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2017年6月25日日曜日

日本すげー! ではホルスタインでしょう

 
 日本酒は途中の行程で65度ぐらい温度で酒を温める。

 これによって酵素の機能を失わせ、それ以上、反応が進まないようにしたり、あるいは風味を壊す雑菌を殺す。
 
 このように風味と長期保存を可能にする行程が火入れ。
 
 この火入れが始まったのは300年ばかり前と言われる。
 
 さて、この火入れ、現在で言う低温殺菌だ。低温殺菌はまま読むとパスツールゼイション(Pasteurzation)。155年前、フランスの化学者パスツールが1862年に示した方法であり、彼の名前を冠した手法である。
 
 ∧∧
(‥ )でっ、こういう話を聞くと
\−  火入れを
    パスツール以前に独自に
    見つけた日本人すごい!
    と言い出す人が出てくる
    わけだけど
 
  (‥ )いやそれって
     日本酒は温めて飲むけど
     ワインは温めて飲まないから
     じゃねーの?
     
 
 という話は先にした通りだ。日本酒は温めて飲むから、熱燗にして忘れて放置すれば、あれ? 風味が悪くならない、と誰かが気づくだろう。
 
 だが温めて飲まないワインでは誰も気がつかない。
 
 もちろん、この考え、これだけではただの思いつきである。
 
 ∧∧
(‥ )でも古代ローマ人は確か
\−  ワインをお湯割りにして
    飲んだよな
    と思って調べたら
    ローマではワイン製造の
    最終行程で熱を加えた
    という記述が果たして出てきた
    それはワインを煙で
    いぶす行程で
    その部屋を
    フマリウム(fumarium)と言う
 
  (‥ )はい、思いつきを
      支持する証拠が
      出てきましたよ
 
 もちろん、別の可能性もあろう。例えばローマ帝国は広大で、各地の産品を帝国全土に出荷する。つまり産業が専門化するし、長距離輸送と長期保存が必要になってくる。フマリウムは、そうした過程で試行錯誤のすえに編み出された行程なのかもしれない。
 
 
 ∧∧
(‥ )ともあれあれだね
\−  パスツールさん以前の
    パスツールゼイションは
    日本の専売特許では
    どうもなさそうだって
    ことは確かっぽい
 
  (‥ )さらに調べたらな
      中国にも
      日本より古い事例がある
      みたいなんだよね
 
例えばこれ=>chinese pasteurization 11century wine - Google 検索
 
 
 ∧∧
(‥ )これは11世紀の例だね
\−  他にもお酒を熱々で
    つめることで
    長期保存を可能にした例が
    あるみたいだね
 
  (‥ )やっぱどうも世界中で
      色々な人々が
      パスツール以前に
      低温殺菌を見つけた
      ということっぽいな
 
 *追記すると1116年に書かれた中国の古いお酒の本「北山酒経」に火入れのことが書いてあるそうだ=>https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/86/4/86_4_287/_pdf
 
 
 
 まあなんというか、

 パスツール以前に火入れを見つけた日本人すげー!
 
 とか
 
 パスツールのような科学がなくても日本人は問題なかったほど偉大なのです!
 
 とか、
 
 そういう誇大妄想的な自慢話は根拠がない、ということである。
 
 いや、そもそも以上のような妄言の何が問題なのかというと
 
 ∧∧
( ‥)すげー! とか 偉大!
    は説明には使えない部品だ
    ということですな
 
  (‥ )これから仕組みを作ったり
      仕組みを把握しなければ
      いけない時にだな
      すげー!
      とか
      偉大!
      なんて部品を
      組み込んでもらっちゃ
      こまるんだよ
 
 さて、どうすれば勝てる? どうすれば勝つ仕組みを作れる? そう思い悩んでいるその時に、この”すげー!”部品を使えば勝てます、と言われてもそれは駄目だ。
 
 ∧∧
(‥ )日本人すごいとか
\−  日本人偉大とか
    それは価値観でしかないからね
    そんな部品では
    仕組みは動いてくれない
 
  (‥ )昔聞いた話のようなものだ
 
 電車の中でずっと独り言をしゃべっている人間がいる。なにかの疾患なんだろうが、僕の考えた仕組みを使えば電車の問題なんか全部解決なんだな..と言っている。彼はなにか複雑な回路図らしきものを紙に書き込んでいるのだが、だがしかし、その真ん中にあるいかにも重要な部品に書かれた文字は
 
 ”ホルスタイン”
 
 ∧∧
(‥ )日本人すごいとか言うのも
\−  このホルスタインみたいな
    ものでしょうなあ
    意味のない部品が
    万能解決機として
    でーんと論のど真ん中に
    鎮座している
 
  (‥ )日本人すげー! とか
      日本人偉大! とか
      その手の部品は
      こういう無意味な
      万能解決機でしかなくて
      使えないんだよ
 
 だが人はこの部品をどうしても使いたくなるのだ。
 
 なぜって具体的な手段を思いつかないからである。思いつかないから、なんでも解決できるすげー部品というのをでっち上げるが、それは所詮のところ中身不明のブラックボックス、つまりホルスタインで、当然、説明能力も解決能力も持っていない。
 
 それでも人はこれを使いたがる。ブラック企業の社長ががなり立てるスローガンのように、そして、根性論しか出せない馬鹿な体育教師のように。
 
 ゆえに言われるのである。パスツール以前に火入れを見つけた日本人すげー! とか黒魔術言ってるようでは、お前は所詮のところブラック企業の社長や馬鹿体育教師と同じなのであると。
 
 
  

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