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2014年9月12日金曜日

英雄として死なないと、人として死ぬ権利さえもない

 
 hilihiliのhilihili: 英雄物語に収束しないの続き
 
 *注:なにか気になって読み返したらアトレイデス公爵家であるべきところを”伯爵”と書いていたので、2014.09.13に伯爵の部分を公爵に修正
 
 
 ∧∧
(‥ )物語のヒーローって
\‐  どう死ねば良いのでしょうね
 
  (‥ )個人的には
      「砂の惑星」のポウルの
      最後が印象的かなあ
 
 主人公ポウルは王子であり、王家は帝国における有力諸侯のひとつ、公爵家である。しかしその強大な力を憂慮した皇帝は公爵家の排除をもくろんだ。もちろん帝国を統治する皇帝家が堂々と諸侯を取り潰すわけにはいかない。そこで公爵家と敵対関係にあった男爵家を隠れ蓑に使った。男爵家が公爵家を襲撃する。その時、男爵家の軍隊にまぎれて皇帝の親衛隊、無敵のサルダウカー軍団を投入すれば良い。
 
 父親も友人である部下も、多くの臣下をも殺された主人公は砂漠へ逃れる。そこで帝国に抑圧されてきた人々に出会い、彼らと共に戦い、ついには彼らのリーダーとなり復讐を開始する。長引くゲリラ戦。ついに腰を上げて直接介入に踏み切ってきた皇帝を打ち倒し、王子は男爵家の者たちを皆殺しにする。彼はもはや英雄だ。王子は新たな皇帝となり、愛する彼女を手に入れる。
 
 ∧∧
(‥ )英雄物語の典型だよね
\‐  英雄は高貴な血を引く
    家庭に問題がある
    親族から命を狙われる
    苦難に出会う
    仲間を手に入れる
    敵を打ち倒し財宝と姫を
    手に入れる
 
  (‥ )主人公は妾の子なんだよな
      公爵は正妻がいないのだ
      あくまでも将来の
      政略結婚のため
      正妻の座を空白にして
      いるだけで
      臣下もそれを
      十分に承知している
      しかし王族特有の問題が
      家庭にあるのは疑いない
      しかも、
      誰もが知らなかったけど
      公爵が愛する妾は
      宿敵である男爵の
      娘なのだよね

 
 英雄の母親は、いわば予言者育種計画の一環で用意された者だった。それを目論んだ者たち、ベネゲセリットの魔女。魔女たちが男爵から一体どうやったものか子種を奪い、男爵すらも知らぬままに子供を産み、育てて、そうして公爵家へ嫁がせた。それが彼女だ。
 
 ∧∧
( ‥)つまり主人公はおじいさんに
    命を狙われ
    おじいさんは知らずに
    自分の孫を殺そうとする
    そういう物語
 
  ( ‥)作者のハーバードは
    ‐□ 砂の惑星は
      竜退治で宝物と姫を
      手にするような物語だから
      日本人にも受け入れられる
      みたいなことを
      言っていた記憶があるが
      どこまで意図して
      この物語を
      紡いだのだろうねえ?
      まさに英雄物語の
      典型だよね
 
 そして、英雄物語は英雄の不憫な死で終わらねばならない。それが古今東西、英雄譚の有り様だ。砂の惑星は、ここでもまたそれをなぞる。
 
 魔女たちの予言者育種計画は確かに成功した。ただし、それは一世代早かった。皇帝となった英雄こそが予知能力者、彼は予言者であり、彼は救世主である。彼を神とする宗教が起こり、砂漠の民は聖戦を引き起こし、その圧倒的な暴力は魔女を初め、帝国の諸勢力をことごとく屈服させた。

 しかし、すべての権力を手にして比類無き支配者となった英雄は、自らが犯したあまりの暴力に憂い、手に入れた予知能力から自分が愛する彼女に危機が迫っていることに気がつく。そして後ろ向きな選択肢を取る。すべてが悪い道で閉ざされた未来の中で、彼女が一番楽に死ねる道を選ぶのだ。英雄の絶大な予知能力に抗えるものなどいない。彼が未来を見れば、世界はその通りになる。英雄は目を失うが、それでも物が”見える”。現在と彼の予知が同期しているからだ。宇宙のすべて、路傍の石と風に舞うホコリとチリに至るまで、何もかもが英雄の手の中。
 
 しかしそれは、かつて英雄が屈服させたギルドとその予知能力者たち、ギルドナビゲーターがやったことと同じであった。つまり未来を覗くばかりで、自分で可能性を開こうとしない。彼女を失い、すべてを知った英雄は、もう僕は自由の身だ、そう言って一人、砂漠へと歩んでいく。
 
 ∧∧
( ‥)ところがどっこい
    主人公は生きていて
    後でもう一度、登場します
 
  (‥ )見るも無惨な姿になって
      かつて自分が捨てた
      世界のために
      もう一度戻ってくるのだな
      人々に自分が英雄であると
      悟らせないままに

 
 そうして英雄は、今度こそ本当の死を遂げる。宇宙最強の力を手にしていた彼は、暴漢の手にかかってあっさりと、あっけなく死ぬ。
 
 多分、今時だったら、これは”原作レイプだ!”と言われるのかもしれない。
 
 ∧∧
(‥ )原作レイプ
\‐  物語をアニメ化、ドラマ化
    映画化する際に
    原作を改変せざるをえないが
    それが原作を
    蹂躙するような改変の場合
    ”原作レイプ”と揶揄される
 
  (‥ )もちろん砂の惑星は
      ハーバードの連作だから
      どれも原作なのだがな
 

 しかし、この前、こんな話を聞いた。続編が作られたオリジナルアニメ。1作目の主人公が2作目の最後でようやく出てくる。もう飛べない車椅子の姿で。これを見て曰く、これでは公式が原作レイプだと。
 
 
 ∧∧
( ‥)英雄の最後をそう描く事は
    許しません
    英雄の幸せな物語の続きを
    そのように描くことは
    たとえその続編が
    原作であっても
    一期を貶める原作レイプだ
    そういう声ですか
 
  ( ‥)まあたしかにな
    ‐□ 自分もポウルのあの姿を
      読んだときは
      ええ??
      と思ったからな
      ああいう時の思いを
      どう表現するか?
      原作レイプという言い様は
      それが適切うんぬん以前に
      そういう表現のひとつと
      考えるべきなんだろうね
 
 しかし、以上で取り上げたオリジナルアニメはともかくとして、ポウルから言わせれば、これは余計なお世話なんだろう。彼は王族として義務ばかり教え込まれて、皇帝になってからはさらに義務が増えた。救世主になったことは友人を失うことだった。砂漠の民の指導者にして、ポウルの戦友でもあったスティルガーは、もはや自分を神として見ている。敵を討ち滅ぼす戦いと勝利は、数百億の人々を殺す大虐殺だった。高貴と寛容と礼節と名誉で知られた公爵家の旗は、血塗られた恐怖のシンボルとなった。これは読み手が架空のキャラクターの心情を推し量るうんぬんの問題ではなく、小説自体がそういう愚痴のようなもので構成されている。舞い上がる英雄物語の後日談である救世主編は、どこか陰鬱である。
 
 そして英雄として彼が自ら砂漠へ歩んでいくのも、実は義務であった。あまりにも厳しい環境で軍隊的に生きてきた砂漠の民には、目が見えなくなったものは砂漠に捨てる、という慣習があった。英雄は指導者としてその慣習に従っただけなのだから。
 
 ∧∧
(‥ )それを考えると
\‐  砂漠から帰ってきた
    ずたぼろのポウルさんは
    むしろ人として
    自由に生きたってことだよね
 
  (‥ )ポウルの死は二つある
      救世主編は英雄の死
      子供たち編は人としての死
      そういう評価があったけど
      そういうことだろうな
 
 物語の英雄はどう死んだら良いのか? 多分、物語を作る人には、この問題が重くのしかかる。
 
 ∧∧
( ‥)ポウルさんの事例は
    そのひとつの解答だと思う?
 
  (‥ )おそらくね
      そしてそれは
      人として死にたいのなら
      まず
      英雄として死なないと
      いけないのだ
      そういうことだろう
 
 ところで
 
 ポウルは宿敵ハルコーネン男爵の孫であった。これ自体は良いのだが。
 
 ∧∧
(‥ )でも男爵ってホモだよね
\‐  70代のじいさんだけど
    若い男の子を好むという
    案外に絶倫だよね
    ポウル可愛いなあ、とか
    言ってるしね
    ショタでホモで
    近親相姦ですよ
 
  (‥ )なんだろうなこの三重苦
      ともあれだ
      魔女たちは
      予言者育種計画において
      遺伝子を掛け合わせる際
      男爵の遺伝子を
      どう採取したのだろうな?
 
 例えばこんな?
 
 さあ、今日は一段と可愛い坊やだな。なっ? お前っ! 女??? 一体どこで我が寝所に女が...。そうか、魔女か! なに? 体が、動かん...

 運動神経の伝達を一時的に弛緩させるツボを押しました。さあ、口数の多い男爵、あなたの遺伝子を頂きましょう。あれ? 立たないわね?
 
 ふははっ、女の裸など見て立つようなわしではないわ! 引き下がれ魔女! 何を考えているのか知らんが、今なら見逃してやるぞ。
 
 はい、ではこちらとここのツボを押してこうしちゃいまーす
 
 って、なにい?? わっ、わしのチンチンがあっ!
 
 では、意思と無関係に、無慈悲に事務的に頂きますねー。あらよっと。
 
 やめろー! やめろー! やめてくれー
 
 
 ∧∧
( ‥)だからあの人
    魔女嫌いなの?
 
  (‥ )男爵の魔女嫌いって
      異様だろ?
      だけども作中、
      説明は一切無しで
      理由を問われただけで
      男爵は激怒する
      しかも魔女たちは
      男爵の子種から子供を
      作っているわけだ
      怪しいと思わないかね?
 
 
 ほんのわずかな手がかりと違和感。狂える計算機人間パイターが状況演算の結論に基づき、猛然と踏み込んだとき、すでに事はすみ、魔女はその少し前に立ち去った後だった。戸惑う部下どもを一喝し、追跡と人払いをすませ、一見すると侵入者を自力で撃退し鷹揚に構える風を装う男爵に問う。
 
 蛇の巣を這い上がった王とは思えませんな。

 ....
 
 まるで生娘のようですぞ男爵。 
 
 ....


 ...私めを手打ちにする気も起こりませんか?
 
 覚えておくとも。お前を使い捨てるその日まで覚えておくぞ、パイター
 
 その調子ですぞ男爵。あなたに仕えるとは、こうでなければいけませんからな。さあ、我が主こちらへ。部屋と飲み物を用意してございます。
 
 
 ∧∧
(‥ )パイターさんって
\‐  もっとエキセントリック
    だけどね
 
  (‥ )ツンデレですよ
      ツンデレ
 
 
 

      

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