今を去ること25年前の1990年、湾岸戦争が勃発した時、自分は学生で、教授がこんなことを言ったことを覚えている。
アメリカはどうなっていくのかな? どこか国家主義的で軍国主義的で悪い方向へいくのではないかな。言論の自由とか制限されてしまうのではないかな。ちょっと心配なんですよね。
∧∧
( ‥)今にして思えば
(‥ )今にして思えば
教授の言い様は
正しくもあり
そして
間違ってもいるな
そもそも民主主義は戦争から産まれてきたし、民主主義は国民全員が兵士として動員される軍国主義に他ならぬ。国家主義的で軍国主義的とは民主主義の本質そのものだろう。
その点では教授の言い様は的外れだ。
∧∧
(‥ )でも懸念は大当たりでね
\‐ その意味ではまったく
正しかった
(‥ )ブッシュ(父親)は
クウェートのイラク軍を
たたき出しただけで
イラクには
攻め込まなかった
それをアメリカ国民は
良しとしなかった
結果的にパパブッシュは
勝利者であるにも関わらず
二期目がなく
クリントンに破れた
アラブの指導者は負けを認めないと聞いたことがある。負けを認めると殺されるからだとも聞いた。実際、フセイン大統領はアメリカに勝利した! と述べた。
これを聞いたアメリカ国民は、こんなことは聞き流せば良いのに、それをしなかった。彼らは怒った。我々の勝利は盗まれた、と。ブッシュの判断は間違っていたのだと。
2003年、イラク戦争が勃発。パパブッシュの息子であるブッシュjrはイラクへ攻め込んだ。これをアメリカ国民は喝采して支持した。
この熱狂ぶりを良しとしなかった人もいる。中にはこれをスターウォーズになぞらえて”帝国”と呼ぶ人もいたらしい。ようするに共和制を守るためと称して戦争と軍事力の増大、そしてパルパティーン議員による軍事独裁が進む物語に、現実を重ね合わせたのである。
∧∧
( ‥)でも?
そもそも民主主義は
軍国主義であるとしたら
それこそが
正しい民主主義であると
(‥ )古代ギリシャ以来
異民族を征服し
男を殺し
女子供を奴隷にして
売り飛ばす
これが民主主義だからな
近代民主主義も
同様のことをもっと
大規模にやったろ?
言い訳はできないぞ
むしろ問題があるとしたら、認識の甘さにあったように思われる。
クウェートから敵をたたき出しただけで止まったのはなぜか?
大義が立たぬだけでない。アメリカは陸戦では勝てない。それにイラクを粉砕したら、スンニ派、シーア派、クルド人、その他もろもろが割拠している地域がどうなるか分かったものではない。
だから止まった。いや、止まらなければいけないのだ。
アメリカ国民にはこの認識が確実に無かった。そうでなければパパブッシュを失脚させたりしないだろう。そうでなければ勝利が盗まれたと叫んだりしなかっただろう。そうでなければイラクに改めて攻め込んだりしなかっただろう。
すべては国民が自ら決めたことであり、そうである以上、自己責任を取るべき決断であった。
∧∧
(‥ )どっちかというと
\‐ 理解が浅いこと
これこそが問題だった
そういうことですかね
(‥ )民主主義は統治を
成功させたことが
ないんだよ
殺す、奪う、奴隷化する
これしかしたことがない
民主化すればうまくいく
こんなこと歴史的には
起きなかっただろ?
ありもしないことを
出来ると思い込むのは
ただの妄想だよ
教授が言った、言論の統制が起こるというのは、まあ確かに起こったようである。しかし、全員が兵士になる国だ。歩みを乱すものが袋だたきにあうのは当然だろう。
∧∧
( ‥)民主国家であれば
言論の統制は当たり前だと
(‥ )独裁制における統制とは
別の形で
自主的な統制があるのだな
実際
ソクラテスは殺されたろ?
民主国家には民主国家の
言論統制があってな
それに逆らった者は
殺される
これは当然
そうでないと隊列が
乱れるからな
当たり前だよね
民主主義には民主主義の言論の自由があろうが、民主主義には民主主義の言論統制がある。それも当たり前だろう。しかも全員が命をかけて戦う場である。異論を挟むものを全員が袋だたきにするのも当たり前だろう。人間は個体の集合として社会を作り、社会は個体の相互作用で成立している。なれば、人間の社会ならば相互監視が当然。
全員が隊列を組む民主制には義務と統制と相互監視があり、裏切り者の排除がある。この世界に自由はあるが、義務という意味での統制がある。自由は無い。
∧∧
(‥ )それを考えると教授の
\‐ 言い様は
指摘においては正しく
この点においては
間違っていたとも言える
(‥ )統制があるのが
問題じゃない
状況を把握できて
いないのが問題なんだ
それは本来、プロである官僚が正すべきことのはずなんだけども、直接民主制がいけなかったのであろうか? 素人臭い思い込みでイラクに攻め込んで、そしてこの有り様である。
∧∧
(‥ )師匠のソクラテスを殺された
\‐ 弟子のプラトンは
民主主義に絶望して
プロの政治家と軍人による
独裁を夢想した
(‥ )その点ではプラトンって
まだしも
まともなんだな
実際、アメリカのあの有り様を見て、こんなの言論統制だ、これは軍国主義だ、こんなの民主主義じゃない、これはパルパティーンに率いられた軍事独裁だ、そんなことを言い出す連中がいる。
いやいや気づくべきはそこではない。
これが民主主義なのだ。相互監視とリンチと略奪と奴隷化しかできない巨大な殺人兵器。これぞ民主主義。こんなやばいもの、扱いは慎重に行なうべきである。
これに絶望して民主主義を否定したプラトンは、パルパティーンがどうのと言う人よりも、現実を見据えていたのだろう。
∧∧
( ‥)でも実際にやってきたのは
プラトンさんの考えた
理想国家ではなく
二世議員が率いる
プロの軍人集団
無敵のローマ軍だった
わけだけどね
(‥ )世襲制議員が
プロの政治家なのだ
だけど官僚がまだ
存在しないんだよな
ここに官僚を加えるまで
さらに長い時間が
必要だったのだよね
それを考えれば官僚組織を整備している現在の民主制は昔に比べるとかなりまともではあろう。
だが、それでもなお、直接民主制は素人の有権者と直結しているために、どうも危険であるらしい。実際、その結果が今の世界である。