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2014年8月17日日曜日

お前のしていることはただのダブルスタンダードだ

 
 WW2における日本軍の特攻は、日本では国を守るための自己犠牲として敬意を評される。しかし敵国であったアメリカ人からすれば、こんな馬鹿なことをする連中は獣に違いない。原爆を落としても良いのだ、そう考えたのである。
 
 ∧∧
(‥ )嘘か本当か
\‐  そういう見解があるそうで
    これ、どう思います?
 
  (‥ )ああ、それは
      典型的な人間の意見だろ?


 
 ダーウィンのビーグル号航海記にこんな話がある。1832年。南米に到着して調査を始めた若き日のダーウィン。当時の南米は征服者である白人、白人と現地人の混血、抵抗するインディオ、アフリカから奴隷として連れてこられた黒人。これらが相争い、あるいは脱走し、あるいは虐げられる世界だった。今と同じと言えば同じかもしれないが、わずか200年あまり前、奴隷制度と人買い、人狩り、大量虐殺が堂々と行われていた時代であった。
 
 ダーウィンは途中、花崗岩の丘を通過した。聞けばここは以前。脱走した奴隷たちが隠れ住んだ場所だという。しかし、兵士が送られ脱走奴隷たちは次々に捕まった。最後の一人は老いた黒人の女性だった。彼女は奴隷生活に戻ることを拒否して、丘の頂上から身を投げて死んだ。
 
 ダーウィンはこれを次のように書いている。
 
 もしこれがローマの女性であれば自由を愛するがゆえの尊い行為であると言われただろう。だがこれが、老いた黒人の女性のこととなると、手に負えない強情な奴だと言われるだけなのだ。
 
 ∧∧
(‥ )ビーグル号航海記
\‐  第2章の冒頭で出てくる
    話だよね
 
  (‥ )ダーウィンの言いたい事は
      明らかよな
      お前たちが言っている事は
      ダブルスタンダードだ
      そういう批判だよね

 
 
 だが、人間は、こういうダブルスタンダードを平気で行うし、無神経に申し述べる。拷問で悲鳴を上げないインディオを見て、ああこいつらには神経が無いんだな、そう信じ込んだ白人征服者のように。
 
 これは古代人でも同じであったらしい
 
 ∧∧
(‥ )今読んでいる本だと
\‐  4世紀のローマ貴族
    シュンマクスは
    息子の祝いで殺し合いを
    させようと
    ゲルマン人を連れてきた
    だけど彼らが自殺してしまう
 
  (‥ )公衆の面前で
      仲間同士の殺し合いを
      強制されるくらいなら
      互いを絞め殺す自殺を
      彼らは選んだ
      そういう話なんだそうだな

 
 これは自分たちの名誉を守る行為だろう。そして、ローマ人だって同じような名誉は持っているはずだけども、シュンマクスはそういうことを全然感じなかった、むしろ不愉快な奴らだと思った。そういう話。
 
 *「ローマ帝国の崩壊 文明が終わるということ」ブライアン・ウォード=パーキンズ 白水社 pp51より
 
 **端的に言うと、当時のローマ人にとって現代ヨーロッパ人の源流でもあるゲルマン人こそが、殺しても構わない劣等な動物扱いだったし、名誉の自殺も馬鹿にされ、軽蔑された、ということでもある。
 
 ∧∧
( ‥)まあ人間はしばしば
    自分たちが所属する
    集団以外の人々を
    人間とは扱いませんから
    
 
  ( ‥)特攻するのは獣だ
    ‐□ 獣には原爆を
      落として良い
      その発想は
      ただの人間だよ
      ただの普通の人間だ
      しかしだな、
      だとすると
      相手も同じことを
      考えるはずなんだよな
 
 例えばの話である。アメリカは勢力を拡大しすぎて、ついに工業社会とか国民国家というものが無い、文明の縁辺部とでも言うべきところにまで拡張してしまったように見える。つまり敵は今や部族社会だ。そうである以上、部族社会との戦争を今後も続けなければいけないだろう。部族社会はばらばらゆえに交渉というものが成立しない。すると戦争は自動的に永久に継続されることになる。そして多分、部族社会の方が息が長い。それに対して組織化され、工業化された国は強大ではあるが社会を支える重大な動線がやられたら、崩壊してしまう。そして崩壊が始まったら再建まで時間がかかる。
 
 ∧∧
( ‥)部族社会と戦争をするとは
    そういうことである
    戦争は無限に続き
    ついには防衛線を突破される
 
  (‥ )部族社会の人々に
      攻め込まれたアメリカ人は
      何をすると思う?
      特攻でもなんでもするよな
 
 というか、ある意味ではすでにしたのだ。アメリカで同時多発テロがあった時、占拠された旅客機のうち少なくとも一機について言われているのは、この旅客機とテロリストたちもまた体当たり攻撃をしかけるつもりだ、このままでは私たちが死ぬだけじゃない、他の人々まで道連れにしてしまう。どうせ死ぬなら、せめて身をもって体当たりを阻止しよう、そう自発的に動いた乗客たちの決断であると。
 
 ∧∧
(‥ )つまり広義の意味における
\‐  自殺攻撃であると
 
  (‥ )テロリストはカミカゼと
      罵倒されるが
      乗客の自己犠牲は
      奉られるわけだ
      それ自体は当然なのだけどね
 
 味方の犠牲を弔い賞賛する。これは当然。敵を否定する。これも当然。
 
 しかし、これ自体が当然であるのなら、では? 予測するに部族社会の軍勢に攻め込まれた未来のアメリカ人ならどうするだろう?
 
 ∧∧
( ‥)決死隊、自殺攻撃、自爆、特攻
    妻や子供を守るために
    なんでもするだろうね
 
  ( ‥)でも、部族社会の人々は
    ‐□ なんだこいつら? と
      思って軽蔑するだろうな
      彼らは言うのではないか?
      300年前、アメリカ人は
      我々の祖先を殺した
      これは敵討ちである
      だがしかしそれ以上に
      こんな卑怯な獣共は
      皆殺しにしてしまえ
      そう言うだろうね
 
 人間は共同体に所属する生き物である。味方と敵で価値観を切り替えて、ダブルスタンダードなことをするのは当然だ。だがしかし、これを分からずに無邪気に言い立てるようではまだ青い。冒頭の話はあまりにも若いのだ。
 
 
 
 

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