自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2014年7月24日木曜日
カバの話 ゾウの話 問題提起の話
こんな文章を見た
カバが絶滅して化石だけが見つかった時、その牙からカバは肉食動物だと思われるだろう。
∧∧
(‥ )カバさんの頭骨は
\‐ これだよね
=>https://www.google.co.jp/search?q=hippopotamus+skull&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ei=fULQU5eON4WGuATvxID4DA&sqi=2&ved=0CAYQ_AUoAQ&biw=915&bih=…
(‥ )まあ、いかにも
恐ろし気な牙で
あることは確かだけどね
以上の頭骨を見てカバは肉食動物だ、と感じる人も確かにいるだろう。
だがしかし
∧∧
( ‥)獲物を狩る時に
この牙をどうやって
使うの?
( ‥)牙よりも
‐□ 前歯の方が前に
出ておる
確かにネコもイヌも、前歯は牙より前方にある。しかし、カバが持っているこの顕著な前歯はいかにも邪魔だ。牙の役割は獲物に噛み付いてとどめを刺すことだ、というのなら、これはずいぶんおかしな配置ではないだろうか?
しかもこの前歯、前方に伸びた棒状である。肉をかじりとるなり、獲物に食いつくような造りには見えない。ネコやイヌの前歯は他の歯に対してここまで大きくないし、ちゃんとかじりつける構造になっている。犬歯ではなく前方に伸びた前歯が殺傷の役割を果たしていたと思われる古生物もいるが、その場合、前歯はブレード状だ。
∧∧
(‥ )しかもカバさんには
\‐ 肉切り歯が
見当たりませんね
(‥ )仮に獲物を倒しても
肉をどうやって食うの?
それが問題だなあ
イヌやネコや、いや、他の肉食哺乳類も含めて、彼らは肉を切ることに特化した肉切り歯をもっている。
肉切り歯を持っていないカバが肉食だ、というのはちょっと飛躍があるだろう。
極めつけは奥歯の有様だ
=>https://www.google.co.jp/search?q=hippopotamus+tooth&rls=en&tbm=isch&ei=v0bQU-qNDoqNuASv-oJo#facrc=_&imgdii=_&imgrc=jKFCnH13YMvSgM%253A%3BbQ_-…
∧∧
( ‥)摩耗しとるがな
( ‥)もしも肉を食って
‐□ ここまで歯が磨り減る
というのなら
雑食性の人間の
奥歯なんか
なくなっちゃうよね
つまりだ
カバは肉食ではない
そういうことが
分かるよね
つまり、仮にカバが絶滅していて骨だけしか残っていなくても、この動物を肉食動物だと判定する人は、少なくとも古生物学者の中にはいないだろう。もちろん、研究者もピンキリだし、おかしな人もいるから皆無というわけではないだろうけど。
生物は工業製品でないから以上の推論に該当しないような肉食動物は色々といる。だけどもカバの場合、そういう特異な事例に当てはまるようにはちょっと見えない。それに絶滅動物が肉食か植物食か、あるいは雑食かを判定する方法はこれだけではない。歯に残された顕微鏡的サイズの痕や同位体の調査など、他にも色々な方法があるのだ。
∧∧
(‥ )それを考えると
\‐ カバが肉食動物と
誤認されるだろう説は
単純に安易?
(‥ )例え話としては
これでも十分なんだよな
使える根拠が減少すると
結論が絞り込めなくなる
それは事実
でも現実として言えば
カバの頭蓋骨を見て
そんな推論をする人は
いないってこった
たぶんこれは発言者が、動物が肉食か植物食かの判定は、牙の有る無しではなく、むしろ奥歯の有様が重要だ、ということを知らなかっただけなのだろうけど。
∧∧
( ‥)でも、それだけでは
ないだろうと
( ‥)問いをどう立てるのか?
‐□ その問題だろうな
きっとこうに違いない
そういう発想は思いついた答えを言っているだけだ。そして思いつきは、他の答えが存在しないことを保証してくれない。
だから例えばこう考えればどうか?
第2次試験・第7問:カバが絶滅しており、生きた個体が観察できないものとする。残された骨格と歯からカバの食性がどの程度絞り込めるか、具体的な根拠に基づいて見解を述べよ。ただし以下の動物は生存しているとする。ウマ、バク、サイ、シカ、イノシシ、ジャコウジカ、イヌ、ネコ、ヒグマ、シロクマ、ヒト。図2参照
∧∧
( ‥)という問題がテストで
出たと考える
( ‥)これに直面した時
‐□ あなたは
”牙があるから
カバは肉食です”
そう答えるのか?
そういう問いかけよね
問題提起というのは重要だ。
思いつきだけでなんとなく話をしていた人も、事柄を出題形式にした途端に、もっと色々と検討するだろう。最低限、第一印象に基づく結論を、これで本当に大丈夫だろうか? と考えることぐらいはするだろう。
つまり、模索するかしないかとは、設問するかしないかの違いだとも言えるし、テストによる判定といういわばリスクを目の当たりにした人が、考察により多くの時間を投資するかしないか、それだけの違いだとも言える。
*こうでもしないと人間は真剣に考えないよ、ということでもある。
∧∧
(‥ )まあ、情報が失われると
\‐ 過去の再現が難しくなる
そういう一般論を
申し述べる小話としては
カバが肉食と思われる説は
ありなのでしょうけどね
(‥ )研究者や学問領域を
なめすぎだ
という点以外は
一般論としては
正しいからな
でも結果的には
誤りだね
そして付け加えれば同じ書き込みにあった、ゾウが絶滅したらあの長い鼻を復元できないだろう、というのもやはり誤りだろう。
∧∧
( ‥)復元できるだろうと
( ‥)少なくともあれだね
‐□ 鼻と上唇を含む
吻部が前方に
伸びていることを
推論する道筋が
存在するからな
復元できるだろうね
ゾウの長い鼻が進化する過程は、非常に特異なものだ。鼻がずんずんと伸びた、というものではなく、まず顔面が伸び、それから上顎が後退し、次に下顎も後退するという順番を追って出来た。つまりあの鼻に到達する経路は非常に限られていたし、その過程を化石だけから追う事が出来る。だとしたらゾウが絶滅して骨しか残っておらず、なおかつ氷漬けのマンモスのようなものが見つからない状況でも、ゾウの長い鼻は復元可能だろう。
*証拠からすると推論にぶれがあるので鼻腔の位置を間違う可能性があるが、吻部が伸びることで出来た、筋肉のみによる細長い器官を持っていたことは十分推論可能じゃね? という意味。
∧∧
(‥ )あのでっかい耳たぶは
\‐ どうだろうね?
(‥ )あの復元は
鼻よりも難しそう
だよなあ
必然ではないからねえ
だがしかし、仮に
ゾウが絶滅しているとする。残された骨格から大きな耳たぶを復元することは可能か? 可能であるか不可能であるか、いずれにせよその根拠を具体的に1000文字以内で述べよ。
と、問われた場合。少なくとも自分はすぐには答えられないのである。
*ここでは氷漬けのマンモスが発見された場合、それには小さな耳たぶがあることから、ゾウの大きな耳たぶを推論する人はそもそもいないのではないか? というような話は省略する。あるいは、そのような状況でも熱帯域にいるゾウが大きな耳たぶを持つことを想定する人がいるとしたら、その仮説の根拠は手堅いかどうか? それが問われることになるだろう。
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