自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2013年9月28日土曜日
努力、友情、勝利を信じた人は帰還できるか?
hilihiliのhilihili: 努力、友情、勝利が、そもそも詐欺の手口だったら、どうする?の続き
1:ヒーローの母親は高貴な血筋のものであり、処女である
2:ヒーローの父親は王である
3:そして多くの場合、王はヒーローの母親となった女性の近親でもある
4:ヒーローが受胎されるのは異常な状況下である
5:ヒーローは神の子であると噂されるようになる
6:彼の誕生を阻止しようと、彼を殺そうとする試みがなされる。それはしばしばヒーロー自身の父親、あるいは母方の祖母などによって行われる
7:だが、ヒーローはそれをはねのける
8:そして養父母によって、遠い異国の地で成人になるまで育てられる
9:幼年時代のことは語られない
10:成人すると、彼は生まれ故郷に戻る。あるいは後に彼が王国を築く事になる地へとおもむく
11:王に対して勝利し、あるいは巨人、あるいは竜、あるいは野獣に対して勝利する
12:ヒーローは姫と結婚する。姫はしばしば彼が獲得した、その地を支配していた者の娘である
13:ヒーローは王となる
14:彼の統治は平穏である
15:彼は法を定める
16:しかし、やがて彼は神の恩恵を失い、あるいは、臣民をも失う
17:ヒーローは王の座を降り、町から去る
18:そしてヒーローは異様な死を遂げる
19:そこはしばしば丘の上である
20:たとえ、ヒーローに子供がいたとしても、継承しない
21:ヒーローは埋葬されない
22:そうなったにも関わらず、ヒーローが幸せになる後日談が、ひとつか、それ以上ある。
by Raglan FitzRoy Richard Somerset ,Baron. 1936
意訳の所があるし、ネットでこの部分の原文を読みたい人は例えば以下を参考
=>Lord' Raglan's Hero Pattern
*ちなみに1の royal virgin は高貴な血筋の未婚女性、とか、あるいは単純に、お姫様と言うべきかもしれないけども、ここでは高貴な血筋のものであり、処女であると訳している。その理由は...
∧∧
( ‥)ちょっと長いね
(‥ )じゃあ、こう言えばいい?
:ヒーローは高貴な血統である
:ヒーローを殺そうとする者たちがいる。それはしばしばヒーローの血縁者である
:ヒーローは養父母に育てられる
:成人したヒーローは冒険の旅に出て、敵を打ち倒し、お姫様を手に入れる
:しかし、ヒーローは結局のところ最後を迎える。
:ヒーローの最後はバッドエンドであり、幸せにはならない
:そういうわけでハッピーエンドな二次創作が制作される
∧∧
(‥ )ラグランさんという人が
\‐ 1936年に述べたこと
みたいですね。
ヒーローには共通する
パターンがあると。
(‥ )ご本人はもともと軍人
みたいだね。でも、
西欧世界ではこういう人が
普通に科学や学問するよな
貴族が学問と科学の
推進役だった
歴史の反映かな
英雄譚には共通するあるパターンが見られる。
これが英雄神話の絶対普遍的なパターンである、と言い切るのは、たぶん間違いなのだろう。確かに思い当たるふしはある。ギリシャ神話のヘラクレス、ペルセウス、ローマの建国者ロムルス、以上のパターンにかなりな程度、当てはまる英雄を探すのに苦労はしない。
∧∧
( ‥)でも、西欧世界の物語が
こういうパターンを
踏襲しているだけかも
しれない。だとしたら
これは単なる焼き回しの
系譜だ、という話に
なるのかもしれない。
( ‥)そもそもラグランさんが
‐□ 例としてあげたのが
ヘラクレスを始めとする
ヨーロッパ世界の
英雄譚だからな。
当てはまるのは
当たり前だね。
それに、あまりに複雑なパターンはなんにでも拡張できるし、なんにでも当てはまるのかもしれない。
とは言うものの、
まったく高貴な血統ではなく、神と関連性を持つ事もなく家族の中で幸せに過ごし、自分の普通の能力を訓練でただ伸ばし続けて冒険を成功させ、幸せ三昧に暮らした、という例があるかというと。
∧∧
( ‥)ちょっと思いつきませんね
(‥ )つまり、友情、努力、正義
そんなもの最初から
どこにもないし、
求めている人がいても
ごく少数だよ、
そういうわけだな。
見返してみれば、3年前にもこんなことを書いていた
=>hilihiliのhilihili: どちらが夢を見ているのか
∧∧
(‥ )うろ覚えで書いたせいか、
\‐ 英雄譚の共通点に関する
記述に誤り、
あるいはラグランさんの
指摘と違う点がありますね
(‥ )我ながらうかつだな...
ともあれ、友情、努力、勝利、それを求める人はいるが、同時に誰も求めていない。そういうことはここから分かるだろう。
それをふと、先日思い出して検索をかけたら、血統、覚醒、勝利、という言葉が出てきたのであった。
∧∧
(‥ )掲示板の議論でね、
\‐ あなた自身は
英雄譚をうまく要約してる
と感心したけども、
(‥ )まあ、要約した人自身は
努力と言いつつ、
どの漫画もアニメも
結局は
血統重視じゃないかよ
ちきしょーっ、という
揶揄のつもりらしいの
だけどもね。
だがしかし、はからずもこの指摘は正しいのだ。ヒーローの物語は、努力、友情、勝利ではない。血統、覚醒、勝利である。
努力、友情、勝利など、血統にはりつけられた、見栄えは良いが、薄っぺらな化粧に過ぎぬ。
∧∧
( ‥)そしてヒーローの出生は異常
(‥ )この場所ではない
どこか、
この普通の親ではない
誰か、
それがヒーローと
その由来だよ。
ある人は言った。セーラームーンなどにもそういう側面があるが、少女漫画を読めば分かる。女の子は、自分は本当はお姫様である。ここは本当の家ではなく、彼女は本当の母親ではなく、自分の本当の居場所はここではない。遠い異国のすばらしい場所にこそ、本当の家と居場所があり、母親がいるのだ。そう考えると。
∧∧
( ‥)でもそれ、男の子も
同じだよね。
というか、それこそが
英雄譚であると
(‥ )ハリーポッターが
そうだし、
スターウォーズも
そうだよな。
考えてみれば英雄譚は因果関係の順序が逆だ、とも言える。神の子だから英雄なのではない。英雄になれるほどの異才を放つから、彼は神の子だ、彼女はプリンセスだ、と言われるんだろう。
∧∧
(‥ )ペルセウスも、ゼウスが
\‐ ダナエーと交わって
生まれたのが
ペルセウスである、
という話がある一方で、
彼女は男に犯された、
というどちらかというと
普通の出生譚というか、
受胎譚もあるみたいですね
(‥ )まるで、
まず英雄が実在して
英雄の異能を
説明するために
英雄は神の子である
そう二次的に言われた、
そういう風にも
受け取れるよね。
*「アポロドーロス ギリシア神話」岩波文庫 pp79~80を参照のこと
実際、ヒーローは異常な存在だ。
というか、異常でないとヒーローにはなれない。
そして才が異常であるがゆえに、出生やその才能の源、さらには死までもが、異常なものとして飾り立てられるはむしろ必然。
∧∧
( ‥)努力で得られる才なれば
それは異常にあらず
( ‥)考えてみればさ、
‐□ 神話で努力したり
訓練してる場面って
あまり聞かないよね。
大胆に解釈すれば
:異常な才を持つがゆえにヒーローは異常な出生を持つとされる
:読者が自分の今の境遇に不満を持つ以上、仰ぎ見られるヒーローもまた不遇でなければならない
:そしてヒーローは読者が望む、富と宝を手にしなければならない
∧∧
( ‥)しかし、読者は英雄譚を
読んで夢の世界で遊んだ後、
現実に帰還しなければ
ならない
(‥ )ゆえに、
夢の担い手である英雄は
現実の前に死ななければ
ならないのだ。
ああ、2年前にはこういうことを書いていたけども
=>hilihiliのhilihili: 悲劇は現実帰還のための儀式
∧∧
(‥ )ファンタジー小説において、
\‐ 異世界におもむき、
大活躍した主人公は
最後は異界から現実世界に
舞い戻りますからね
(‥ )自分が異能の才を
発揮できる場所、
そんなありもしない
都合の良い場所に、
読者はいつまでも
いちゃいけない
そういうことだろうな。
英雄だってそうだろう。ただ、彼らはファンタジー物語とは逆だ。現実世界から異界へいったのではなく、異界から現実世界に来た人々だった。
∧∧
( ‥)だから彼は帰らねばならない
(‥ )ヘラクレスが最後は
謀略にはまって毒で肉が
はがれ、自ら山の頂で
火葬されたように、
ロムルスが嵐のさなか
おそらくは元老院に
謀殺されて、
死体も残らなかった
ようにね
ファンタジー物語は読者に帰還を強制する。ヒーローたちは無惨な死を遂げて、退場を余儀なくされる。
つまり、血統、覚醒、勝利。これはうまい要約だけども、肝心な部分が足りない。
∧∧
( ‥)血統、覚醒、勝利、
そして無惨で異常な死
(‥ )あーとは二次創作の
出番ってわけだなー
ハッピーエンドの二次創作を作る人は、たぶん、一度遊んだ物語に、再び遊びにいったのだろう。一度帰ってきたのだ、また帰ってこれるのだろう。
だが、努力、友情、勝利。これを信じた人は果たして帰って来れるだろうか?
現実世界において努力だの友情だの、そんなもの役立ちはしない。だのに、それが役立つと信じて、あろうことか漫画やアニメの世界に旅立った彼らは、こちらへ戻って来れるのだろうか?
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