自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2014年12月7日日曜日
論理人間は自分の認識に恋をしている
巨大コンピューターで宇宙をシミュレーションする。するとその宇宙の中でもコンピューターを作って宇宙をシミュレーションする者が出るだろう。するとそのシミュレーションされた宇宙の中でもシミュレーションを行う者が出るだろう。
つまりありうる宇宙のほとんどはシミュレーションされたものであり、我々がいるこの宇宙もシミュレートされたものであろう。その確率は非常に高い。
∧∧
(‥ )...この小話
\‐ 状況が入れ子式に
どんどん複雑に
なっていくのに
それを全部シミュレート
しているはずの
一番最初のコンピューターの
演算能力の限界は
無い事になっていますよね
(‥ )宇宙をシミュレーション
するたびに
前の宇宙が無かったことに
されているのな
この小話のトリックはこれであろう。
しかしそれ以前に、この手の話には人間が持つ強烈な思い込みが関与しているように思われる。
∧∧
( ‥)宇宙を正確無比に
シミュレーションできる
そういう思い込みなり
信念があるのだと
( ‥)これって
‐□ どんな複雑な計算も
解けるはずだ
そういう主張なんだが
実際にはそうではない。計算不可能になることが証明されている演算というものがあるそうだ。
∧∧
(‥ )この宇宙を正確に
\‐ シミュレーションした時
コンピューター内部で
地球に存在したすべての生物を
再現出来る
その時、初めて古生物学は
実証科学になる
とか言ってた人がいましたよね
(‥ )本気で言ってたのかねえ...
自分の思い描いていた
仮説や系統仮説が
破壊された時
分子遺伝や
あるいは空想の計算に
逃げた連中と同じじゃ
なかったかな
もちろん、こんな考えは色々な意味で無意味である。そんな計算機はないし、仮にこの宇宙が本当に正確にシミュレーション可能な性質を持った宇宙であるとした場合でも、
つまりそれはラプラスの魔が存在する古典物理の宇宙であり、量子論的な不確定性がない宇宙であろうけども
ともあれこの宇宙がそういう宇宙だとした場合、それでもなお
∧∧
( ‥)地球の全部の原子と分子と
いや、原子核内部の素粒子の
ベクトルを すべて正確に
計測しないといけない
(‥ )無理だよな
というか仮にこれが出来たとしても意味がないのだ。
だって、地球に飛び込んでくる宇宙線、つまり帯電してとんでもない速度に加速された粒子は太陽系外から来るからである。そして地球が存在してから45億年以上。
∧∧
(‥ )つまり本当に地球の
\‐ シミュレーションを
絶対正確に行うと言うのなら
太陽系を越えて
半径何光年もの
すべての素粒子のベクトルを
正確に計測しないといけない
多分、銀河全体が
考慮すべき範囲ですかね
(‥ )宇宙線やそれに激突された
物質が生物の遺伝子に
変異を起こす
もうこれだけで
生物の進化に影響を
及ぼしているからね
そして、この宇宙はそういう宇宙ではどうもないようである。ニュートンの時代に考えられた宇宙。つまり宇宙に存在するすべての物質のベクトルを把握している超絶的な知能の持ち主、すなわち”ラプラスの悪魔”はそこから過去も未来も正確に演算してしまう。そういう決定論的な宇宙とそれを見透かせる存在。古典物理学ではそれがありえる世界であった。
しかしこれはどうも間違っていたようだ。この宇宙は決定論的にではなく確率論的に振る舞う。
∧∧
(‥ )この地球を
\‐ シミュレーションできる
そう言ったあの人は
間違っていたのだと
(‥ )間違っていると
自分でも分かっていたと
思うよ
ラプラスの魔とか
不確定性
量子論とか知っている人
だったからね
だがそれにも関わらず、彼は先のようなことを言った。シミュレーションされた地球でこそ、俺のアイデアは証明されるはずだし、それこそが実証科学ではないかと。
彼はそんなことは出来ないと知っていた。
だけども信じたかったのではないか?
現実の化石は俺のアイデアを支持してくれない。でもそれは古生物学や系統学が実証科学じゃないからだ。真の実証科学である物理学と数学なら俺のアイデアを証明してくれるのではないか?
∧∧
( ‥)確か論理的であれば
実験しなくても良い
そう言った人だったっけ?
( ‥)ああ言ったよ
‐□ それを聞いた時は
ぎょっとしたし
こいつ正気か? と
思ったものだがな
そういう意味では実証科学という言葉の使い方もおかしかったのだ。つまり彼は、実際の証拠に基づいた科学、ではなく、実際に証明された科学、という意味で使っていたのだろう。
これは要するに、証拠がなくても計算が正しければそれで良い、そういう世界観である。
だが、今にして思えばこういう考え方をする人間は昔からいるのだった。
プラトンがそうではなかったか?
マルクスがそうではなかったか?
そして大勢の者たちがこういう世界観、現実を無視した論理の世界に魅せられたのではなかったか?
∧∧
(‥ )でもおかしな話で
\‐ この手の人たちって
実際には数学が苦手なんだよね
(‥ )どういうわけか
そうなんだよな
論理、論理と言う割には
数学ができないし
グラフから傾向を見て
それを示す公式作って
計算するとか
それを現実と
照らし合わせるとか
そういうことを
しないんだよね
あるいは計算するんだが、計算すればしたで計算が無駄にお上品なのである。これが正しい! 正確な値が無いと正しい答えなんか出るわけないじゃないですか! とか騒ぎ立てる。
∧∧
( ‥)そして彼の人は
数学が出来ないのに
宇宙を正確に演算できる
シミュレーションできる
そう言ったわけだ
正確な値
正確な計算
(‥ )世界観がおかしいんだよ
物理学とかも意外と
ざっくりしたもんでな
理論値は4で、
実際の値は5.4、
なかなか良いんじゃね?
とか言ったりするし
つまり現実の数学や物理学や科学と比べると、正しい計算、ぴったり正しい答えというのはひどく妙な考えだと言える。というか現実的ではないのだ。
つまるところおかしいのは彼らの世界観であり、そしてその内容とはこうなのかもしれない。
数学は正確だ。
物理学も正確だ。
だから全部計算できるに違いない。
どんな複雑な計算も演算能力さえ高ければ解けるはずだ
彼らはそういう理解で物事を見ていたのではなかったか?
∧∧
(‥ )これってあれだよね
\‐ 原理的に解けない演算が
存在するとか
物事を単純化して
傾向をざっくりと数式にして
誤差を踏まえつつ
観測結果を検討するとか
そういう実作業や成果を
知らないってことだよね
(‥ )逆言うとだ
数学は何でも解ける
物理学は正確
計算は絶対に可能だし
実験しなくても良い
数学も物理のことも
知らないから
勝手にそう思えたという
ことなんだろうな
つまり論理人間は数学と物理に恋をしているのだ。ただ相手のことを知らないままに相手に自分の理想像、演繹と絶対的な解答能力をこれらの学問に押しつけているのである。
だが彼らが抱いた科学の理想像とは彼のイデアであった。イデアとは人間の認識である。つまり彼の恋の相手は、自分の認識だったのだ。
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