自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2014年4月30日水曜日
仕事してねー やべー 俺やべー
もう日付は変わってしまったが、4月29日、火曜日、用事があって町まで出かけると、妙に人通りが多い。はて? と思っていると、通りすがりの老人が奥さんに言っている言葉が耳に入った。
「....で、今日は休日だから...」
∧∧ だそうです
( ‥)
‐( ‥)ああ、そうだったのか
やる事が色々とあるが、全部、仕事とは関係ない作業だ。
∧∧
(‥ )先日、海へいったあたりから
\‐ 仕事してないよね?
(‥ )やべー、俺、やべー
月のスケッチをしたり、花のスケッチをしたり、気分転換にHPを更新したり。海へいって疲れ果てたり、それで眠ったり、撮影した画像を整理したり。そうこうする間に、時間が刻一刻と過ぎていく。
∧∧
( ‥)まあ、たまには
いいかもだけど
( ‥)逆に言えば今まで
‐□ 仕事だけだったからな
だらだら過ごすなんて
ひさしぶりだ
そういえば、ひと月ほど前、人と話している時に言われたのである。
「リュウグウノツカイは書く事がないから困る」
確かに。リュウグウノツカイはその異様な姿とその巨体で人気のある深海魚だ。しかし、書く事がほとんどない。
あるとしたら
硬骨魚類では多分、最大、というか最長である
顎の骨の構造が特殊なので、吻部が伸びる
立ち泳ぎをしている可能性がある(最近、画像も記録された)
オキアミなどを食べている
∧∧
( ‥)そのぐらいですよ、と
( ‥)読者は色々知りたい
‐□ そう望むのだけど
何も無いんだよな
後は、せいぜい、分類学的なこと、系統学的なこと、民族学的なこと、食った人の感想とか、そんなもんだ。もともと深海魚で、稀魚で、さらにでかいこともあって、センセーショナルに扱われる一方で研究はほとんどされていない。だいたい、あんなでかいもの、保存することすら難しいのだ。邪険にされるのは当たり前である。
∧∧
(‥ )でも、みんなは知りたい
\‐
(‥ )だが書く事は無い
みんなが知りたいことは
どこにもないのさ
読み手と作り手側の相克が
ここにはあるのだ
ああ、しかし、個人的に一番悩むところは
∧∧
( ‥)皆の分かったが分からない?
( ‥)「分かった」が
‐□ 理解できないのだ
例えば、やはりその典型はグールドの「ワンダフル・ライフ」だった。添えられた挿絵は素晴らしい。カンブリア紀の奇怪な節足動物たち。問題は文章だ。グールドらしい博学と比喩を用いた複雑な書き方、それ自体はまあ、どうでもよかった。
問題はである
∧∧
(‥ )主張がおかしいと
\‐
(‥ )バージェスの節足動物を
記載した研究者は
”古い時代だから
現在の生物群の原始的な
仲間であろう”
そう考えた
しかし、彼は人種的偏見を持っている人物である。ゆえに...
どうもグールドは、
この研究者はこういう偏見のある人間なのだ。そして彼は下等、高等、近代的=進化的、古代的=原始的、という世界観で化石を解釈した。彼が抱く偏見が良くない以上、彼の世界観に基づいた結論、すなわち、”バージェス動物群は現在の生物の原始的な系統群である”という解釈もまた、間違いに違いない。
そういうことを言っているらしいのだが。
∧∧
( ‥)なんじゃこりゃ?
これが科学者の理屈ですか?
という違和感
( ‥)そういう箇所が
‐□ 次々に出てきてな
例えば曰く、
バージェス動物群を既存の系統樹に入れようとする分岐学的な試みは、どうもうまくいかないようである。
どうやら一致指数が低いことを言っているらしいのだが、それは別に不思議なことじゃなくね?
*一致指数:解析の結果得られた系統樹(正確には分岐図)がどのぐらいシンプルなのかを示す数値と言えばよいか。指数が低いほど収斂や逆転を想定しないと系統樹が成り立たない、ということを示している。結果的に言うと、初期に行われたバージェス動物群の系統解析は多分、正しくない。一致指数が低いのも、おそらく相同形質の判定が根本から間違っていることが原因であるように見える(例えばスウェーデンのバッド博士の解釈を参考にせよ)。しかし、グールドの見解はもっと間違っているし、そもそも根拠がない。
「ワンダフル・ライフ」において次々に出てくる主張は、当時のスタンダードな解釈に対する反論でもあるのだが、それがどうにも説得力がないのだ。というか根拠が曖昧なものばかりなんである。異質性を強調する一方で、それを言ったグールド自身が異質性の基準をまったく示さなかったのも、そのひとつだろう。
一回読んだだけでは分からなかった。
だが、二回読んでみたら、もっと訳が分からなくなった。
∧∧
( ‥)三回目になってようやく
分かりましたと
(‥ )「ワンダフル・ライフ」
あれは科学の本じゃねえ
あれは、マルクス主義者であったグールドが、ダーウィンの自然淘汰説を破壊するためにぶち上げた、イデオロギー本だ。そう解釈すると分かりやすい。
古生物学者であるグールドを「サイエンスライター」と揶揄した研究者の言い様は、確かに正しい。あの本は、サイエンスライターが書く本である。
∧∧
(‥ )でも売れた
\‐
(‥ )俺も買ってるしな
∧∧
(‥ )わー、すごい変なのがいるー
\‐ そういう評価が大部分
(‥ )それで良いと言えば
良いのだ
僕らはそんな程度でしか
本やメディアを
楽しめないのだからね
だが、それだけではなかった
あの本の内容を肯定的に”理解”して、賛同した人もまたいたからである。
自然淘汰。自然界が見せる実力主義に恐怖した人々は、「ダーウィンの言う自然淘汰なんて嘘ですよ」、そういう救いの声にすがるがゆえに、今西進化論とか色々な有象無象な仮説にとびつくことがある。
「ワンダフル・ライフ」もまたそのひとつであった。
大部分の人は健全なことに、「わーすごい」なんだが、やはりいるのである。あの根拠無き理論武装に舞い上がって熱狂してしまう人が。
そしてもちろん、彼らは主張の内容を肯定的に理解しているのだ。正しいと信じているのである。
しかしすると、理解とは、一体全体なんだろうか?
∧∧
( ‥)理解は理解
ただの主観的な思い込みだよね
理解は理解を保証しない
( ‥)そして俺には
‐□ 彼らの歓喜が理解できない
つまり、歓喜する読者の気持ちがまったく全然、これっぽっちも理解できないし、共感すらできないのだ。主張に対して歓喜する。つまり、刺激に対して反応していることは分かる。しかし、それはただの観察だ。共感でもなければ、その意味においての理解でもない。
∧∧
( ‥)物書きとして致命的であると
(‥ )俺はなんでこんな仕事を
やっているんだろうね?
*ちなみに、一応、説明すると「こんな仕事をしている」のには必然な理由がある。もともと自分はイラストレーターなのだが、イラストを大量にこなすには、本という”絵を載っける舞台”が必要なのだ。イラストは単価が非常に低い。大量に描いてまとまった金額を稼ぐ必要がある。それにはイラストを載せる舞台である、本それ自体を自分自身で書けば良い。それだけの話だ。
それだけの話なのだが...
∧∧
( ‥)人の気持ちが
理解できなーい
( ‥)基本は大部分同じなんだ
‐□ そのはずだのに、
どこで自分は世界と
ずれちゃったの
だろうな??
これはhilihiliのhilihili: 科学ライターは殲滅しなければならぬ ただの一人も残さずにの続きでもある
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