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2014年9月7日日曜日

光合成に規定された未来

 
 石油と石炭が尽きたとする。さらに核融合も高速増殖炉も実現できなかったとする。
 
 ∧∧
(‥ )ありえないわけではない
\‐
 
  (‥ )豊かになった国は
      福祉という必要経費が
      増える一方
      低賃金労働者を
      発明しなければならぬ
      義務と税金が大きくなって
      豊かだけども余力の無い
      社会になっていく
 
 いや、もしかしたら我々の世界は豊かだからこそ余力の無い社会になった、そう言うべきなのかも知れぬ。
 
 豊かを水位とする。豊かさが進行すると水位は上昇し、ついにはより豊かな地域からお金が流れ込まなくなる。もはや流れが存在しない以上、これまでのように”落差を利用した自動的な発電”はできなくなる。必然、豊かゆえに余裕のない社会になる。そういうことやもしれぬ。
 
 いずれにせよ、こうなると新技術にかける金は少なくなっていく。事実、科学技術にかける予算は削減されている。現状を維持するのに必死であるがゆえ、未来の可能性とその模索は制限される。つまりブレークスルーの実現が遠のく。その一方で人口が増える。耕地は拡大すると同時に消耗され、当然、環境は破壊され、気候は変化する。

 必然、人は移動するし、移住先で摩擦と軋轢が起こる。紛争が勃発する。というか、すでに起きかけている。それを押さえるために膨大な余力がさらにそこへ裂かれる。
 
 核融合と高速増殖炉、自然界に普遍的にある水素で発電する技術、ウラン燃料の燃焼を飛躍的に伸ばす技術。いずれもまだ実現していない。こういった大規模かつ新規な技術は、安定した豊かで余力のある社会でないと発明できない。社会が不安定化すると実現が不可能になる。電力の安定供給を実現する技術は、電力が安定的に供給されていないと実現できない。
 
 つまり、状況それ自体が未来を閉ざす方向へと急激に収束する。
 
 ∧∧
( ‥)まあ、取りあえず
    そういうことにしましょうか
 
  ( ‥)とりあえずそうしよう
    ‐□ この未来は
      荒っぽく言うと
      光合成の速度にすべてが
      規定されてしまう世界
      だよね
 
 この世界で重さ10キロの米をどこまで運べるか。
 
 ∧∧
(‥ )20キロのお米を担いで
\‐  行きに5キロ食べ
    目的地で10キロを下ろして
    帰りに5キロ食べて戻る
 
  (‥ )10キロの米を
      担いで運ぶために
      往復で10キロの米を
      消費する場合だなあ
 
 さてどう計算したら良いのか?
 
 ご飯のカロリーは無視する。あれは水でふやけた重量だ。米のカロリーは100グラムで356kcalだと言う。つまり10kgの米ならその100倍、3万5600kcal
 
 ∧∧
(‥ )成人男子の
\‐  1日の消費カロリーは
    力仕事で3000kcal
    だとありますが....
 
  (‥ )単純に割り算すれば
      ほぼ12日分だな
      これは往復だから
      片道6日分なんだが
 
 仮に1日につき20kmを歩けたとして
 
 ∧∧
( ‥)片道120kmですか
 
  ( ‥)重量20kgの荷物を
    ‐□ 背負った重労働
      それを6日間行って
      120km先の場所に
      10kgの米をとどけるのが
      精一杯ってとこか
      1人の人間が2週間で
      食い終わるような量の
      食料を届けるために
      他の人1人が
      2週間の重労働を
      しなければならない
      考えてみれば
      当たり前だがな
 
 そしてこの計算。必要だろう肉や野菜は計算に入れていないし、米を炊く水の事も考えていない。それは現地で調達してくれ、ということでもある。
 
 ∧∧
(‥ )”食べる分のお米”も
\‐  現地で調達できるのなら
    それにこしたことは
    ないけども
 
  (‥ )家畜を使う手もある
      有蹄類の家畜は
      低カロリーの草を与えても
      重労働ができる
      もしも道路の整備を
      ちゃんと出来るのなら
      荷車を使っても良い
 
 問題はである。こうやって効率化しても、結局これは”植物の光合成の速度”に全面的に依存する、ということなのだ。
 
 ∧∧
( ‥)お米も、家畜の飼料も
    それを宿屋に集める労力も
    道路整備の人に必要な
    食べ物も
    これらすべてが
    植物の光合成によって
    生産された産物である
 
  ( ‥)つまり、この文明は
    ‐□ 植物の光合成の速度に
      完全に制限されて
      しまうわけだ
 
 考えてみれば、これがかつてローマ帝国が直面した事態であった。
 
 ∧∧
(‥ )まあ、ローマ帝国どころか
\‐  19世紀以前の国家は
    どれもそうですけどね
 
  (‥ )そしてこれを考えないと
      僕らはかつての人々が
      何に直面して
      何に対して
      必死になったのか
      それが分からなくなって
      しまうわけだよ
 
 石油はこの問題をすべて解決できる。かつて行われた数百万、数千万年分の光合成。それによって作られた酸素と地下に埋没した炭化水素。これは古代の太陽エネルギーであり、これを一気に消費すれば、以上の問題のすべてが解決される。
 
 100万年分を100年で消費するなら、単純計算で通常の光合成の1万倍だ。
 
 では、それが尽きたらどうなるか?
 
 ∧∧
( ‥)すべてがローマ帝国に
    戻ってしまう
 
  ( ‥)もちろん、
    ‐□ 農業の飛躍的増産を成した
      農薬、化学肥料、
      そして品種改良は
      残るわけだ
 
 しかし、圧縮された太陽エネルギーである石油が尽きた今、人が手に出来るのは圧縮されていない”薄い太陽エネルギー”だけだ。光合成がそうであるし
 
 ∧∧
(‥ )水力も風力も結局は
\‐  太陽エネルギーに由来する
    運動エネルギーと
    位置エネルギーでしか
    ないからね
 
  (‥ )つまりあれらが
      石油の代替物になることは
      ありえない
      電力自体は作れても
      石油消滅後の状況は
      打開できない
      というか
      打開できるのなら
      とっくに打開して
      いるからな
 
 しかも、農薬を作る工場も、化学肥料を作る工場も、そしてそれらの工場に必要な備品や原料を運搬する輸送機関も、これらを運営するにはそのすべてにおいてエネルギーが必要である。それが”薄い太陽エネルギー”に制限されてしまう世界では、農薬も化学肥料も、品種改良を行う農業試験場も今のようには動けない。ローマ帝国よりも状況はましなはずだが、今よりはるかに困難な世界になること疑いない。
 
 ∧∧
(‥ )電車は動かせるけど
\‐  本当に制限があるよね
 
  (‥ )電車自体は非常に
      効率の良い仕組みだけど
      メンテナンスに必要な
      部品を作る工場と運営を
      考えただけでも
      困難は明白だよな
 
 困難は目白押しである。電気の供給が限られた世界では電気分解とか、電気を使った精錬方法が非常に限定的になるだろう。例えばアルミやアルミ合金はありきたりには存在しないだろう。1円玉はアルミ製ではなくなっているだろうし、構造物の軽量化は非常に難しくなる。軽量な車両がない以上は、軽量さを前提にした計算も成り立たない。何もかも勝手が違っているはずだ。
 
 多分、電車は輸送用に限定されているし、長距離移動のための電車はあっても、通勤電車などありえないのではないか? 少なくとも、今よりも輸送の方に重点が置かれているはずだ。皆は勤め先の近く、つまり社宅に住んでいるのかもしれない。そして、輸送機関は事実上、電車しか存在しないのではなかろうか。ガソリンがない以上、車はありえない。電気自動車は走れるが、そもそも供給できる電気が限られている。アルコール燃料なども結局は光合成に依存しないといけない。ばかすか動かせるようなものではあるまい。個人のものというよりは、用途が限られた特殊車両ではなかろうか。
 
 つまり、電車で物流の主要部分をつなげた世界であり、駅から下ろされた品物は人力や家畜を利用して運ぶ、そんな世界になるだろう。冷蔵庫が各家庭にあるとは限らないので、発酵食品や塩漬け、乾燥食品が今以上に流通しているかもしれない。豆腐も自動車ではなくて自転車で売っているのだろう。エアコンはちょっとなさそうである。それでもネット自体は存在するのだろう。仕事の発注はメールだろう。Amazonは存続しているにしても企業形態がずいぶん変っているはずだ。もしまだ存在しているのなら電車の物流会社になっているのだろうか? あるいはクロネコも存在していて、駅に集荷された物品を、人力で運んでいるのだろうか?
 
 ∧∧
( ‥)一見すると牧歌的だけど
    この状況でも戦争や防衛や
    紛争は継続しているだろうね
 
  (‥ )しかもだよ
      石油がない以上
      以上と同様な理由で
      兵站や防衛だけでも
      大変な負担を
      強いられるわけだ
      この世界の人々は
      今以上の義務と税金に
      囲まれて暮らしている
      のじゃないかな
 
 
 
 
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