自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2015年1月5日月曜日
それは一律に塗りつぶす理解ですが、それで良いのですか?
以前にも話題にしたYahoo知恵袋の質疑応答の例=>弱者を抹殺する。不謹慎な質問ですが、疑問に思ったのでお答え頂ければ... - Yahoo!知恵袋
ネットでは、素晴らしい内容だ、とまたもや話題になっている。
∧∧
(‥ )でも実際にはどこから
\‐ 突っ込んで良いのか
困るような回答だと
(‥ )細々したところを
抜かせばだ
要するにこの回答は、
人間は遺伝的な弱者を生かすことで遺伝的多様性を高めて、将来に起こるであろう環境変動などに備えている。それが人間が種として持つ生存戦略である。
というものなのだけども、残念、遺伝的多様性を高める効果を担っているのは、人間ではなくてメンデル遺伝であり、雌雄という性の仕組みだ。つまり人間の専売特許でもなんでもない。
それにまた、将来的にどうであれ、今、現時点で有害な効果をもたらす遺伝子をひたすら蓄えれば将来に備えられる、というのは正しくはない。
例えば表面的に現れてはいないが、有害な遺伝子を普通よりも顕著に多く持っている集団があるとする。というか、回答者の言う事が正しいのなら、そうでなければならない。
こういう場合、隔絶して他所の人間があまり入ってこないような山奥の村はどうなるだろうか?
集団が小さいと近親結婚が起こりやすい。通常よりも有害な遺伝子が多いと、通常よりも有害な遺伝子が発現しやすくなるだろう。
すると死ぬ人が出たり、あるいは子供を残せなくなる、そういうことが通常よりも顕著に多く起こることになる。
もちろん、人口は減る。すると近親結婚が強まる。するとより多くの有害遺伝子が発現しうる。すると人口がさらに減る、すると...
∧∧
( ‥)場合によってはその村は
全滅する可能性がある
( ‥)これは村に限った話じゃない
‐□ 人間は最初はそういう
小さな集団で生活していた
わけだからな
こんな風に頻繁に絶滅が
起こるようでは
この”生存戦略”とやらは
進化しにくいだろうなあ
生存戦略とやらは実際には存在しない。
何かの行動を引き起こす遺伝子があるだけだ。その中で何らかの意味で有利だった遺伝子がその結果として数を増やす、それだけの話。
つまり、
有害遺伝子を積極的に保護しようという生存戦略を司る遺伝子が増加して集団中に定着できるのか?
その根拠が示されないと以上の回答は意味をなさない。
そして増えるのはどうも明らかに無理っぽい。絶滅を引き起こしてしまうようではどうにもうまくないだろう。
確かに、人間は弱者を保護する動物でもある。子供を生みっぱなしにはしないし、哺乳類の中では珍しく(少なくとも形の上では)雄も子育てに参加する。老人や何らかの障害を負った人を助ける行動も古くから見られる。人類最古の文明であるシュメールの神話にもそういう話が出てくるそうだ。
∧∧
(‥ )でも有害な遺伝子を
\‐ 積極的に保存しているか
というと
そうではないよね
(‥ )そもそもそれは
メンデル遺伝と
性が果たす役割だからな
我々の弱者保護は
遺伝的多様性うんぬんとは
関係ないか
結果的にそういう効果が
あったとしても
非常に弱いよね
そもそも、メンデル遺伝と性があるおかげで、人間の全員が有害遺伝子をすでに持っている。中には発現すると致死的な効果をもたらすものさえある。これも全員持っていると考えて良い。つまり貯金があるのだ。だからそんな積極的に増やす意味があるのか? ということでもある。
実際、有害な遺伝子は持ち主が時々死んでしまうことで消えていくが、変異で生まれてもくる。退場する数と入場する数によって劇場内部にいる変異はすでに均衡状態にある。
∧∧
(‥ )つまりメンデル遺伝によって
\‐ もう全部の変異が
それぞれの分だけ
蓄えられている
(‥ )積極的に増やすというのは
この均衡状態を
破る事だし
破るにはそれだけ
利益がないといけない
その利益が”いつか来るかもしれない何か”という曖昧模糊としたものである以上、人間の生存戦略とは有害なものも含めて変異の積極的な保護だ、という理屈は成立しないだろう。
それにしても、すでに変異の貯金はあるし、進化するとも思えない”生存戦略”とやらの話を真に受ける人が多いのはなぜであろうか?
ふと思った。
(‥ )これって血液型占いと
同じじゃねえか?
∧∧
( ‥)お前は何を言ってるんだ?
こう考えてみよう。
血液型A型はこういう人です。
B型はこういう人です。
人間は何かを分類して、それを一括し、そしてそれらに一律の性質を与えて物事を論理的に理解しようとする。
先の回答を考えてみると、種、とか、人間、そして人間の生存戦略、という言い様が出てくる。これは、分類と一律な性質の付与だろう。
こういう世界観であると、”生存戦略を司る遺伝子が集団中に広がるには、取りあえず利益を出さなければならない”、という個別に越えなければならない壁の存在を無視できるだろう。
人間と言っただけなら、それは”たくさんの人間”だとも言えるし、”色々な人間”だとも言える。つまりそのままなら有象無象、多種多様な意味が含まれている。
だがしかし、”人間と呼ばれる種の生存戦略”と言った場合、それは恐ろしく均質で強力な限定だ。まるで人間という種族が全体でひとつの意思を持つ実体であるかのようである。
確かに、こういう世界観なら、個別の遺伝子が増えたり減ったりする進化、進化は変異の頻度の変化であるという説明をはしょることができるだろう。
そんなことを考えることもないだろう。
考えようにも、”人間と呼ばれる種の生存戦略”という雑な言葉でそういう見るべき部分が塗りつぶされているのだ。つまり見るべき事柄を認識していない。そうである以上、考えることもないだろう。
認識していないものは考慮することなどできない。
かように個別の問題を無視できる以上、”変異をとにかく貯め込もうという生存戦略が一律に人間に備わっている”、そう鵜呑みにできるだろう。
∧∧
( ‥)つまり理解の形式が
血液型占いと
構図的に同じだろうと
( ‥)でもこの考え方は
‐□ 非常に危険なんだよな
例えば、血液型占いに批判が出るのは、それが科学的に検証されていないうんぬんだけではない。
血液型占いは、人間を一方的に類型化して一律に人を定義するという暴力性を備えているから批判されるのだ。
∧∧
(‥ )人間の生存戦略は
\‐ 弱者保護です...
(‥ )これは
科学的におかしいとか
進化的に無理があるとか
それだけではすまない
”弱者保護をしない人間は
人間じゃありません”
になってしまうのだ
弱者保護は良いことなのだから、良いことをしない人間を人間扱いしないのは問題ないでしょ?
そう言う人もいるであろう。
ところで世の中にはこんな事例もある=>african albinos hunted - Google 検索
∧∧
(‥ )アフリカの人で
\‐ 先天的に色素を持たない人は
お守りや呪術医療などの
素材として狩られたり
殺されたり
切断されたりする
そういう話だね
(‥ )遺伝的変異を保持するのが
人間だとすると
アルビノの人を
狩り立てた人間は
人間じゃない
ということになるな
確かに
我々の目から見れば色素を持っていないというだけで人を狩り、それをお守りにするというのはまともなことではない。
では?
人間の生存戦略は遺伝的弱者も保持することである。狩った人は人間の生存戦略を持たない。ゆえに彼らは人間ではない そう断罪して良いのか?
∧∧
( ‥)それもまた
まともじゃないね
( ‥)人間に一律に性質を
‐□ 付与して
何かの行動を正当化する
それは動機がなんであれ
ろくな結果にならん
考えてみれば、かつて優生学を支持して邁進した人々自体がそうであった。
彼らは断種や安楽死を用いてまで、一律に人間を完成に導こうとした。
優生主義者たちは、善意と使命感に燃えて事を行なったのだ。動機は行動を正当化などしない。
弱者保護は人間という”種”の生存戦略であると説明する人も、それに賛同する人も、優生学と根っこは同じなのだ。ベクトルは反対方向を向いてはいるが、一律ではない多様なもの、無数の遺伝子が離合集散する人間と呼称されるネットワーク、このすべてを一律に理解してしまった時、その理解は現実から乖離しており、それゆえ現実に対する絶対的な暴力性を持っている。つまるところ根っこは同じなのだ。
どちらも変異を無視して、物事を一律に塗りつぶしてしまう理解と行動を望んでいる。その点においては変らない、
多様性と言いつつ、種の生存戦略という言葉で物事を正当化せしめた瞬間に、多様性をことごとく轢きつぶしておる。
*ついでにいうと、先に上げたアフリカの事例を見れば分かるように、人間の行動はもっと呪術的なのだろう。シュメール神話が身体障害者の雇用を説明し、ある文化では遺伝的な変異が神の使いとして扱われ、あるいは呪術の素材として狩り立てる。かように人の行動は様々である。
つまり、人間という種が生存戦略として弱者保護をするように出来ている、とは人間の現実をも説明できていない。
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