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2014年7月5日土曜日

私たちにも言い分があるということは、分かってほしい


 例えば「ローマ皇帝伝」(上)岩波版 pp134 には曰く、
 
 初代皇帝アウグストゥスは、元老院議員の息子で陣営生活をしないものが誰もいないよう、戦列のどの翼にも元老院議員の息子を2人、据えたと。

 ∧∧
(‥ )ローマは世襲議員制で
\‐  子息たちは軍役を果たす
    そこからキャリアを
    スタートさせる
 
  (‥ )でもこれは大いなる
      矛盾だよね
      アウグストゥスは
      すべての軍隊と
      その指揮権を一手に握る
      独裁者だ
      法的にはまったく
      裏付けが無いからこその
      軍事力による独裁だよね



 名目上は共和制だしアウグストゥスも君主であることを否定したけども実情は独裁制だ
 
 とはいえ、王と呼ばれた先代のカエサルが共和制派に暗殺されたことを考えれば、この建前は当然のこと。
 
 ∧∧
( ‥)でも本音と建前の乖離が
    激しいよね
 
  ( ‥)伝記で見えてくるのは
    ‐□ 古き良きローマの
      復興を行い
      王と呼ばれることを
      毛嫌いする反面
      暗殺のくわだてには
      容赦しない
      アウグストウスの姿だよね
      まあ、当たり前だがな

 
 アウグストゥスは名門の少年同士を戦わせるトロイヤ競技祭も盛んに催したという。もっとも子供が骨折などの大怪我をするので親からの反発が激しく、止めてしまったそうだが。
 
 ∧∧
(‥ )現代人から見ても
\‐  当時のローマの貴族から見ても
    野蛮な祭りだと

 
  (‥ )だけどもさ
      本当にこんな祭りが
      由緒正しいというのなら
      もっと以前のローマ人は
      もっと野蛮だった
      そういうことだろうな
 
 そもそもローマ軍はギリシャ都市と同じく、国民皆兵の軍隊だったという。それを考えればこういうお祭りがかつて催された、というのはそんなにおかしなことではないんだろう。全員が国家のために戦うことを誉れとする気風なら、それはむしろ当然だ。
 
 ∧∧
( ‥)でも、アウグストゥスさんの
    時代には
    そんなのもうとっくの昔に
    終わっているんだよね
 
  (‥ )先代カエサルを暗殺した
      ブルトゥスも
      名門の家の出で
      軍役を果たしている
      だけど彼らが指揮する
      軍団自体はすでに
      他では
      生活できないような
      貧乏人を集めた組織に
      なっちゃっているの
      だよな
 
 国民皆兵の国家はとっくの昔に変質した。市民と守るべき社会はもはや一心同体ではない。市民と軍隊がまるで乖離した国家になっている。そもそも、その結果としてのアウグストゥスの独裁である。
 
 ∧∧
( ‥)そればかりか
    世襲制議員たちも
    軍隊から排除されていくような
    感じだよね
 
  (‥ )アウグストゥスの権力は
      軍隊の指揮を独占的に
      掌握したからこその
      独裁権
      だとしたら
      世襲議員たちの
      軍隊への積極的な参画と
      推奨は矛盾だよね
 
 その意味においては、戦争を模した過去の祭りも、潜在的な敵であるはずの世襲制議員たちの軍役を推奨するように見える行為も
 
 ∧∧
( ‥)すべては古き良きローマ
    すでに形骸化している
    共和制を演出するだけの
    茶番だと
 
  (‥ )たとえそれが必要な
      パフォーマンスで
      あったとしても
      やらなければいけない
      ことであったとしても
      やはり茶番だよな
 
 アウグストゥスは乱れたローマの風俗や道徳を昔に戻そうとしたとも言う。あるいは外部からの人々と生粋のローマ人との混血を、阻止するとまではいかないまでも阻もうとしたとも言う。さらには子供を作る人が減ったことを憂慮して、結婚と子育てを奨励することもした
 
 そんなこともあってか、近代や現代の研究者はローマの滅亡とその原因を色々と言い立てた。曰く、
 
ローマは初期の理念を喪失した
ローマは社会共同体としての力を失った
ローマは外国人の流入でその純潔が犯され、遺伝的にも血統的にも堕落した
ローマはその道徳を失った
ローマは国家を守るという信念を失い、兵役拒否をするものが続出し、軍隊が変質した
ローマは自分のことだけを考えるものが増え、家族を作る義務を放棄し、人口と国力を減衰させた

 だがしかし
 
 ∧∧
(‥ )アウグストゥスさんが
\‐  パフォーマンスで示した
    様々な復古的な政策が
    茶番であるというのなら
    以上の言い様も
    すべて茶番だよね
 
  (‥ )国が巨大になれば
      知らない人間が増える
      そうなればお互いの
      牽制が効かなくなる
 
 道徳や倫理が互いの相互監視だというのなら、国が巨大化して牽制が効かなくなるとは、個人の自立した行動を可能にするということだ。つまり、相互監視で一方方向を向いていた共同体の力は分散する。
 
 強大な力を持って豊かになれば支出が増える。支出が増えれば子育ての負荷が大きくなる。子育てをするメリットが失われる。
 
 相互監視がゆるくなり、豊かで失うものが大きくなれば、家族を作る利益も必要性も、軍役を果たす利益も必然性も低くなる。
 
 ∧∧
( ‥)しかもローマの軍役は
    15年だの25年だのと
    長いからね
 
  ( ‥)そうなると
    ‐□ 市民軍ではなくて
      プロの軍隊だよね
 
 レギオンという分離可能な陣形で自在に戦えたらしいことからしても、非常に訓練された人々だったということなんだろう。こういう高度な訓練と組織力は長く受け継がれ、ずっと後、帝国がほぼ防衛のみに追われる時代になり、かつてのように大軍隊を展開する事が無くなった時でも役立ったそうだ。ゲルマン人は広大な国境線のあちこちから少人数で侵入してくる。通信が無い時代だ。報告を受けて出撃してもすでに敵は去った後であり、報復攻撃しかできないことが多かった。だが、それでもなお、侵入してきたゲルマン人を索敵、広大な範囲から発見し、気づかれぬままに忍び寄って組織的に皆殺しにする、そんなことが出来た軍隊だという。
 
 ∧∧
(‥ )そんな軍隊は
\‐   徴兵制では
     維持出来ないよね
 
  (‥ )徴兵制なんて
      バイトみたいなもの
      だからな
 
 初期の都市国家同士の戦争ならともかく、巨大帝国になってもなお昔の理念通り、国民皆兵を懐古するなどむしろ馬鹿げているのだろう。
 
 *これは銃器の発達によって素人の大量な突撃で勝てるようになったナポレオン戦争以来の伝統。それを引きずったまま戦争に突入したWW1とWW2における国民総動員と総力戦、徴兵制。これらも実は歴史的には過渡的な異常例だったのではないか? という疑惑にもつながる。
 
 ∧∧
( ‥)現代人が言う
    ローマ人の堕落と滅亡とは
    茶番だろうと
 
  (‥ )これさ、実は
      他人事じゃないんだよな
 
 今の世界は、イスラエルのような例外を抜かせば、先進国はもはや国民皆兵ではないし、軍隊と市民の乖離も進んでいるように見えるし、高度化した兵器は素人には荷が重い。
 
 ∧∧
( ‥)もしかしたらこのまま
    民主制は終わって
    かつてのように
    独裁制へ移行するかも
    しれない
 
  ( ‥)そしてだな
    ‐□ 僕らは未来人に
      非難されるんだ
 
 多分、彼らは言うのではないか?
 
 今の日本人を批判するのであれ、アメリカ人を批判するのであれ、未来人たちはこう言うのではないか?
 
日本人は豊かになって共同体意識を失った
日本人は自分さえ良かれと思う利己主義的な人間が増え、国防意識を失った
日本人は自分の豊かさを失いたくないから徴兵を忌避し、軍隊と市民が乖離した
日本人は道徳的、倫理的な規範を失った
日本人は移民の流入で混血が進み遺伝的に堕落した
日本人は家族を作ることを忌避して国力と人口を喪失した
 
 日本人をアメリカ人に変えても、あるいはドイツ人に変えてもフランス人やイギリス人に変えても同じ事が言われるだろう。おそらく、未来人はそう言い立てるのではないか?
 
 事実、私たち自身がかつていた人々をこのように批判しているではないか。
 
 ∧∧
( ‥)でも、これらも全部
    茶番だと
 
  ( ‥)多分、思うにだな
    ‐□ 古代ローマ人にも
      正当な理由があった
      のだよ
 
 同じように、私たちにも言い分がある。ただ、未来人はそんなこと聞きもしないだろう。なぜって、私たち自身が同じことをしているからだ。同じように、未来の彼らは今の僕らの言い分を聞いたりはしない。「君、それこそが堕落というのだよ」 そう言って鼻で笑うだけだろう。

 
 


 
 

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