自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2014年7月20日日曜日
教科書が当時すでに時代遅れで駄目になりかけていた事例
Amazon経由で買った古本を読む
∧∧
(‥ )amazonに出品されてた
\‐ 古本のひとつ壊れてるよ
ページが割れかけて
背表紙から
はがれかかってる
(‥ )修理するべ
本修復用のテープと接着剤。接着剤は成分も見た目も匂いも木工用ボンドなんだけども、なにか違うのかどうなのか。
ともあれ
∧∧
(‥ )ページをきれいに割って
□□‐ 背表紙との間に
接着剤を塗り付けまーす
(‥ )破れかかったページには
補修テープを貼ってだな
後はクリップでとめて放置。1日近く乾かして、問題は修繕された。そうしてざっくりと読む。
∧∧
( ‥)古生物学の本だね
シリーズもので
出版は1984〜5年
あなたが中学生の時の
本だね
( ‥)あの時は立ち読みはしたが
‐□ 買わなかったなあ..
なんというか、本に出てくる固有名詞の奔流がよく分からなかった、ということもあったけども、印象として残っているのは
∧∧
( ‥)なんか時代遅れ感があって
これは買うと損じゃないか
そういう迷いがあったと
(‥ )プレートテクトニクス
□‐ じゃなくて
なんか変なことを書いてる
そんな印象だな
あれから30年。今読めば、当時の懸念は半分当たり、半分外れである。
どういうことかというと、かつて日本の地質学とその周辺は左翼の力が非常に強かった。だから日本は欧米に比べるとプレートテクトニクス説の受容が遅れた、という経緯がある。
∧∧
(‥ )この古生物のシリーズも
\‐ プレートテクトニクス以前の
古い地質学のなごりが
非常に濃く残っていると
(‥ )著者の中に左翼の人が
入っているのは
その典型だよね
第1巻では
エンゲルがどうした
とか
マルクスがどうの
とか
歴史の発展的段階が
とか
そういう表現が所々
出てくるのだ
*こういう時代は色々なところに影を落としている。例えば、昔、書かれた月の本は月のクレーターを火山で説明している本が多い。しかもアポロ計画が成功を収めた後でさえそうなのだ。ようするに左翼の連中がアメリカの成果である、クレーター隕石衝突説を否定し、ソヴィエト・ロシアで一般的だった火山説を熱心に吹聴した、そういうことだ。
**ここで述べているシリーズに関して言えば、地質学以外の部分においてさえもマルクス主義の見当外れな”科学”が影を落としている場面がある。”獲得形質を否定したワイスマンと同じ浅薄な立場”という表現がそうだ。
***獲得形質はマルクス主義的であるから正しい。なぜならそれは無限の品種改良を意味し、農業生産の無限増大を保証するからである。そう主張したマルクス主義者たちは、獲得形質を否定する正統派の遺伝学者やメンデル遺伝を罵倒した。連中は忘れているだろうが、そういう過去と歴史がある。ちなみにこういう検討外れなことを言っていた人々はこの後、有機農法へと流れたらしい。
とまあ、こういう左翼うんぬんの話はご愛嬌だとしてもだ、プレートテクトニクスに基づいた体系的な理解が抜けている。これは痛い。
∧∧
( ‥)つまり古生物学の基礎
生物の分布や
化石の保存
地層の有様
環境と地質年代区分
これらに影響を与える
肝心な理解の枠組みが
間違っている
( ‥)なんかへんだなーとは
‐□ 思っていたのだ
当時すでに
中学生だって
プレートテクトニクスを
知っているわけでね
確かに子供はすぐに新しいものに飛びつく。だからしばしば間違った仮説を手にしてしまう。だから教科書を読まねばならない。それはまったく正しいことなのだが...
∧∧
( ‥)でも少ないとはいえ
反対のこともある
教科書を書いている人が
意固地になって
滅びつつある理論を
後生大事に書いてしまう
こともある
(‥ )本来こういうのは
出版社とか編集者が
ちゃんと見極めるもの
なんだが
当時は出版社でも
マルクス主義者が
猛威をふるっていたし
そうでなくても
時代についていけない
大人はいつでも
いるものだし
我々自身がそうなる
ことは絶えずありうるし
まあそういうことよ
要するにこれはhilihiliのhilihili: パラダイムシフトは教科書を読まない口実にされるの続きでもある
つまり、ここで話題にしているこのシリーズは、研究者が書いた以上、いわば教科書や参考書に相当するものだ。だがしかし、いわゆるパラダイムシフトが起こっている最中に書かれたものなので、内容がすでに間違っている。
∧∧
( ‥)つまり教科書を読むと
むしろ駄目になる事例
まさにこれらが
それである
( ‥)当時買わなかったのは
‐□ その意味では
正しかっただろうね
だが、言い換えると時代の過渡期とその産物なので、今から見ると色々な手がかりになる内容を持っている。
例えばかつて、プレートテクトニクスが認められる以前の時代、地層の堆積と隆起と褶曲、そして山脈の形成は地向斜という概念で説明されていた
∧∧
(‥ )この本もその内容の多くが
\‐ ”地向斜”に基づいて
記述されている
(‥ )でもさ
”地向斜”という考えは
何とも奇妙なものでね
山脈とその地層を観察すると次のように現象が進行したことが分かる
堆積が起こる、沈降する、堆積物が厚くなる、火山活動が起こる、隆起する、山脈ができる
ここまでは問題ない
∧∧
( ‥)このような造山運動を
堆積、沈降、火山活動
隆起で説明するのが
”地向斜”である
( ‥)問題はさ、これ
‐□ 説明なのか? という
ことなんだよな
これは見た事、起きた事を言っているだけじゃね? これが説明か? という問題だ。例えば1989年に出た「プレート・テクトニクス」上田誠也 1989 岩波書店 pp175 には
しかし、造山帯の構造解析から組み立てられた”地向斜物語り”を説明する物理的機構についてはついにほとんど何の説明もなかった
とある。つまり”地向斜”とは観察をまんま申し述べているだけで、機構の説明がまるでないのだ。理論と呼べるものなのかというとちょっと怪しい。よく言っても天動説レベルだと言うべきかもしれない。実際、本を読んでいても順番に関する記述はあるが、厳密な意味で因果関係を述べている場所がまるで見当たらない。
∧∧
(‥ )現在はあれだよね
\‐ 大陸縁辺部で堆積が起こる
長い時代がすぎれば
大陸が大陸に
衝突することもある
そうなると
堆積物は隆起する
海洋プレートが
沈み込めば
火山活動が起こり
衝突で山脈の形成が起こる
概要自体は単純明快
(‥ )今はそれで説明できる
だが30年前のこの本は
そういう本ではなかった
そもそも説明すら
出来ていない
そんな時代の産物でもある
そう言う事もできるよね
だがしかし、だからこそ価値がある部分もまたそこにある。
∧∧
( ‥)古い本は今の本よりも
過去に近いから
意外と役立つこともある
( ‥)歴史的な経緯を
‐□ 把握することに役立つ
それもあるが
それだけではない
今の本では省略された
必要な基礎知識が
きちんと書かれている
古い本にはそういう
こともあるものだ
それに現在の専門用語には、実のところすでにすたれた理論に基づくものもある。理論は死んだのに、用語自体は定義を変えて残っている場合だ。そして定義が変っても用語はなんとなくその由来を示すものである(例えばゴンドワナ大陸は、本来は南半球にあって水没し、失われた仮想的な陸地のことだ)。
あるいは専門用語の具体性を掴むためにはその歴史的な経緯を踏まえた方がより分かりやすい、ということもある。
∧∧
( ‥)古い本の中にある
役立つ知識と
役立たない知識を
弁別して
役立つもの
意味あるものだけを
抽出しようと
( ‥)それを考えれば
‐□ 中学の時よりも
本の読み方が
ちょっとは
ましになったのかな
後、失われた仮想大陸パシフィカの名前を聞いたのもずいぶん久しぶりのことであった。
∧∧
(‥ )一応、この本は
\‐ プレートテクトニクスの仮説も
紹介はしているからね
ペルム紀のフズリナ化石と
その奇妙な分布
それらを説明しうる仮説
かつて太平洋に存在し
分散して失われた大陸
パシフィカ
(‥ )中学の時に名前を聞いてな
これはなんだと
理科の先生に尋ねたけど
彼は知らなかったのだ
先に引用した
「プレート・テクトニクス」
でも引用されているが
1977年の仮説だった
のだな
少なくとも北米西岸は北米に後から付加してきた地塊があるという。海洋性の堆積物だから、それが海面に顔を出していたような大陸由来であるとは限らないらしいが、懐かしい名前だ。
∧∧
(‥ )今はどういう理解に
\‐ なっているのでしょうね?
(‥ )さてね
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