自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2015年4月4日土曜日
なぜ否定しようと考えたのか? それが根源
生物学者リチャード・ドーキンスがセルフィッシュ・ジーン(selfish gene)、すなわち利己的遺伝子という言葉を使った時、それに衝撃を受けた人々がいた。
人間は社会性動物だ。特に近代化が進んだ社会では、利己的なことをしてはいけないとされる。誰もがそう教えられ、そしてそれを強制される。
それゆえ、利己的遺伝子という言葉を反社会的と見なして身震いした、そんなところだろうか、
もちろんこれは奇妙なことである。そもそも道徳は”人間が利己的な存在ではない”ということを意味していない。道徳が示すことはむしろ逆である。物事が禁止されるとは、実態がそうではない、ということだ。
すなわち、道徳は現実の否定である。
そうである以上、道徳の存在が示すのは次のようなことに他ならぬ。
人間は利己的な存在でお互いを出し抜き、自分だけ甘い汁を吸おうと考えている個体の集合である。
∧∧
(‥ )でも自分はそうしたいけど
\‐ 他人が勝手なことをして
自分が不利益をこうむるのは
いやなんだよね
(‥ )ゆえに裏切り者を
抹殺しようとするのだ
道徳の正体とはこれだ。
相互監視による裏切り者の探索、そして私刑と抹殺による裏切り者の排除、これこそが道徳。
道徳はただただ利己的な目的から生じてきた冷淡で現実的な打算であり、それを実現するために表面的な約束事を提案してきた。そう言うこともできよう。
だがおかしなもので、人間の中にはこの現実に耐えられないものがいる。
あるいはこう言えばいい?
道徳は、外見上は現実の否定、という形式をとっており、その根底にある冷酷で暴力的で利己的な動機を覆い隠している。
一方、親や社会から、人は表面的な禁止だけを教えられる。この時、これをただ鵜呑みにして、この部分だけに異様に拘泥する個体が存在する。
彼らは利己的な遺伝子という言葉には耐えることができなかった。多分、利己的なことをしてはいけませんよと入力されたことと、人間が利己的にしか振る舞わないという現実、この二つの衝突に心が耐えられなかったのであろう。
もちろん大概の人間はこんなこと気にしない。しかし人間は大量生産品ではなく、品質は一定していない。このコンフリクトに耐えられないものが、数は少ないが必ず存在する。
彼らは利己的遺伝子という言葉を否定しようと考えた。
例えば曰く、利己的遺伝子という言葉は擬人化である。実際の遺伝子は考えないのであるから遺伝子の擬人化は間違いである。ゆえに利己的遺伝子は間違いである。間違いである以上、遺伝子が利己的に振る舞うということ、これもまた間違いである。このような主張。
∧∧
( ‥)しかしこれは
言葉の把握に誤りが
あることによる誤謬
( ‥)擬人化は誤りである
‐□ だから擬人化された
遺伝子の振る舞いも
間違いである
この論が間違いだな
例えば擬人化された戦艦長門が、私が見たかったのはこんな光じゃない、と言った時、戦艦は人間ではないのだから彼女のこの叫びも事実ではない、こう主張することは正しいであろうか?
∧∧
( ‥)間違いだね
戦艦長門は実際に
核実験の標的に
されて沈没したからね
(‥ )まあそういうことだ
この誤りはさながら次のようなものである。白い1羽のカラスが見つかれば、カラスが黒いことは否定される。同様にカラスという言葉に含まれるすべての事柄が間違いとなる。カラスがカーカー鳴くという事柄も否定される。
∧∧
(‥ )実際のところ
\‐ 白いカラスの発見で
否定されるのは
”すべてのカラスが黒い”
という言及だけですよね
大部分のカラスは黒いという
現実自体は
何も否定されていない
他の事柄もまたしかり
(‥ )やはりこれもそうだ
名詞の把握と組み立て
ここがおかしくなってる
つまりこれはhilihiliのhilihili: そして理屈だけが骨張って残ったの続き
∧∧
( ‥)名詞の把握がおかしい人が
誤謬を犯している?
(‥ )いや多分
そういう複雑な事柄では
ないんだと思うけども
多分、話は非常に単純ではなかろうか。
人間の思考の大部分は、思いつきと後付けの理論で構成されている。これは恥じることではない。当たり前だし他にやりようがない。
そしてこれを踏まえると以上の誤謬の理由は単純であろう。
∧∧
(‥ )利己的な遺伝子という言葉を
\‐ 否定したい人が
そのために名詞を
恣意的に運用した
文章を破綻させるわけには
いかない以上
論理的な歪みは
名詞の中にしわ寄せされ
隠される
(‥ )そうすれば一見したところ
破綻の無い綺麗な文章を
作成することができる
それだけのことだと
思うのだがな
文章の歪みを無くせば、それは名詞の内部にしわ寄せされ、名詞の破綻として隠される。
つまり名詞の使い方と指示対象を検討すれば、主張の破綻や誤謬が明らかとなる、そういうことでもあろう。
そしてまたこれは、誤謬自体は結果でしかない、ということを示している。
∧∧
( ‥)つまり誤謬は
名詞の使用に隠されているが
誤謬の原因は
彼の最初の思いつきに
起因している
( ‥)つまりな
‐□ なぜそれを否定しようと
お前は思ったのか?
これが問われるべき
根源なのだな
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