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2013年11月21日木曜日

手続き、書類、経理、契約、人件費

 
 アメリカの電子書籍は伸びているのに、日本の電子書籍市場は伸びず、電子化を推進する自炊代行サービス業が訴訟で潰されてしまう始末。
 
 ∧∧
(‥ )...っていう見解と
\‐  怒りの声について
    どう思います?
 
  (‥ )自炊代行、
      これが仮にだよ
 
 自炊代行サービスとは、本来は、読者が紙の書籍を電子化する際にかかる手間を代行することで料金をもらう会社のことだけども
 
 これが仮に、純粋に、出版社が持つコンテンツの電子化を代行してくれるサービスであるとする。
 
 ∧∧
( ‥)例えば、まず
    お客さんの発注を受けた
    代行業者が書籍を電子化する
 
  (‥ )自炊代行サービスは
      電子化されたその書籍の
      データを出版社に
      引き渡す
  
 出版社は会社のサーバーにそれを入れ、お金を払ったお客さんは、出版社のサーバーにアクセスして読むことができる。
 
 こんなことが出来るか、あるいは納得できるのか、それ自体はどうでも良い。
 
 あるいは以上のような空想的な仕組みでなくてもよい。業者はデータをお客さんに引き渡す、ただし、お客さんはそれを読めるが、他人や他のパソコンにコピーすることは出来ないよう”加工されている”とする。
 
 ∧∧
( ‥)で、自炊代行サービスは
    出版社にデータを送る
    次に、
    出版社はそのデータを
    正規なものとして
    電子市場で販売する
 
  (‥ )まあ、技術的に法的に
      可能かうんぬんなんて
      話は脇に置いといて
      設定上、
      お客の金を使って
      自炊代行業者が
      書籍の電子化を
      自発的に行ってくれて
      出版社がそれを利用できる
      著者にもお金が支払われる
      そういう仕組みに
      なっていると
      しようじゃないか
 
 だがしかし、仮にこうなっていたとしても、予測するに電子化は遅々として進まないだろう。
 
 ∧∧
(‥ )客のお金を使って
\‐  本来は出版社がやるべき
    電子化を代行業者にやらせて
    それを出版社が利用する。
    こんなご都合主義な
    ずるい手が実際に
    使えるとしても
    それでもなお出版社は
    作者に電子書籍の利用に
    関して新しい契約書を
    作らなくちゃいけないの
    ですよね
 
  (‥ )でっ、今の出版社に
      新しい契約書類を
      次々に作り出し、
      必要な事務処理を
      大規模にこなすための
      余剰人員を雇う余力が
      あるのかというと、
      どうにも怪しい。
 
 というか無理らしい。
 
 つまり上のようなことが可能だとしても、お客がどんどん自分で金を払って電子化をサポートしても、それによって電子化された書籍が急増しても、電子化されたデータが電子書籍の市場に出てくること、これ自体はひどくゆっくりとした速度になる。
 
 ∧∧
( ‥)つまり、電子化の速度を
    上げても、
    電子書籍の市場、
    それ自身の成長速度は、
    実はさほど上がらないって
    ことになる
 
  (‥ )極端に言うとだな
      今すぐすべての書籍が
      電子データになったとする
      それでも電子書籍の市場は
      うんともすんとも
      大きくならんわけよな
      時間がかかるんだ
 
 考えてみれば当たり前だ。電子化の手間ひま労力が無くなれば、電子市場に即移行、なんてことが起こるわけがない。
 
 電子化に必要な行程はなにも電子化だけでない。事務手続きや契約書の送付というものがあるのだ。小麦を収穫したから、はい、パンが出来ました、なんてことが起きないのと同じように、電子化すれば電子書籍市場が確立する、なんてことは起こらない。
 
 それに、本によっては著者だけでなくイラストレーターとか写真家などにも許可を取る必要がある、そういうことを考えると、手間ひまがかかりすぎたり、連絡しようにも消息が途絶えたりしていることで、電子化がほぼ不可能な本もあるだろう。
 
 ∧∧
(‥ )アメリカの電子市場が
\‐  大きくなっているのに
    日本が小さいのはなぜだ?
    出版界の不合理と保守性の
    せいじゃないのか?
    という怒りの声もですね
 
  (‥ )アメリカは電子書籍市場が
      大きくなっている。
      それが本当なら、
      出版の際に交わされる
      契約が違うからかも
      しれないし、
 
 話はもっと単純で、そもそも人口が多いせいかもしれない。
 
 ∧∧
(‥ )あの国は英語を話せない人が
\‐  いるどころか、
    文字を読めない人もいる
    くらいだから
    日本と比較するのは
    難しいですけども
 
  (‥ )国が広いから書店で
      紙を買うよりも
      データの方が速くて便利、
      という説明もあったな
 
 とはいえ、例えば日本の人口が今の二倍だったのなら
 
 ∧∧
( ‥)あなたの年収は単純計算で
    二倍になりますよ、と
 
  (‥ )するとどうなるか?
 
 まず作業速度を落とす。3ヶ月、4ヶ月に一冊書いていた速度を落とし、資料集めに使う金の割り当てを増やすだろう
 
 ∧∧
( ‥)2倍になったのなら
    単純計算で、今の2分の1の
    仕事量で、今の年収を
    稼げるわけですよね
 
  (‥ )じゃあ、2分の1よりも
      少し働けば資料集めに
      割り当てられる金銭を
      今より多くすることが
      できるよな?
      ああ、休みをとれるよね
 
 多分、効果は劇的だ。今の日本では赤字にしかならない本でも書けるし、採算だってとれるようになるだろう。そうなれば出版社もそういう本を出してくれるようになるし、何より、質の向上が可能である。
 
 ∧∧
(‥ )実際、アメリカって
\‐   日本からは考えられない
     マニアックで専門的な本が
     ありますからね
 
  (‥ )悲しいかな、そもそも
      そういう本を読まないと
      おいらも仕事に
      ならんのよね
      日本の本だけじゃ
      本を作れないのが現実でね
 
 なぜなら、「日本じゃこんな本、売れないから出せないよ」という本が、あちらでは数こそ少ないが出ているからだ。
 
 単純に考えて人口が多いから採算が取れる。そういうことなんだろう。
 
 ということは
 
 紙でこうなら、電子でだってそうじゃね?
 
 ∧∧
( ‥)人口が多いから、
   電子で採算を取れるようになる
   その条件や下限が
   日本よりもゆるいと?
 
  (‥ )その可能性は念頭に
      入れていても良いと
      思うけどもね。
 
 割合が同じでも、分母が大きければ絶対的な数は大きくなる。客が2万人に1人しかいない場合、今の日本人口では6000人だが、人口が2倍になれば1万2000人になる。この違いは大きい。
 
 人は、誰かが新しいことをしないと、業界が保守的だから、としばしば考える。それは時として正しいが、だがこの発想は往々にして、
 
 「お役人が悪いことをしているに違いないずら」
 
 という”あなた、水戸黄門を見過ぎですね?”的な発想でしかない。
 
 ∧∧
( ‥)実際には、やりたくても
    できないってことが
    ありうるのだと
 
  ( ‥)ちょっと違う話だけど
    ‐□ よく研究者は言うだろ?
  
 日本にはまともなサイエンスライターがいません。欧米に色々な人がいるのになぜでしょうか? この状況は是正しなければいけない。科学ジャーナリズムという…
 
 ∧∧
( ‥)あなたはこういう時、
    じゃあ人口を
    二倍にすればいいっしょ
    だからそうしろよ、
    頑張れよ、
    そう言うだけだよね
 
  ( ‥)二倍になったら問題は
    ‐□ ほぼ解決しちゃうからね
 
 科学者という立場でありながら、自分の専門外のこととなると、途端に機械論者から精神主義者に変身する人がいるのは奇異でもあるし、スローガンだけをがなり立てるのは異様でもある。
 
 だが、まあ、これが人間の限界ということらしい。人間とはそういうものだ。自分のことしか理解できないし、それが自分の理解である以上、自分の理解が正しいのかどうかを自分自身では理解できない。
 
 
 ∧∧
(‥ )電子書籍が日本で
\‐  発達しないのは陰謀だって
    言う人も同じだろうと
 
  (‥ )事務手続きをするのは
      出版社の経理なんだが
      経理以外の部署の人間に
      こういうことは
      分からんからな
      おいちゃんだって、
      言われるまでは
      分からなかったよ
 
 世の中、大部分の人間は経理ではない。
 
 事実、日本の電子書籍がうまくいかないという話題において、
 
 保守性、既得権益、抵抗勢力
 
 という分かりやすい単語は出てくるが、
 
 手続き、書類、経理、契約、人件費
 
 という単語が出てくることはまずない。たぶん、ここに理解の不整合とその原因が隠れている。
 
 
  
     

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