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2020年7月11日土曜日

戦術ばかりに目がいって戦略に目がいかない

 
 ∧∧
(‥ )進撃の巨人という漫画が
\−  あるけども
    あれはいよいよ
    佳境みたいですね
 
  (‥ )無数の巨人が解放され
      彼らが地面を踏み鳴らす
      これを阻止せんとする
      世界連合艦隊は
      巨人の群を前に
      一瞬で壊滅
      ついに世界は滅びへ向かう
      まさにラグナロク
      神々と世界の没落
 
 仲間のために進撃を決断した者もいれば、それを止めんとする仲間たちもいる。
 
 しかしまあそんなことはどうでもいい。
 
 興味深いことに、ネットにある感想を見ると、読者のほとんど全員が戦略核兵器と戦術核兵器の区別がついていない....というか戦術核兵器しか念頭にないらしい。

 ここは面白い。
 
 ∧∧
(‥ )漫画の世界は現実世界で言うと
\−  およそ100年前の技術水準で
    多分、ウランと核分裂は
    発見しているけど
    核連鎖反応の理解と
    武器への転用にまでは
    至っていない
 
  (‥ )だから進撃する巨人たちを
      阻止できない
      だけど現代の技術なら
      核兵器を使えば
      巨人を阻止できるはずだ
      そう書き込む人が多いのな
 
 いや、、、でも、設定はそれを許さないだろう。


 うなじのごく一部の部分、巨人の種になった人体の脳と脊髄部分、長さ1メートル、幅10センチ。この部分を解剖学的に完全にえぐり出さない限り巨人はその全身を再生してしまう。この作中設定を踏まえれば、現代兵器でも、核兵器をもってしても、巨人たちの進撃を阻止できないことは明白であった。
 
 仮に核兵器を空中爆発させて、その爆風を最大の威力で発揮させたとしても、そして人型の弱点である首が爆風でもげてしまうとしても、脊髄部分を正確にえぐれる保証はない。というか多分無理だろう。ばらばらの肉塊の脊髄部分から全身が再生されて再び行軍を開始するはず。

 そもそも進撃の巨人の作中では実際に、超超大型巨人を火薬で吹き飛ばすが、それだけでは再生するので、ばらばらに吹き飛ばした後で脊髄部分をわざわざ探して止めを刺す場面がある。
 
 ∧∧
(‥ )同様に核兵器で
\−  巨人を直接仕留めるなど
    無理な話であること
    作中描写からして
    明白だけども
    案外と皆さん
    核兵器を過大評価する
    ものですなあ
 
  (‥ )そしてどういうわけか
      戦略核兵器のことを
      誰も
      言い出さないのよね
 
 巨人の進撃を止めるには巨人を直接叩く必要がある。この前提がそもそも間違いで、進撃を止めるには巨人ではなく、相手の都市を破壊すればいい。

 もしお前たち巨人になれる者が、その巨人で大地を踏み鳴らすのなら。我々はその報復としてお前たちの都市を空爆し、市民を全滅させるがそれで良いか? これが嫌なら和平に応じろ。こういう取引を引き出す武器、これこそが戦略核兵器。
 
 ∧∧
(‥ )世の中の人って
\−  戦略核兵器を
    理解できていないのな
 
  (‥ )進撃の巨人の反応を
      見ていると
      それがよく分かる

 
 それにしても、これを考えると面白いじゃないか。

 進撃の巨人。この作中で登場する穏健派は、世界が巨人に変身できる我らを恐れ憎むなら、一部の超大型巨人を使って世界に示威行動を行おう。そうして戦略的な均衡に追い込もうと考えた。
 
 ∧∧
(‥ )これはまさに巨人を
\−  戦略兵器として使う
    発想だよね
    極めて健全かつ現実的な政策
    穏健派は賢いな
    作中では見通せないことだけど
    歴史的に言えば
    この後、
    世界は戦略核兵器を作って
    対峙するはず
    すると巨人さんたちと世界は
    戦略巨人と戦略核兵器で
    均衡状態になって
    対等の和平が訪れるだろう
 
  (‥ )でもさー
      この発想って
      巨人になれる
      異常能力を必要とするから
      作品としては
      終われなくなる
      選択肢なんだよな
      これダメなのよねー
      実際、主人公はこれを
      拒否するし
      それは当たり前なのよねー
 
 ∧∧
(‥ )だから巨人解放か
\−  これで世界が滅びれば
    巨人は必要なくなり
    必要ない巨人能力を
    かき消せば
    物語は大円団ですか
 
  (‥ )困るのは
      世界が滅びると
      大虐殺になるわけで
      これ倫理的に問題なのよね
      しかし世界を滅ぼさないと
      均衡状態にならない
      世界を滅ぼさないと
      巨人能力を放棄できない
      つまり二律背反
      倫理的条件を満たしつつ
      世界を無力化し
      巨人能力を放棄して
      大円団へと着地させる
      いやあ...難しくて重くて
      嫌なテーマだな
 
 まあ、現実的に考えれば人類のほとんどすべてを滅ぼす大虐殺も、歴史的にはどうでもいい話ではあるのだ。

 巨人たちに踏み潰された残骸と死体が地平線まで累々と続く光景。そんなものを見たら誰でも打ちひしがれるだろう。だが2、3日もすれば慣れる。耐え難いのは死体に群がるハエと死臭だ。とどまっていたら不潔で伝染病にもかかるだろう。しかし、数年もすぎて死体がすっかり分解すれば、肥沃な土地を畑にしようと考えて人々が入植するようになる。人類の大半絶滅など、生き残った人々からすればその程度のことでしかない。

 だからぶっちゃけた話、主人公の決断。自分の仲間を守るために人類のほぼすべてを抹殺する。この決断は、人という種族の系譜と歴史という少しばかり大きな視点で見れば何の問題もないのだが...
 
  
 ∧∧
( ‥)でも作品的には
    そういうわけには
    いかんだろうよ
 
  (‥ )あっはっは
      どうするんだろうね?
 
  
 
 

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