自己紹介

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2013年3月22日金曜日

時間は腐食剤として作用する

 
 
 ∧∧
( ‥)でっ?
 
  ( ‥)そうねえ
 
 小学校で低学年の時、算数が上手な奴がいた。先生にほめられ、みんなからも「頭が良い」と言われていた。クラス替えでクラスのメンバーが代わり、高学年になったある日、ある時、彼と同じクラスになった奴に聞いた。
 
 「ああ、彼と同じクラスなんだよね? 彼、頭が良いだろう?」

 「ええ? あいつ? あいつはただの馬鹿だぜ??」

 そういう返事が返ってきた。確かに、ある日、ある時、彼を見た時、以前の得意満面な彼からは考えられないような、世界を恨み、睨みつけるような眼を思い出した。
 
 ∧∧
( ‥)なんか、神童と呼ばれながら
    ある段階からついていけなく
    なって落後する人、いますよね
 
  ( ‥)なぜなのかは知らんけどね
      算数までは良かったけど、
      数学できない奴がいるよな
 
 挫折すると、人はああいう恨みの眼で世界を見る。別に算数に限った話じゃない。スポーツだろうが、文芸だろうが絵だろうが同じだ。
  
 あるいはこんな、
 
 そやつは美術が好きだった。いや、もったいぶっていただけでアニメも漫画も好きだった。クトゥルーを読んでる自分が偉いと思っている奴だった。だけども実際にはそんなに読んでいなかった。なんというか、なぜだかインスマスっぽかった。彼は絵を描くのが好きだった。他人の絵をすぐに批評して、ここがいけないんだよ、と言うのはいいんだが、
 
 ∧∧
( ‥)でも、ご本人の絵がね、
    へたっぴなんですよね
 
  (‥ )へたなんだよなあ。
      びっくりするくらいへた
      なんだよねえ。
 
 それでも一般の人には、どこかうまく見える絵だった。時々、人からすごいね、と言われて得意だったが、まあ、僕らは黙っていた。こいつはへたくそだ、とは言わなかった。
 
 知ってか知らずか、ご本人はますます調子にのって、もったいぶって、絵はこうして描くのだ、こうしてデッサンの狂いを見つけるのだ。そう言っていた。
 
 だがへたくそなのだ。致命的にへたくそなのだ。
 
 美術の本を模写してもアニメや漫画の絵を模写してもへたくそだった。どういうわけだか技術が向上しないのだ。
 
 ある日、ある時、そやつがいない場所で1年先輩の部長がいった。
 
 「あいつは実力もないのに、自分は絵がうまいと思い込んでいる。かわいそうな奴だ」
 
 その先輩は一応、芸術系の学校へ進学した。
 
 あやつの方は絵がへたくそなままだった。
 
 
 ∧∧
(‥ )自分のこのデッサンはここが
\–   狂っているのだ、だから
     直すのだ、と言って
     いましたけども
 
  (‥ )たぶんなあ、あいつは
      うまい絵を描きたいから
      おかしな点を見つけようと
      したのではないと思うよ。
 
 あいつは単に的確に間違いを是正する職人芸にあこがれていただけで、もったいぶって巨匠や職人のまねごとをしているだけの馬鹿だった。
 
 どれだけ描いても、どれだけ修正してもまったくうまくならない。
 
 ∧∧
( ‥)同期にはもっとおおらかで
    楽しい人もいましたよね
 
  ( ‥)ただ、あいつも絵が
    –□ へたでなあ。
 
 彼は漫画を描いていた。陳腐だがなかなか普通に面白い漫画を描くのだが、いかんせん、ストーリーをはしょりすぎ以前に、絵がへたくそだった。いや、描く速度が遅すぎるのだ。遅いと絶対的に描く枚数が減る。つまり上達するわけがない。こなす速度がのろすぎるのだ。
 
 彼の漫画は、結局のところ思いついたストーリーをなんとなくノートに描きとめただけだった。
 
 ∧∧
( ‥)7年あまり東京でぶらぶら
    過ごして、とうとう親に
    実家へ連れ戻されました
 
  ( ‥)バイトもろくにしない、
    –□ 勉学もしない、
       貧乏アパートで
       気楽だけど自堕落な
       生活を送っただけで
       デビューもしないし
       デビュー以前の問題
       だった。
 
 あいつ、原稿用紙で漫画描いたり、ペンや墨を使う、ということすらしなかったなあ。
 
 ∧∧
( ‥)野球選手にあこがれるけど
    素振りしかしないみたいな
    ものですかね
 
  ( ‥)かもしれないねえ。
 
 結局、彼は自分の人生を自力では切り開かなかった。
 
  
 実家がそれなりな人がいた。イラストレーターだった。ただ、やっぱり絵がへたくそだった。この人も絵を上達させよう、という気はなかった。親を恨んでいた。でも実家で暮らしているままだった。だから稼ぎが低くても生活できた。いや、稼ぎが低いから実家にとどまったのか、実家にとどまったから甘えが生じたのか? 仕事もないけど生活できる。だから暇で暇だった。それなのに絵を描かずにゲームばかりしていた。真剣なのはゲームをする時だけだった。他の時間は眼に力が無かった。自分に都合の悪い現実を素通りさせるガラス玉みたいな、どうでもいい眼で周りをぼんやりと見回していた。
 
 ついでにいうとデブだった。
 
 ∧∧
(‥ )Yahoo知恵袋で、オタクは
\–   どうしてデブなんですか?
     という質問ありましたね
 
  (‥ )....あの知恵袋は
      なんでもありだな。
      オタクの定義は不明瞭だから
      より明瞭なデブの原因から
      論じるべきだと思うが。
 
 ゲーム、漫画、アニメ、いや、小説でもテレビでもドラマでもいい。こういう娯楽は体を動かさない。家から出ない。
 
 ∧∧
( ‥)さらに、それに夢中だ、
    というのなら
    部屋を出ないどころか、
    他のことには手を
    動かさないでしょうね
 
  ( ‥)自炊しないんだ。
    –□ 生活が不規則になると
       スーパーでものを
       買えなくなる。だから
       コンビニで買うことに
       なるだろうね。
       主に炭水化物系だろうな
       それも油脂がたっぷり
       そういうやつ。
 
 するとつまり、
 
 ∧∧
( ‥)生活に手間を向けない、
    デブになると
 
  (‥ )アニメを見るからオタク
      うんぬん以前にだな、
      こういう由来の肥満体を
      世間はなんと呼称するか?
      そう言う問題だね。
 
 
 ちなみに、この話で出てきた人たち。後になればなるほど年齢が上がっていく。
 
 ∧∧
( ‥)つまり後の人ほど、
    代謝が落ちている。
 
 ( ‥)でっ、後から出てくる人ほど
   –□ 生活に手間を向けない
      デブなのだよ。
 
 彼らの、自分には才能がある、絵がうまい、オレは評論できる、オレ様のアドバイスを聞けば君の絵はうまくなる、こういう勘違いな自信過剰は全部、ただの逃げだった。
 
 彼らはしばしば攻撃的になるが、それは挫折であったり、神童ともてはやされた栄光から滑り落ちた恨みでもあり、皆から白い眼で見られているという自覚の現れだった。
 
 ∧∧
( ‥)本当は絵を描くのが
    好きじゃない?
 
  (‥ )本当は自分が好きなだけで
      絵なんかどうでもよかった
      のさ。
 
 本当は好きなものなんてどこにもないのだ。自分だけが大好きで、でも大好きなはずの自分には才能がかけらもなくて、そんな自分が現実の中で傷つくことが怖くて、逃げているうちに無駄なデブになった。それだけの話。
 
 ∧∧
( ‥)それでも時はやってくる
 
  ( ‥)チャンスをつかもうと、
      なんとなく上京した。
      しかし何もできなかった。
      いや、外に出るのが
      怖かったのだな。
 
 上京しても部屋から出なかった。持ち込みをすれば”へたくそ”だとののしられ、ますます殻に閉じこもった。代謝は落ちて、生活は狂い、肉体はじょじょに肥満体となり、体力は落ち、気力は失せ、気がつけば35歳を過ぎ、40を越え、時間だけが無情に進行する世界の中で、神童ともてはやされた薄汚れた夢だけを抱えて、自分を見る周囲の白い眼を口汚くののしる根拠のないプライドの塊に...
 
 
 
 
 

 
 

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