自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2014年10月18日土曜日
無双無敵 俺TUEEEは物語と読者の本懐ぞ
そういえば小説「ラルフ124C41+」は俺TUEEEだ、と評した人がいた。
∧∧
(‥ )...そういう小説だったっけ?
\‐
(‥ )どうだったかなあ?
とはいえ、27世紀の未来、地球でもトップクラスの天才であり超有名人である主人公(そもそも作品名ラルフ124C41+とは、主人公の名前である)は、混線だかなんだかで、見ず知らずの女性と会話をすることになった。
その彼女が雪崩に襲われたその時、主人公は電磁波を用いて、いながらにして遠くにいる彼女を雪崩から救うのだ。
∧∧
( ‥)超絶的というか
それちょっと無茶じゃね?
という内容でね
( ‥)人格はともかくとして
‐□ 無敵の天才が
あらゆる知識と技術を
使って問題解決に邁進する
さらわれた彼女を取り戻すため、宇宙船を駆る。死んでしまった彼女を蘇生させるために自分の持てる全てを結集する。
豪邸に住む、地球屈指の天才である有名人。まあ、なんだ、確かにこれは、俺TUEEEかもしれない。
∧∧
( ‥)そう言ったら激怒する人が
いると思うけどな
(‥ )この作品は古典的なSFで
あらゆる技術の未来を
予測した傑作
明るい未来を描いた小説
そう評価されるからね
とはいえ、言わんとすることは分からんでも無い。無敵、全能、圧倒的な頭脳。確かにスーパーヒーロである。それも生まれながらにして、という奴だ。
そして、欠点の見当たらない最強の主人公。それは、俺TUEEE、と表現される。
∧∧
(‥ )あなたも小学校の図書室で
\‐ 以上を含めて色々を
読んだけども
俺TUEEE的なものは
何かありましたかね?
(‥ )謎めいた無敵の主人公が
大活躍するという
なんとも奇妙な物語が
あったなあ
戦後始まった米ソの宇宙開発競争、人工衛星、月への有人飛行、火星や金星へ向かった探査機。
そのせいか、自分が子供であった70年代、金星や火星に人が移住した未来という小説は多かった。
題名は忘れたが、この物語もそういう未来の世界。宇宙飛行の間に宇宙線にさらされて、金星や火星に入植した人々の間に突然変異として超能力者たちが現れた時代の話である。
∧∧
( ‥)でた!
放射能で突然変異
超能力によるスパイ
(‥ )もうね
典型的な奴ね
中二病的というかね
ただ、一風変わっていたのが、その超能力。どれもかなりぶっ飛んでいるのである。テレパシーやサイコキネシスというのはまだともかく、飛行人なるものも出てくる。これは飛行能力を獲得した突然変異体なのだが、さらに強烈なのが火炎人。
火炎人は口から火を吹く。
∧∧
( ‥)それは超能力なんですかね?
( ‥)どうだろねえ
‐□ どっちかというと
奇術の部類だと思うが
ミニ技術人という人々もいた。顕微鏡に匹敵する視力と細かいものを扱える指を持つ変異体である。どんだけご都合主義な変異なのだろう? 子供心ながらに面食らってしまう物語だ。だから強烈な印象が残っているんだろう。
ともかく、こういう世界で様々な犯罪、陰謀、謀略、叛乱が用意されるなか、主人公はそれを摘発する任務を負っている。そして彼もまた超能力者なのだが、これが圧倒的に強い。
確か、うろ覚えだが、個人が持てる能力はひとつだけ、という世界の中で、主人公と彼の仲間だけが複数の能力を持っているのだ。しかも、他の超能力者が持つものとは似て非なるもの、微妙にずれた力になっている。大空を飛ぶ飛行機から被疑者をひっつかんで飛び降りる。その能力は飛行人のもののはずだが、落下の有り様が飛行人ではない。飛行能力ではあるが何か別のものだ。
∧∧
( ‥)確かにそれだと
俺TUEEEかもね
(‥ )主人公は無敵最強
それが俺TUEEE
昨今のラノベはそういうご都合主義の塊だ。昨今の若者はそういう自分本位の人々なのだ。
そう揶揄する人は多いが。だがそうだろうか? 同じ人間である。欲望という出力が大きく異なることはあり得ないと考えるべきだろう。
実際、そういう例はたくさんある。
∧∧
(‥ )考えてみれば
\‐ 昔のアメリカの
パルプ雑誌なんかでは
あられもない
ビキニアーマーの美少女が
登場するイラストが
あったしね
(‥ )ああいうのは
あちらでは
男女平等とか
”フェミニズム”とかで
つぶされちゃったのかな?
そのあげくに
日本の萌えアニメとかに
需要があったりすると
言うのならば
本末転倒だよね
ほら、人間の欲望とその有り様は基本的に同じだ。昨今の若者は、と澄まし顔で評論なんかする必要はない。人間、我慢はほどほどにした方が良いってことだ。
なんの取り柄も無く、科挙に落ちる僕にところに狐娘さんが来てくれる。中国のそんな古典もしかり、アメリカのパルプ雑誌とビキニアーマーもしかり、人の欲望はいつもハーレムと萌えと、そして俺TUEEEであろう。
目の前の現象は、世代論と見るよりも、むしろ普遍的な現象と捉えるべきだろう。
(‥ )考えてみればさ
ギリシャ神話の
ヘラクレスも
あれは俺TUEEEだよな
∧∧
(‥ )あの人は
\‐ あまりに強いから
時々狂う事で
バランスを取っているの
ですかねえ?
ヘラクレスはゼウスが浮気をして作った子なので、ゼウスの妻である女神ヘラの呪いで時々発狂する。それが元で色々な冒険や行動を起こさざるを得なくなる、そういうキャラであった。
∧∧
( ‥)だかしかし
それでもなお無敵で不敗
そんな彼を
最終的に倒すのは
謀略と毒であった
(‥ )まさに俺TUEEEですよ
正攻法では
敗北していないからな
俺TUEEEは伝統芸と見るべきだし、むしろ考えるべきは、俺TUEEE設定の際にはどうバランスを取るのか? それこそが腕の見せ所なんだろう。
*ヘラクレスの話は以下へ続く=>hilihiliのhilihili: 神、俺TUEEE、ハーレム、これこそが歴史を動かす
さて
ちなみに、先に引用した超能力の物語。確かオチはこんなである。複数の能力を持ち、しかも、力の強さも、力の現れ方も通常とは違う。敵どころか味方までもが主人公たちに疑いの目を向け始める。そうしてついに主人公たちは人里離れた場所へ、それぞれ別々に召喚される。
いるのは審問官だけだ。
彼は告げる。あなたは私を殺せる力がある。それは重々承知しているが、私はもう余命が長くありません。それに私を殺すと設置された爆弾が起爆します。良いですね? 質問に答えてください。
あなたは子供の頃、一度は死んだ身で、しかし奇跡的に蘇生している。あなただけならそれでも良いでしょう。だがしかし、あなた方の全員がそうだとなると、これは偶然ですか? 疑わざるをえない。
政府は状況を把握していたのだ。未知の宇宙船、侵入してくる何者か。これまで語られなかった事柄が次々に明るみになっていく。
この詰問に対し、主人公たちの選択肢は単純であった。
力を用いて審問官の心臓を止める。発作に襲われて倒れる彼に、どうしました? と歩み寄るふりをしながら意図的に爆弾を起爆させる。自殺による証拠の隠滅。
∧∧
( ‥)主人公たちは
宇宙人だった
そういうオチであると
(‥ )一応、正義の味方で
地球人を保護するために
やってきてるんだが
なんかもう
めちゃくちゃな話だろ?
海外の作品であった。原作も原題も知らない。とはいえ、あまりのめちゃくちゃさから今でも覚えているのである。口から火を吹く火炎人が超能力者でございます、というハチャメチャ設定は、忘れようが無い。
これはhilihiliのhilihili: 主人公の挫折を望まない、というのは言いがかりでは?の続き
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