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2017年6月4日日曜日

洪水のバビロン

 
 「バビロン」法政大学出版局 1976 という本がある。原題も[Babylon] J.Macqueen 1964
 
 ∧∧
( ‥)どうだ?
 
  ( ‥)...都市バビロン
    −/ 嫌な町だな
       こんなの抹殺すればいい
 
 とっ、そんなことを思ったところで思い出した、アッシリア最盛期の王、アッシュールバニパルのおじいちゃんが確かバビロンを完全破壊したのだった。誰でも考えることは同じらしい。
 
 ∧∧
(‥ )センナケリブ王だね
\−  反乱した都市バビロンを
    灰燼に帰さしめ
    さらに
    運河を決壊させて
    水を流し込み
    都市を基盤ごと押し流し
    完全破壊したという
 
  (‥ )でもこの本を読んだら
      息子のエサルハドンが
      復興させたのだな
 
 都市バブ・イリ、あるいはバブ・イラニ。その意味はすなわち神の門。これがギリシャ語化されて出来た後世の呼び名がバビロン。

 文明の発祥地メソポタミアには歴史の古い都市国家が幾つもあるが、その中における有力で、そして宗教の都市。神マルドゥクを祭り、支配者に王権の正統性を与える古き都にして、古来より続く交易路の重要地点。それこそが都市バビロン。
 
 ∧∧
(‥ )言い換えると
\−  王権正当化には必要だけども
    必要だからこそ
    皆が利用するので
    反乱の温床になるし
    古都という自負心があるから
    言うこと聞かないし
    交易路だから力があるし
    おまけに
    別宗教の権力者から見ると
    邪魔でしょうがない
    でも地域に根を張ってるから
    王権には必要だ
 
  (‥ )嫌な町だろう?
      プライドあるし
      権威もあるし
      必要なんだけども
      使いづらいし
      すぐ手のひら返すし
      むしろ危険
       
 
 古代メソポタミアは、どうも中国の春秋戦国時代のようなもので、各都市の各支配者がそれぞれ全土に覇を唱えることを何度も繰り返しつつ、じょじょに統一や版図が拡大する時代であったらしい。

 そういう中、歴代の覇王たちは、バビロンを権力の正当化に利用したり、しかし使い勝手が悪いのでその抹殺や無力化をはかったり、あるいはそうした弾圧後の救済者としてふるまったりとめまぐるしい。もちろん、バビロンそのものが覇王になることもあった。ハンムラビの帝国などはそのひとつ。
 
 時代が過ぎるにつれて、おおむね都市バビロン、都市アッシリアの二つが優位を持つようになったみたいだが。
 
 ∧∧
(‥ )バビロンと覇を争った
\−  都市アッシリア
    あるいは
    都市アッシュール
    これも相当古い町なんだけどね
    彼らの宗教は
    彼ら自身の都市神である
    アッシュールだったせいか
    バビロンのような
    普遍的な権威は
    持てなかったようですなあ
 
  (‥ )ご当地神様だからな
      彼らのような
      覇王からすると
      バビロンはむしろ
      邪魔だよね
      それを考えると
      アッシリアの
      センナケリブ王が
      バビロンを大破壊したのは
      当然だよな
 
 昔、センナケリブ王の所行を聞いた時は、さすがアッシリア、暴虐しよると思ったものだが、こんなバビロンの歴史を知れば、そりゃ破壊抹殺するよね、と思う。
 
 しかしそこまで大破壊してもどうにもならないので、息子のエサルハドンがバビロンの宗教権威を利用するという形で都市バビロンを再興させる。
 
 だがそんなことしたって誰も恩なんか感じやしない。もちろん、復興後も、バビロンのよそ者にまつろわぬ性質は当たり前だけどもそのまんま。
 
 アッシュールバニパル王による最盛期を過ぎて、アッシリアの覇権に陰がさすと、アッシリアのバビロン知事、ナボポラッサルが早速反乱を起こし、彼が次の覇王となった。
 
 こうして都市アッシリアは、自ら復興した都市バビロンによって滅び去る。そして再び覇王となりおおせた都市バビロン。これがいわゆる新バビロニア王国。
 
 ∧∧
(‥ )でもその新バビロニアでも
\−  当の王様が異教を奉じて
    バビロンの権威から
    離れようとしたり
    その王様を打倒して
    伝統の復興、解放者として
    やってきた次代の覇者が
    ペルシャ帝国だけど
    そのペルシャも
    バビロンには結局
    重税をかしたりしてる

 
  (‥ )自らの都市神を奉る
     アッシリア
     ゾロアスター教のペルシャ人
     次の支配者である
     アレクサンドロスに
     率いられた
     これまた異教のギリシャ人
     彼ら異教の覇王からすれば
     バビロンの権威や
     その利用価値って
     そんな高くないよね
 
 
 実際、ペルシャ王は自ら身につけていたバビロンの王という称号を低く扱い始め、ついには放棄したという。
 
 ∧∧
(‥ )そりゃあペルシャ帝国は
\−  バビロンの支配や
    権威が通じる地域より
    はるかに広大な領域と民族を
    支配する覇王ですからなあ
    この時代における
    バビロンの重みって
    おそらく
    地域的なものだよね
    そしてはるかに巨大な
    領土を持つ大帝国にとって
    一地域をつぶすことは
    かつてと比べて造作も無い
 
  (‥ )バビロンの権威は
      時代の流れに
      取り残され始めた
      ということかもね
 
 
 この本の締めくくりは、バビロン衰亡の決定的な原因はギリシャ人だったという内容だ。アレクサンダー大王の没後、この地域を支配したセレウコス朝は新都セレウキアを建設する。時代に応じて変わりつつあった交易路に適した新都を作る。場所はほぼバビロンなのだけどもバビロンよりも交易に適した別の場所だ。そんな意図はなかったかもしれないが、これが衰亡を決定づけた。

 アッシリアのセンナケリブ王による大破壊でもなしえなかったバビロン衰退はこれによって決まり、4世紀後、パルティア討伐にやってきたローマ皇帝トラヤヌスがバビロンを訪れた時、そこは廃墟と砂漠になっていたという。
 
 
 

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