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2017年7月18日火曜日

アリに食われるライオンのごとく

 
 小説1984年。
 
 WW2の後、この世界線では核戦争が勃発した。文明崩壊の一歩手前にまで至ったこの戦争を見て、世界の為政者たちは恐怖する。これまで権力の道具であったはずの戦争が、権力の自壊をもたらすほど成長してしまったことに気づいたからである。
 
 為政者たちは話し合い、戦争は無限継続されるものとなった。つまり敗北というものが地球から消滅したのである。戦争の無限継続。この取り決めによってついに人類は戦争の恐怖から解放された。
 
 すなわち戦争は平和と同義語になったのである。
 
 戦争とは国家を単位とした生存競争であり、その敗北は絶滅を意味する。
 
 しかしこの世界線において、もはや戦争は存在しない。つまり政府のいかなる詭弁、妄想も、この世界では敗北につながらないし、すなわち淘汰されないのである。
 
 戦争の存在しない世界において、国家は虚偽を思うままに語る自由を手に入れた。それは国家が絶対無謬の存在、すなわち神になることを意味していた。

 かくて戦争から解放された人類は、これ以後、絶対権力の元に服従し、永久の夢の中を神と共に生きることとなる。
 
 永遠の楽園に人類が閉じこもった夢の世界。それが小説1984年。
 
 
 ∧∧
(‥ )そしてこの世界線における
\‐  1984年
    家々にはテレスクリーンという
    双方向の受像機が
    据え付けられており
    それは政府のスローガンと
    政府の見解をただひたすら
    がなりたてるのである
 
  (‥ )テレスクリーンは
      政府の広報器で
      あると同時に
      監視カメラでもある
      人々は映像を見ると同時に
      見られているのだ
 
 さてこのテレスクリーン。英国の作家バージェスによればまんまテレビのことなのだそうだ。
 
 ∧∧
(‥ )テレビが登場した当時
\‐  人はテレビの前で
    服を脱ぐことをいやがったと
    言いますからな
    こちらから見えているのなら
    向こうからも見えているはずだ
    そう考えたのですな
 
  (‥ )無駄に深読みすれば
      テレスクリーンは
      第4の権力とも言われる
      マスコミの揶揄でも
      あったのだ
 
 もちろんこれは深読みのし過ぎである。1984年が書かれた1948年当時、マスコミはそんな力を持ってはいなかった。たとえナチスの映画も駆使した宣伝工作が絶大であって、どこの国も似たようなことをしていたとは言えどもだ。
 
 ∧∧
( ‥)当時と違って今は
   マスコミが国の道具ではなく
   国を支配しようとする意思を
   見せておりますからな
   自ら独裁者に成りおおせようと
   している
   今のマスコミは政府ではなく
   自分の見解をがなりたてる
   意思持つテレスクリーン
 
  ( ‥)賢い人間は
    ‐/ ルサンチマンを
       持っておる
       どいつもこいつも
       一人残らずな
 
 ルサンチマン:ressentiment 哲学者ニーチェが用いた言葉で弱者が強者に抱く復讐心のことという。どうでもいいくだらん言葉だが、よく使われる単語でもある。
 
 ∧∧
(‥ )ともあれ賢い人間は
\‐  自らを弱者と考え
    強者に復讐しようと
    そればかりを
    考えているのだな?
 
  (‥ )賢いとは少数派だ
      少数派であるから
      愚かである多数派から
      絶えず攻撃されておる
 
 賢いとはみじめなものだ。賢いから高学歴高収入にはなれるが、決して社会に受け入れられることはない。そしてどれだけ出世しても彼らの心は満たされないのだ。
 
 あの日、あの時、クラスの中で浮いていた自分をからかう皆の眼が忘れられないのだ。
 
 あの日、あの時、何言ってるんだこいつは? という白い眼で自分を見る無学な田舎のおっさん、おばさんの表情から一生自由になれない。
 
 ∧∧
( ‥)どれだけ出世しても
    どれだけ偉くなっても
    補填できない心の隙間
 
  (‥ )だからほら
      マスコミってとにかく
      相手を傷つけることを
      平気でするだろう?
 
 そりゃあそうだろう。彼らにとってこれはどれもこれも復讐だ。

 弱者である自分たちが、圧倒的多数の愚民どもに対して復讐する。これは聖なる戦いだ。
 
 絶え間なく虐げられてきた自分たちが復讐する今、相手が政治家だろうが、貧乏人だろうが容赦する必要などあるものか。奴ら全部同罪だ。社会を混乱させよう。政治家を失脚させて自殺に追い込もう。経済を混乱させて貧乏人を餓死させよう。俺たちと同じようなかわいそうな少数派だけの楽園を作り出そう。愚民どもは全員俺たちの奴隷にしよう。そのための放送ぞ。
 
 ∧∧
( ‥)と思っているだろうと
 
  (‥ )彼らの無駄なまでの
      残忍さ、残酷さは
      これで説明できるだろ?
      筋は通っているべさ
 
 今や彼らは昼夜を問わずがなりたてている。政府が悪い、これは悪だ。根拠も不明のままほぼ捏造といって良いまま針小棒大に自分たちの見解をがなりたてている。自らが夢見て計画する素晴らしき理想郷を建国するために絶え間なくわめきちらしておる。
 
 まるでテレスクリーンそのものだ。
 
 いや、現在のマスコミはそれ自体が意思を持った、生けるテレスクリーンだ。

 ビッグブラザーとテレスクリーンが合体した奇怪な存在、それが現代マスコミだと言って良い。
 
 ∧∧
(‥ )ところがそこに
\‐  ネットが現れた
    マスコミが
    いい加減な報道をすると
    即座に突っ込みが入る
    このご時世
 
  (‥ )なんか
      馬鹿みたいな話だろ?
      マスコミという
      計画された巨大機械が
      ネットなどという
      知性なき電子井戸端会議に
      浸食されちゃうんだよ?
 
 ∧∧
( ‥)まあこれはネットが
    素晴らしいとかではなく
    今のマスコミがあまりに
    いい加減だって
    ことでしょうけどね
    言い換えればそこまで
    マスコミが独善的だって
    ことでしょうかなあ
 
  ( ‥)フィリピンとかで
    ‐/ 軍政に対して人々が
       クーデターを
       起こしたとき
       人々はラジオ局や
       テレビ局を
       占拠したものだが
       今の世界は
       マスコミが独裁者で
       この独裁者に
       対抗するのが
       ネットだとは
       時代も変わったよ
 
 
 まるでアリにたかられる死にかけのライオンのごとく、知性あるテレスクリーンは生きたまま少しずつ食われている。
 
 だがこれは絶え間なく起こる歴史の必然でもあった。知性は絶えず無知性によって滅ぼされるのである。アリはライオンの知能を引き継がないだろう。何も考えることなくラインの脳を食べていくだろう。
 
 食われゆくライオンは、いつ絶叫を上げるであろうか? 後一歩と思った自分のルサンチマンが、達成成就することなくしぼんではかなく消える時、彼らは泣くか? 

 
 

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