自己紹介

イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック

2014年12月28日日曜日

老人と星

 
 先日の夕方、火星の位置を直角定規を用いて、三角法で記録していたら、暗がりで何事かしていた近所のじいさんに声をかけられた。
 
 何してるの?
 
 星見てるんだよ
 
 雲?
 
 星
 
 雲?
 
 星! ほら、あれ
 
 えっ、あれは月だよ。星じゃないよ。
 
 月じゃくて、星、ほら、あそこ。
 
 見えないよ。星見て何するの?
 
 記録
 
 それで分かるの?
 
 分かるよ。
 
 星、本当に見える?
 
 ほら、あれ
 
 見えないよ。
 
 記録は終えたので、星を探すじいさんを後にして帰った。火星とやぎ座デネブアルゲジとの角度はおよそ7度23分だった。
 
 それにしても困ったじいさんである。耳も目も、頭まで駄目になっている。なんだこの三重苦?
 
 ∧∧
(‥ )そういうと激怒する人も
\‐  多いかと思いますけどね
 
  (‥ )激怒?
      そんなことしてる場合かよ
      これは
      かなり深刻な話なんだ
 
 
 もう日も落ちて暗くなったとはいえ、都市部でしかもまだ青みが残る空である。そういう空に輝く火星は、闇夜の中の光点ではなく、むしろ色のついた物体と考えた方が良い。 
 子供の頃、運動会で飛ばされた風船をじっと眺めていたことがある。これは当時、誰でもしていたことかもしれないが、非常に小さくなった物体は、視野にとらえていても見えないことがある。さっきまで見えていたのに見えない。さっきまで見えていなかったのに、今は見つけられる。
 
 そういうものだ。
 
 ∧∧
( ‥)だがじいさんには
    火星が見えなかった
 
  (‥ )視力が落ちていた
      それだけか?
 
 闇夜の空き地でごそごそしていた人間が、何をしていたのか知らないが、それを果たして単純に目が悪いと考えて良いのであろうか? 
 
 そうではなく、集中力が欠けているのではなかったか?
 
 集中力の欠如は、体力の欠如でもある。
 
 そして思考過程があまりにも単純すぎる。
 
 星を見ているというが自分には見えない
 
 だが月が見える(当日は夕闇に低くかかる細い三日月があった)
 
 この人が言っている星とは、星ではなく、あの月に違いない
 
 この推論過程はあまりも自分本位であるし、あまりにも自分に都合良く物事を解釈し過ぎであるし、あまりにも無邪気に他人に責任転嫁しようとしすぎている。
 
 ∧∧
(‥ )他人なら見つけられる星を
\‐  今の自分は
    見つけることができない
    その可能性を考慮していない
 
  (‥ )これはさ
      思考が手抜きそのものに
      なっているということでは
      ないのか?
 
 そもそも、あれは星じゃないよ、月だよ、と返答してしまうのは、”あなたは星と月も区別できないのですね”という意見の表明であって、グーパンチで殴られても文句が言えないぐらいに失礼な言い様なのだ。
 
 ∧∧
( ‥)でもそれを口に出しちゃう
 
  (‥ )これも思考の単純性を
      示しているのではないか?
 
 考えたことをべらべらそのまま口にしてしまうのだ。
 
 もしかしたら、病気なのかもしれないが、果たしてそうだろうか?
 
 ∧∧
(‥ )思考や推論過程が
\‐  あまりにも単純化している
    そういうことですかね
 
  (‥ )推論過程が単純化する
      これもまた
      体力がない証拠だよね?
 
 脳を動かすには大変なエネルギーを必要とする。
 
 なれば、推論の単純化とは経済的な節約であろうし、それはもはや余力が無いということを示している。
 
 ∧∧
( ‥)35歳を過ぎれば
    体力は低下する一方
    要するにあれだ
    多かれ少なかれ
    あなたも含めて全員が
    ああなるってことだね
 
  (‥ )老化は体力の喪失である
      そして
      あらゆる箇所を
      節約する必要が出てくる
      そうである以上
      あらゆる過程に
      問題が生じてくる
      頭の病人と
      変わりない状況に
      なってしまうわけだ
 
 
 これを解決すること自体は雑作も無い。死ねば良いのだから。
 
 ∧∧
(‥ )問題は死ぬまで
\‐  どうするんだよって
    ことだよね
 
  (‥ )俺もああなるのか?
      冗談じゃないぞ
  
 問題は体力だ。つまり事は非常に単純である。
 
 ∧∧
( ‥)つまりどうにもならん
    わけだよね
 
  ( ‥)生きるとは
    ‐□ どうしてこう...
 
 ちなみに火星は現在、1等級の明るさで輝き、やぎ座を突っ切っている最中である。
 
 

ブログ アーカイブ