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2015年11月5日木曜日

これ罠じゃね?

 
 賢く腕の立つプログラマーは生物の遺伝子とその冗長さを笑う。だが、彼が気がつくべきことはそこではない。彼が気づくべきは、進化という、自分とまるで違う設計理念によって形作られた生物を、自分は決して再現することが出来ないということではなかったか?
 
 ∧∧
(‥ )実際には生物を再現することは
\‐  簡単なんだよね
 
  (‥ )そっくりそのまま
      複製すれば良いだけ
      だからな
 
 人間の脳神経や伝達物質や様々な関わりを解明すれば、人工知能など原理的には容易に作れることだろう。
 
 ∧∧
( ‥)手間も工夫も新技術も
    必要だろうけどね
    原理は簡単
    電子的にそっくりそのまま
    再現すれば良いだけの話
 
  ( ‥)でも現在の僕らの知識は
    ‐/ 自らの神経と
       その発現に関しては
       ほとんど何も知らないに
       等しいよな
 
 現状、ショウジョウバエ、エレガンス線虫、マウスなど実験動物で遺伝子の発現と神経の成長の様子がだんだんと分かってきた程度。人間の心の構造を完全に把握するのはまだずっと遠い先の話だろう。
 
 ∧∧
(‥ )それにも関わらず
\‐  人工知能を作ろうってのは
    考えてみればむちゃくちゃな
    話ですよね
    中身も仕組みも分からないのに
    外見だけ模倣して
    知った気になろうという感じ
 
  (‥ )まあ産業的には
      それで十分なんだよな
      オペレーターの受け答えを
      機械で完全に再現できます
      これは産業には
      大変な衝撃だからね
 
 もちろん、機械の維持費が人件費より大幅に下がることが条件ではあるが。

 ともあれ、これを考えると人工知能の研究は、実はかなりハリボテに近いのだ、とも言える。 
 
 ∧∧
( ‥)それを言うと激怒するのでは?
 
  (‥ )怒ることはない
      方向性が違うから
      そこはしょうがないよ
      そう言えば良いんじゃね?
 
 それに、外見だけとは言え、実際に模倣できているモデルがあるなら、現実の理解に役立つはずだ、そう申し述べることも可能である。説得力があるかないかは別問題であるが。
 
 そんなことよりも
 
 次のように考える。
 
 生物の遺伝子とその発現はこんなに冗長なんだ。生物は腕の悪いプログラマーが作ったんだねww
 
 だがこの発言をしている人間の頭脳も、彼自身が言う、”腕の悪いプログラマー”によって作られたのである。
 
 さらに言えば、彼の発言、これ自体が”腕の悪いプログラマー”によって出力されたものである。
 
 そして彼はこの発想にとどまる限り人工知能は作り出せないであろう。阿呆でないと出来ない仕組みを彼は賢いがゆえに模倣できない。できてもそれはせいぜいレプリカント止まりだろう。
 
 かように、彼を制約するのは彼自身の発想であり、そしてこの発想の限界は進化的に作り出されたものである。
 
 つまり、端的に言えばこうだ。
 
 人間は自らの似姿である人工知能を作り出せないように、進化的にプログラムされているのではないのか?
 
 ∧∧
(‥ )原理的には可能であるのに
\‐  発想が可能ではない...と
 
  (‥ )一般のプログラマーは
      ともかくとして
      人工知能の研究者は
      このあたりのことを
      考えたりするのかね?
 
 ある日、人工知能の研究者は生物学者と遺伝学者の論文を見て思った。生物の遺伝子の発現はなんと冗長でいい加減なのだろう? 神様は阿呆に違いない。
 
 しかし彼はふと思いつく。
 
 俺は神よりも頭が良い。だが生物も、俺のこの頭脳も、この発想も、それを進化的に作り出したのはいわば神。我々は今や進化を創造主と呼ぶ。
 
 神は阿呆だ。
 
 だが、その阿呆が作った仕組みを我々天才たちは再現できない。
 
 それは、知能は阿呆でないと作れないということか?
 
 そして俺は神より頭がいい。
 
 つまり、俺が人工知能を作れるわけがない。そういうことか??
 
 そうだよ....阿呆でないと人工知能は作れないんだ。
 
 なぜこんなことに気がつかなかったのか? 
 
 ここで彼は天啓を得た。 
 
 これは神の罠だ! 阿呆でないと作れない仕組みなのに、俺たちの頭脳には、賢いことが良い事ですー、とささやくプログラムを組み込みやがったのだ! 
 
 そう気がついて見回した世界はなんということか。
 
 すべては鏡のようなものであった。
 
 すなわち、自らの神経が投影してできる鏡の世界。

 物体を正確に映し出す鏡はまるで表面がないように見える。

 しかし触れてみれば壁はたしかにそこにあるのだ。
 
 これまでどこまでもいけると見えた周囲と可能性と未来への展望は、そのことごとくがまやかしであった。

 見直して見れば、あらゆる方角が突破不可能の壁。
 
 神を愚かとあざわらうすべての天才が、その愚かで無知な神の掌から一歩たりとも外へ出ることができぬ。
 
 
 ∧∧
(‥ )こんな話は
\‐  聞いた事ないですけどね
 
  (‥ )とはいえだよ
      進化の結果誕生した
      俺たちの頭脳が
      自らの遺伝子の発現を
      冗長と笑う
      だが笑われた遺伝子こそが
      発言者の頭脳と神経回路と
      さらには
      発現者の発想と価値観と
      理解と認識そのものを
      支配しているのだ
      これは事実だろう?
 
 これを罠だと呼ばずになんと言おうか?
 
 そして事実、この世界には展望というものが無い。
 
 
 
 

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