そういえば、ふと思い出した、昨年の秋にアルディピテクス(Ardipithecus)の化石が発見された時、こんな反応があったという記事を見たことがあった。
曰く、アルディピテクスはチンパンジーとはまるで異なり、ダーウィンの進化論が間違っている証拠であることが分かった。
∧∧
(‥ )ああ、アルジャジーラがArdiをそう報道した、という話みたいですね
\- 検索でひっかかってきました。
(‥ )たぶんあれだな、論文の中で出てくる
"We have seen the ancestor, and it is not a chimpanzee"
Science 2009 vol.326 pp37
おそらくこういう表現を勘違いしたか、拡大解釈しちゃったんだろうなあ、と推論。
∧∧
( ‥)私たちが見つけた祖先はチンパンジーではない、
聞きようによっては人間の祖先はチンパンジーのような
類人猿ではない、とも受け取れますからね。
(‥ )まあねえ。
ようするに、ごくありがちなintermediateに関する誤解だよね、これ(ありがちな誤解は視聴者に受け入れられやすいことを計算して、意図的にやったということでなければ)。
チンパンジーと人間という現生種のみをデータにして共通祖先を推論すると。
∧∧
( ‥)ナックルウォークと直立二足歩行という
2つの歩行形式の共通点が祖先が持っていた
形質ってことになりますかね、単純に考えると。
(‥ )ゴリラとチンパンジーのどちらもナックルウォークする
ことを考えると、ナックルウォークが祖先的な形質
だったのだ、そう考えることもできる。
さらにありがちな誤解で考えるとチンパンジーが人間に近いのだから、人間の祖先は現生種のチンパンジーと現在の人間の”中間”であると解釈する人が多いだろう。
∧∧
( ‥)ようするにチンパンジー→人間なのだから
人間の祖先は(チンパンジー+人間)÷2であると
(‥ )進化を1、2、3、4、という順序で考える、
ありがちな解釈であるね。
だけども本当にそうだろうか? 進化は分岐するものである。つまり1、2、3、4ではない。だとしたら
∧∧
( ‥)人間とチンパンジーの共通祖先、さらには人間の祖先が
(チンパンジー+人間)÷2であるという保証はありませんね。
( ‥)確かに、分岐するという考え、つまり順番のようでいて
次々に分岐するので順番そのものではない(半順序ってやつ)
で考えても、祖先形質はナックルウォークであると
考えることはできる。
だけどもそうだろうか? 実はチンパンジーやゴリラが派生的なだけかもしれない。
∧∧
( ‥)実はそんな派生的な特徴を持たない、特殊化していない
ご先祖様からそれぞれナックルウォークや直立二足歩行が
進化したのかもしれない。
(‥ )ダーウィンが言ったことを思い出せー。
異なる外見をした2品種のハトがいる。
ではこの2品種の共通祖先の姿は
2つの品種のごちゃまぜだろうか?
否。2つの違う品種の共通祖先はカワラバト。2つのごちゃまぜではない。
∧∧
( ‥)ブルドックとダックスフントの共通祖先は
(ブルドック+ダックスフント)÷2であるかというと
(‥ )そうではなくて、もっと普通の姿をした
ありきたりなイヌだよな。
同様に、人間の祖先は(チンパンジー+人間)÷2であるかというとおそらくそうではない。人の祖先は人間とチンパンジーのあいのこだという考えは、進化とintermediateを順序であると勘違いし、さらに1と3の間は何? それは2!!と推論した誤解。
∧∧
( ‥)分岐(半順序)で考えても
ナックルウォークが祖先形質に見えるけども・・・
(‥ )では、化石という新たなデータを
くわえた時、その最初の推論は生き残れるか?
どうもそうではない。少なくともアウストラロピテクスはもう直立二足歩行していた。そういうことはすでに分かっていたけども。
∧∧
(‥ )アウストラロピテクスよりも時代的にさらに古く、
□- 持っている形質もさらに原始的なアルディピテクスを
見ても・・・。
(‥ )やはりそれは(チンパンジー+人間)÷2でもないし、
(ナックルウォーク+直立二足歩行)÷2でもない。
いや、確かに腰の骨の形、犬歯の大きさ、歯のエナメル質の厚さ、足の親指のあり方には原始的なところがあって、そういう意味では(チンパンジー+人間)÷2かもしれないけども。
∧∧
( ‥)でも、アルディピテクスの見た目はチンパンジーと
-□ あなたたちのハーフというわけではありませんね。
(‥ )ダーウィンが言うように、2つの品種の共通祖先、
あるいはそこから派生したばかりの片方の祖先は
2つの品種のごちゃまぜじゃないんだよな。
進化は順番だから1と3の中間は(1+3)÷2で考えればいいんだぴょん、というのは進化とintermediateに関するありがちな誤解
*これは種の起源を読んで、「なーんだ、中間種の問題解けて無いじゃん」としたり顔で言う人がしばしば、というかほとんどの場合、というか例外なく陥っている誤解でもある
∧∧
( ‥)人間の祖先の歩行形式がナックルウォークと直立二足歩行の
中間だというまだしもありうる推論も
(‥ )アルディピテクスはそうではない。最低限、人間の進化に
おいてそういう”段階”は実際には観測されていない、
そういうことだね。
そういう意味においては We have seen the ancestor, and it is not a chimpanzee であるのは確か。
アルジャジーラがしたという報道は
(‥ )まあ、最低限ありがちな誤解だよな。
∧∧
( ‥)ですね
宗教世界だからそういう誤報を招くのだ、と意地悪く言う人もいるかもしれないが、いやしかし、日本にだって中間種が見つかってないじゃん、しかも「種の起源」を読んだ上で”書評”にそんなことを書いてしまう、人がいるわけで、
∧∧
( ‥)あちら様のことを宗教のせい、とか言えないかも
知れません。
(‥ )そういう書評を書いた人と同じ能力者が記者であるなら
宗教だろうが、なんだろうが起きうる誤解だろうしね。
*書評ってのは通常の人よりも何かいいたくて、なおかつ他人よりも頭いいと思っている(思われている)人がする行為じゃないの? と考えた場合、先のような書評の存在と記事の存在は、実は”頭がいい”とされる人間の所行かもしれず、それはある意味では失望的。
そして今日もきっと「進化論では中間種の問題が未解決!!」と得意げに言う人々がどこかにいる。
∧∧
( ‥)でもそれは、
(‥ )自分の空想した中間種がいないと
言ってる、それだけってことだね
”オレの考えた中間種”って言えばいいの? あるいはオラ中間種というか。
∧∧
( ‥)チンパンジーと人間のハーフがいないよー
(‥ )そんなものは最初っからいねー。
ありもしないものを思いついて、ないない間違っている。そんな主張はないだろう。だが人は時にそういうことを平気でいうし、それをするのは自分は頭がいいと思っている人間かもしれぬ。