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2014年10月23日木曜日

ゼウスは一度負けた

 
 最近のラノベやアニメや漫画は駄目だ。主人公が無敵だからである。俺TUEEEとは、なんと甘ったるい考えだろうか?
 
 今時の漫画やラノベには制限があるのです。主人公の挫折を読者が認めようとしないのです。今の読者は駄目です。
 
 ∧∧
(‥ )と、文化人の方々は
\‐  まことしやかにおっしゃるが
    主人公が挫折する話
    というものが
    そもそもあったのか?
    そこがむしろ問題
 
 (‥ )ギリシャ神話のヘラクレスが
     無敵不敗である
     これは以前指摘した通りだが
 
=>hilihiliのhilihili: 神、俺TUEEE、ハーレム、これこそが歴史を動かす


 同じくギリシャ神話のペルセウスも同様だ。彼もまた敗北などしていない。
 
 だけども読み返していて気がついた。
 
 ∧∧
(‥ )ゼウスさんが
\‐  一回敗北しているね
 
 (‥ )失念していたけども
     テュポーン(テューポーン)
     に一回倒されて
     いるのだよね
 
 テュポーン。台風を意味する英語タイフーン(typhoon)の語源だとも言われる、ギリシャ神話最強の怪物。
 
 天地創造において曰く、天空と大地の交合から生まれたティターン一族。彼らの長クロノスは自らの息子に王位を奪われると予言され、子供たちを皆、呑み込んだ。

*いわゆる我が子を食らうサトゥルヌスはこれを描いたもの=>https://www.google.co.jp/search?q=saturno+devorando+a+sus+hijos&biw=1101&bih=831&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ei=XBtIVMeyFcPLmwWq14LADw&ved=0CAY…

**一応書いておくと、呑み込んだとあるから、ゴヤが描いたように、むしゃむしゃ食べたわけではないようである。
 
***ゴヤはゴヤで子供に先立たれているから、先の絵画はそういうことを投影した内容だという解釈も聞く。

 
 ともあれ、陰謀によってクロノスはゼウスを呑みそこなった。成人したゼウスの叛乱により、予言通り、クロノスは倒される。それに怒った大地の女神ゲー(ガイア)が生み出したのがギガース、すなわち巨人。
 
 その巨人たちまでもがゼウスたちに倒された時、さらに怒ったゲーが生んだ怪物、それがテュポーン。竜の頭を百頭持ち、天動説体系の世界の中で、星々に届かんとする身長を誇り、手を伸ばせば東西に届くという巨魔。

 テュポーンの襲撃に逃げ惑う神々。ゼウスは雷電とさらには鎌を持って接近戦を挑み優勢に戦いを進めるが、格闘戦で負けた。手足の腱を切り取られ、岩穴に幽閉された。
 
 ゼウスは負けたのだ。
 
 とはいうものの 

 ∧∧
(‥ )でもこれも
\‐  ガッツ星人にセブンが負けた
    どうなる?? ハラハラ
    そういう感じだよね
 
  (‥ )倒されたから修行しよう
      新しい武器を手に入れよう
      挫折から立ち直ろう
      そういう展開じゃ
      ないからな
 
 そもそも手足の腱を切り落とされた時点で身動きはとれないのである。腱を奪い返したヘルメースたちによってゼウスは復活し、ついにエトナ山の下にテュポーンを封じ込める。以来、エトナ山は火山として火をはき続けているのだ。

=>https://www.google.co.jp/search?q=mount+etna&biw=1101&bih=831&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ei=DBxIVISxNoLsmAWWqIHwAw&sqi=2&ved=0CAYQ_AUoAQ#tb…
 
 
 ∧∧
( ‥)これを見ると
    主人公が負けた!
    どうする? どうなる??
    というのは
    物語の展開として
    ありなんだけども
    挫折はやっぱ望まれていない
    そういうことですかね
 
  ( ‥)たぶんそういうことじゃ
    ‐□ ないのかな
      ゼウスは負けたが
      挫折したわけじゃない
      そして
      ペルセウスやヘラクレスに
      至っては
      負けた事すら
      ないのだからね
 
 思うに、昨今の読者が挫折の物語を望んでいない、というのはただの言いがかりなんだろう。
 
 おそらく、現実はである、自分の書きたい物語が一般人の需要とずれているだけなのだ。ずれているだけなのだが、そんな現実を認める気になれず、世代論やありもしない若者の堕落のせいにしているだけなのだろう。今時の若いものは、という説明は、老人にとっては楽なのだ。
 
 あるいは仮に昔、一時でも挫折の物語がありだと見なされていた、それが本当だと言うのなら、”俺TUEEE”とは、物語が本来の姿へと復帰していく過程と見るべきだろう。
 
 誰も挫折なんかいちいち読みたくないのだ。
 
 ∧∧
( ‥)そりゃあなんと言いますかね
 
  (‥ )だってさ現実が
      挫折の連続なわけじゃんよ
      誰が娯楽の世界にまで
      現実の侵入を望むのかって
      話なわけよ
 
 それに考えてみれば大変な矛盾でもあろう。
 
 今時の読者は、挫折の物語を受け入れてくれない! 
 
 そうは言うが、だがしかし、このことこれ自体が挫折の物語なのだから、この現実を嬉々として受け入れれば良いではないか。挫折物語を認めろと主張する言い出しっぺが、どうして自分の挫折を率先して拒否するのか? なぜ泣き叫ぶのか?
 
 ∧∧
( ‥)自分の物語と違って現実が
    挫折しっぱなしだからじゃね?
 
  (‥ )自分の描いた物語では
      リベンジできるが
      現実にはそれができず
      物語は売れない
      だがしかし
      そーれーがーリアルよ。
 
 挫折して、そこから立ち直るなんてそんな非現実的なことあるわけがない。だのに、自分たち自身が、主人公は挫折から立ち直るという、最も非現実的なフィクションを恥ずかし気もなく語るのだ。

 そんなご都合主義を大声で言う人間が、挫折のない物語を、甘ったるいとか言うものではなかろう。
    
 
  
    

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