自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2013年11月21日木曜日
その日、その時、市内には本屋が二件だけであったという
その人は70歳を越えていた。その人がまだ小さな子供の頃、その人の兄は読書家で、彼は本ばかり読んで遊んでくれなかったそうだ。当時は兄弟が多い時代だ。兄とその人はそもそも遊ぶには歳が離れすぎていたのかもしれない
∧∧
( ‥)ともあれ、時代は
終戦前後ですよね?
読書家って珍しいでしょ
本屋はどこに?
(‥ )市内に2件だけ
町の中心にあったそうだよ
その本屋は今でも営業している。ああ、たしかに自分もいったことがある。古い通りの土蔵を思わせるような厚い漆喰塗りの店だから、古い店舗なのだろう、とは思っていたが
∧∧
(‥ )戦前からあるお店だったの
\‐ ですね
(‥ )本屋で本を買う人なんて
当時いたの?
どんなお客さんに本を
売っていたの?
そう尋ねてみたよ
教科書を売っている店であったという。
確かに、今でもそこは教科書が充実しているし、官報も置いてある店だ。
∧∧
( ‥)本はやはりそういうもの
だったのですね
( ‥)人は本来、文字を読む
‐□ 動物ではなかった。
社会が人材を必要とする
複雑なものになるに従い
人々は国民として
編成され、
読み書きが出来る
のみならず、
官僚と技術者を
生み出す培地として
調整されたのだ
必然性がないと本なんてものは成立しない。本屋はまず教科書と共にあった
∧∧
( ‥)でも、その人のお兄さんは
どうも小説を読んでいた
みたいですよね
(‥ )教科書という必要不可欠な
ものがある
そして娯楽も売る
あるいは娯楽を売っていた
小さな店が教科書も売る
それで成立していた
小さな世界って感じかな
小さな世界だったのだろう。実際、多くの人にとって本とは自発的に読むものではない。たいていの人にとって読書、とは、教科書を読まされること、でしかない。事実、読書に対して皆が抱く、あの憎しみときたらどうだ。
∧∧
( ‥)あなたも読書は
大嫌いでしょう?
(‥ )俺は文学が持つ、
あのすかした態度が
気に入らないだけだよ
多くの人にとって読書とは憎むべきものでしかない。しかし、ごく一部の人は娯楽として本を読む。
敗戦後の経済成長に従い、メディアも収入も大きくなって、人々がお金を使うようになると本も様々なものが産まれた。荒れ地から始まった生態系は豊かな森になった。構造が複雑になるに従って色々と枝葉末節なものが産まれた。中には、こんなもの娯楽でもないし教科書でもないし、なんだか分からないもので、たわいもなく、必要もないものだよね? というような、薄っぺらいものも出現した。
∧∧
( ‥)しかし豊かな森の成長は、
今や頭打ちになり、
森の所々は枯れて、
あるいは
時代の波は引き潮で、
薄っぺらい部分が
潮の後退と同時に再び
乾いた土地へ戻っていく
( ‥)だけど、成長した経済は
‐□ やはり大きなままだ。
娯楽の必要性は残り、
教科書も当然必要なまま
出版界の土地は
以前より大きく
なおかつ以前より小さい
だが、満ちる前に比べれば
やはりずっと広い土地だよ
戦後、たった2件しかなかった本屋は、バブルの最盛期を過ぎて衰亡したとはいえ、なお、かつてよりも大きい。
∧∧
( ‥)だからといって安全ではない
うかうかしていると
干潟に取り残された
魚なってしまうかもしれない
(‥ )しかし、
ほんのわずかの差で
浅い水深と波にゆれる
水面の下で取りあえず
生きることが出来るかも
しれない。
生き残るのはラノベと漫画と教科書だ。
∧∧
(‥ )あなたは自分のこの予測が
\‐ 正しかったと思う?
(‥ )これだけでは
正しいかどうか
分かりかねるよね
だけども、印象的だったな
B29爆撃機をその人が見た時、進駐軍の米兵が乗ったジープをその人が見たその時、市内にある本屋は二件だけであり、それは教科書を売っている店だった。
∧∧
( ‥)そこから経済を大きくして
色々な本と需要が産まれて
大きくなって
たくさんの本屋が出来た。
教科書、読書家の兄、
本を扱い、教科書を置いた、
たった二件の娯楽の店
(‥ )必然と必要性、
そして一部のための娯楽
今、ネットの出現で
版図を後退させているが
それでもなお、
黎明期より
ずっと大きいこの世界
退く波打ち際と境界線に立ちながら、この世界を見据えよう。
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