先日、隣のアパートにすんでいるばーさんが自分のポストに届いた封書をもってきて、そしてこう尋ねてきた。
「これは当選のお知らせか何か?」
∧∧
( ‥)そこであなたは言いました。
(‥ )それは投票用紙です。
∧∧
( ‥)あのおばあさん、市営住宅だかなんだかに
入りたいんですよね。当選ってそういう
ことなんでしょうね。
( ‥)でっ、文字が読めないんだよな。
本人は馬鹿なんだ、とかいっていたが、どうも話を聞くに病気がちだかなんだかで子供の頃、学校へいけなかっただけらしい。
(‥ )そんな理由の文盲なんて
まあ、ありがちな話さ。
∧∧
( ‥)そうなんですか?
投票用紙・・・・・、これ、いかなくちゃいけないのよね? とも言っていた。
(‥ )いくか、いかないかは自由ですと言っておいたが。
∧∧
( ‥)そういうものでしたっけかね?
選挙、それはなんでも未来を選ぶものなのだそうだ。
∧∧
( ‥)そうじゃないの?
(‥ )そうではあるが、その言葉と現実に
距離があるっていうかね。
人間が心変わりするのは、こいつはだめだった、という過去の経験、あるいは、今が駄目っぽいから別のやつにしよう、とか、そんな程度の判断なんであって。
(‥ )未来の利益よりも今の利益、
未来の利益よりも”現在の不利益の否定”
∧∧
( ‥)それを”未来の利益の選択”というのでは?
いやいや、未来の利益とは、将来計画的にこの程度の利益が得られるであろう、というかなり具体的なものであって。
(‥ )相当、はっきりした関係性がないと
投票と未来の利益の間に相関関係を
見いだせないと思うよ。
∧∧
( ‥)ああ、だから現状の肯定、現状の否定しか
ないんだと。
その行動は”未来の選択という言葉”からずいぶん距離がある。しかし、まっとうなことかもしれぬ。
(‥ )こうすれば確実に良くなるって、
えらく能天気な世界観だからな。
∧∧
( ‥)はあ、まあねえ。
誰々に投票すれば万事オッケーとか政権交代すれば問題ないとか、それは未来設計も現状認識も甘すぎるでしょ。
∧∧
( ‥)まあねえ、決定論的で単純な宇宙観とでも
言えばいいんですかねえ。
(‥ )昔の能天気なルイセンコ主義者やマルクス主義者
みたいにな。
語っていたはずの予定されていた”来るべきユートピア”が到来しない。おかしい、おかしい、きっとうまくいかないのは他人のせい、誰かが陰謀してる。
なーんて言うのは取りあえずやめて、それは自分の仮説がずさんなせいじゃないかと考えてみよう。
実際、ほら、冷静になって見渡してご覧よ、世界はもっと有象無象で本能的でうねってる。お上品な理論とやらが、その有り様を記述できているだろうか。
(‥ )不確定な未来を積極的につかむってのは
∧∧
( ‥)未来予測によほどの確信があるわけで。
でもその確信、ただの思い込みだったりしやしませんか?
積極的な選択肢など、容易には信用ならぬ。
∧∧
( ‥)それだったら
(‥ )消去法で良しとしようじゃない。
そもそも私たちの選択肢なんてどうせほとんど消去法。
(‥ )私の人生、消去法。
∧∧
( ‥)またそういう・・・
いいじゃないの消去法。
未来は不毛でありきたりで不確定で、それでも先までのびている。