか。
(‥ )系統学どころか、古典的な分類学者が提案した分類それ自体が
世間一般の”分類”と齟齬しているわけさね。
そういえば恐竜好きの子供たちが首長竜という時、実はその言葉が竜脚形類のことを指していると知ってびっくり仰天していた研究者の方がいたよなあ。
∧∧
( ‥)恐竜好きでもそんな認識なんですね。
(‥ )つまるところこういうことなんだな。
大部分の(便宜的に言うA群の)消費者が知りたいこと、望んでいること、求めているもの、それがもう、編集者や作者には理解不可能になっている。
∧∧
( ‥)まずはそこから調べないといけないわけですか。
(‥ )言い換えれば、昨日の打ち合わせ相手の人が
望んでいるような本は書けないってことになるわけさ。
羽毛恐竜の一覧と鳥の進化、残念ながらものすごく売れなさそう。そして企画は確実に通らない。
∧∧
( ‥)なんとかできない?
( ‥)ずるっこい手を使えばやれなくはない。
でも内容は薄いし、しかも2年はかかるぞえ。