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2013年9月28日土曜日

努力、友情、勝利を信じた人は帰還できるか?

 
 hilihiliのhilihili: 努力、友情、勝利が、そもそも詐欺の手口だったら、どうする?の続き
 
 
 1:ヒーローの母親は高貴な血筋のものであり、処女である
 2:ヒーローの父親は王である
 3:そして多くの場合、王はヒーローの母親となった女性の近親でもある
 4:ヒーローが受胎されるのは異常な状況下である
 5:ヒーローは神の子であると噂されるようになる
 6:彼の誕生を阻止しようと、彼を殺そうとする試みがなされる。それはしばしばヒーロー自身の父親、あるいは母方の祖母などによって行われる
 7:だが、ヒーローはそれをはねのける
 8:そして養父母によって、遠い異国の地で成人になるまで育てられる
 9:幼年時代のことは語られない
 10:成人すると、彼は生まれ故郷に戻る。あるいは後に彼が王国を築く事になる地へとおもむく
 11:王に対して勝利し、あるいは巨人、あるいは竜、あるいは野獣に対して勝利する
 12:ヒーローは姫と結婚する。姫はしばしば彼が獲得した、その地を支配していた者の娘である
 13:ヒーローは王となる
 14:彼の統治は平穏である
 15:彼は法を定める
 16:しかし、やがて彼は神の恩恵を失い、あるいは、臣民をも失う
 17:ヒーローは王の座を降り、町から去る
 18:そしてヒーローは異様な死を遂げる
 19:そこはしばしば丘の上である
 20:たとえ、ヒーローに子供がいたとしても、継承しない
 21:ヒーローは埋葬されない
 22:そうなったにも関わらず、ヒーローが幸せになる後日談が、ひとつか、それ以上ある。
 
 by Raglan FitzRoy Richard Somerset ,Baron. 1936
 
 意訳の所があるし、ネットでこの部分の原文を読みたい人は例えば以下を参考
 =>Lord' Raglan's Hero Pattern
 
 *ちなみに1の royal virgin は高貴な血筋の未婚女性、とか、あるいは単純に、お姫様と言うべきかもしれないけども、ここでは高貴な血筋のものであり、処女であると訳している。その理由は...
 
 ∧∧
( ‥)ちょっと長いね
 
  (‥ )じゃあ、こう言えばいい?
 
 :ヒーローは高貴な血統である
 :ヒーローを殺そうとする者たちがいる。それはしばしばヒーローの血縁者である
 :ヒーローは養父母に育てられる
 :成人したヒーローは冒険の旅に出て、敵を打ち倒し、お姫様を手に入れる
 :しかし、ヒーローは結局のところ最後を迎える。
 :ヒーローの最後はバッドエンドであり、幸せにはならない
 :そういうわけでハッピーエンドな二次創作が制作される
 
 ∧∧
(‥ )ラグランさんという人が
\‐   1936年に述べたこと
     みたいですね。
     ヒーローには共通する
     パターンがあると。
 
  (‥ )ご本人はもともと軍人
      みたいだね。でも、
      西欧世界ではこういう人が
      普通に科学や学問するよな
      貴族が学問と科学の
      推進役だった
      歴史の反映かな
 
 英雄譚には共通するあるパターンが見られる。
 
 これが英雄神話の絶対普遍的なパターンである、と言い切るのは、たぶん間違いなのだろう。確かに思い当たるふしはある。ギリシャ神話のヘラクレス、ペルセウス、ローマの建国者ロムルス、以上のパターンにかなりな程度、当てはまる英雄を探すのに苦労はしない。
 
 ∧∧
( ‥)でも、西欧世界の物語が
    こういうパターンを
    踏襲しているだけかも
    しれない。だとしたら
    これは単なる焼き回しの
    系譜だ、という話に
    なるのかもしれない。
 
  ( ‥)そもそもラグランさんが
    ‐□ 例としてあげたのが
      ヘラクレスを始めとする
      ヨーロッパ世界の
      英雄譚だからな。
      当てはまるのは
      当たり前だね。
 
 それに、あまりに複雑なパターンはなんにでも拡張できるし、なんにでも当てはまるのかもしれない。
 
 とは言うものの、
 
 まったく高貴な血統ではなく、神と関連性を持つ事もなく家族の中で幸せに過ごし、自分の普通の能力を訓練でただ伸ばし続けて冒険を成功させ、幸せ三昧に暮らした、という例があるかというと。
 
 ∧∧
( ‥)ちょっと思いつきませんね
 
  (‥ )つまり、友情、努力、正義
      そんなもの最初から
      どこにもないし、
      求めている人がいても
      ごく少数だよ、
      そういうわけだな。
 
 見返してみれば、3年前にもこんなことを書いていた
 =>hilihiliのhilihili: どちらが夢を見ているのか
 
 ∧∧
(‥ )うろ覚えで書いたせいか、
\‐   英雄譚の共通点に関する
     記述に誤り、
     あるいはラグランさんの
     指摘と違う点がありますね
 
  (‥ )我ながらうかつだな...
 
 
 ともあれ、友情、努力、勝利、それを求める人はいるが、同時に誰も求めていない。そういうことはここから分かるだろう。
 
 それをふと、先日思い出して検索をかけたら、血統、覚醒、勝利、という言葉が出てきたのであった。
 
 ∧∧
(‥ )掲示板の議論でね、
\‐  あなた自身は
    英雄譚をうまく要約してる
    と感心したけども、
 
  (‥ )まあ、要約した人自身は
      努力と言いつつ、
      どの漫画もアニメも
      結局は
      血統重視じゃないかよ
      ちきしょーっ、という
      揶揄のつもりらしいの
      だけどもね。
 
 だがしかし、はからずもこの指摘は正しいのだ。ヒーローの物語は、努力、友情、勝利ではない。血統、覚醒、勝利である。
 
 努力、友情、勝利など、血統にはりつけられた、見栄えは良いが、薄っぺらな化粧に過ぎぬ。
 
 
 ∧∧
( ‥)そしてヒーローの出生は異常
 
  (‥ )この場所ではない
      どこか、
      この普通の親ではない
      誰か、
      それがヒーローと
      その由来だよ。
 
 ある人は言った。セーラームーンなどにもそういう側面があるが、少女漫画を読めば分かる。女の子は、自分は本当はお姫様である。ここは本当の家ではなく、彼女は本当の母親ではなく、自分の本当の居場所はここではない。遠い異国のすばらしい場所にこそ、本当の家と居場所があり、母親がいるのだ。そう考えると。
 
 ∧∧
( ‥)でもそれ、男の子も
    同じだよね。
    というか、それこそが
    英雄譚であると
 
  (‥ )ハリーポッターが
      そうだし、
      スターウォーズも
      そうだよな。
 
 考えてみれば英雄譚は因果関係の順序が逆だ、とも言える。神の子だから英雄なのではない。英雄になれるほどの異才を放つから、彼は神の子だ、彼女はプリンセスだ、と言われるんだろう。
 
 ∧∧
(‥ )ペルセウスも、ゼウスが
\‐   ダナエーと交わって
     生まれたのが
     ペルセウスである、
     という話がある一方で、
     彼女は男に犯された、
     というどちらかというと
     普通の出生譚というか、
     受胎譚もあるみたいですね
  
  (‥ )まるで、
      まず英雄が実在して
      英雄の異能を
      説明するために
      英雄は神の子である
      そう二次的に言われた、
      そういう風にも
      受け取れるよね。
 
 *「アポロドーロス ギリシア神話」岩波文庫 pp79~80を参照のこと
 
 実際、ヒーローは異常な存在だ。
 
 というか、異常でないとヒーローにはなれない。
 
 そして才が異常であるがゆえに、出生やその才能の源、さらには死までもが、異常なものとして飾り立てられるはむしろ必然。
 
 ∧∧
( ‥)努力で得られる才なれば
    それは異常にあらず
 
  ( ‥)考えてみればさ、
    ‐□ 神話で努力したり
      訓練してる場面って
      あまり聞かないよね。
 
 大胆に解釈すれば
 
 :異常な才を持つがゆえにヒーローは異常な出生を持つとされる
 :読者が自分の今の境遇に不満を持つ以上、仰ぎ見られるヒーローもまた不遇でなければならない
 :そしてヒーローは読者が望む、富と宝を手にしなければならない
 
 ∧∧
( ‥)しかし、読者は英雄譚を
    読んで夢の世界で遊んだ後、
    現実に帰還しなければ
    ならない
 
  (‥ )ゆえに、
      夢の担い手である英雄は
      現実の前に死ななければ
      ならないのだ。
 
 ああ、2年前にはこういうことを書いていたけども
 =>hilihiliのhilihili: 悲劇は現実帰還のための儀式
 
 ∧∧
(‥ )ファンタジー小説において、
\‐  異世界におもむき、
    大活躍した主人公は
    最後は異界から現実世界に
     舞い戻りますからね
 
  (‥ )自分が異能の才を
      発揮できる場所、
      そんなありもしない
      都合の良い場所に、
      読者はいつまでも
      いちゃいけない
      そういうことだろうな。
 
 英雄だってそうだろう。ただ、彼らはファンタジー物語とは逆だ。現実世界から異界へいったのではなく、異界から現実世界に来た人々だった。
 
 ∧∧
( ‥)だから彼は帰らねばならない
 
  (‥ )ヘラクレスが最後は
      謀略にはまって毒で肉が
      はがれ、自ら山の頂で
      火葬されたように、
      ロムルスが嵐のさなか
      おそらくは元老院に
      謀殺されて、
      死体も残らなかった
      ようにね
 
 ファンタジー物語は読者に帰還を強制する。ヒーローたちは無惨な死を遂げて、退場を余儀なくされる。
 
 つまり、血統、覚醒、勝利。これはうまい要約だけども、肝心な部分が足りない。
 
 ∧∧
( ‥)血統、覚醒、勝利、
    そして無惨で異常な死
 
  (‥ )あーとは二次創作の
      出番ってわけだなー
 
 ハッピーエンドの二次創作を作る人は、たぶん、一度遊んだ物語に、再び遊びにいったのだろう。一度帰ってきたのだ、また帰ってこれるのだろう。
 
 だが、努力、友情、勝利。これを信じた人は果たして帰って来れるだろうか?
 
 現実世界において努力だの友情だの、そんなもの役立ちはしない。だのに、それが役立つと信じて、あろうことか漫画やアニメの世界に旅立った彼らは、こちらへ戻って来れるのだろうか?
 

 
 

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