自己紹介
- 北村雄一(北村@)
- イラストレーター兼ライター 詳しくはhttp://www5b.biglobe.ne.jp/~hilihili あるいは詳細プロフィール表示のウェブページ情報をクリック
2016年12月1日木曜日
楽しくなければ生きているなどとは言えない
そういえば最近こんな話があった。
作家村上春樹の小説の比喩表現をとっぱらったら大体3分の1になった
∧∧
( ‥)素晴らしい?
( ‥)うむ実に素晴らしいな
−/ これが正しいのなら
本の内容を比喩表現で
希釈することにより
読者の脳に与える負担を
軽減しているんだろう
読書というのは根本的には、これだけの量の文章を読める俺様すげーだろう? という自慢である。だが脳を動かすのは大変だ。作家は読書をする人間のために、何らかの便宜をはからねばならぬのだ。
∧∧
(‥ )文章が希釈されて
\− 元の3倍にされている時
読者の脳に与える負荷は
200ページの本でも
70ページの本と同等
(‥ )うむそれに
彼の作家さんの比喩表現を
嫌う人と好む人が
両極端であることを
考慮するとこれは良いな
例えば20キロマラソンに見えていて、それは実際には7キロマラソンだということになる。これなら誰でも完走できると思いがちだが、沿道にキンモクセイがずらーっと植えられているとする。
∧∧
( ‥)キンモクセイの香りは
強い一方で
好みが分かれますからね
マラソン参加者は
20キロ(実は7キロ)を
気持ちよく走れる人もいれば
即座にリタイヤする人も
いるでしょう
( ‥)リタイヤした人は
−/ なんだよこれ!! と
吐き捨てるし
完走した人は
香りを堪能し
完走できたという
達成感だけでもなく
脱落者が続出する中で
自分は走りきったという
優越感も得られる
これは実にいいね
もちろん、作家の成功と文学性と評価と価値は、かような即物的かつ機械的な分析とはまったく関係ない側面があるのは事実なのだが。
∧∧
( ‥)でもあなたはそれについて
論じませんと
(‥ )というかそれについては
認識しないと言った方が
正しい
この素晴らしさが分からないのか? と問いつめられたとしても、赤外線は見えるが可視光は知らん。美しい薔薇色というのは理解できない。俺にその花は黒に見える。と答えるのみである。
とはいえしかし
以上をも圧倒して素晴らしいのは
∧∧
( ‥)例のドラゴンライダーですか
( ‥)純粋な娯楽として
−/ 1巻上下の1冊で
35万文字を
読者に読ませ
ベストセラーになる
これは圧倒的だよ
つまりこれはhilihiliのhilihili: 虚無の娯楽はやはり3万5000文字の続き
そしてこれらの作品は現実を反映したスペクトルなのだ。
純然たる娯楽であるファンタジーは35万文字の隊列で読者を突破し
あるいは3倍にくせのある希釈をすることで読者を選別することで価値を出す
では、はるか対極にある分光されたスペクトルの端にいる自分はどうか?
∧∧
(‥ )以上と違ってあんたは
\− 読者に3万5000文字以上は
読ませられないと
正面突破も希釈選別もあきらめ
後退戦だ
(‥ )えー? だって俺の本と
そのジャンルは
科学の本だよ?
不快の世界の産物だもの
しかたあるめえ
科学とは不快と恐怖だ。
しかし、ホラーのように生存の危機という生物本来の本能をかきたてることもできない。
科学がもたらす不快とは、人間の認識をヤスリがけするような嫌なものなのだ。人体には耐えられない。
∧∧
( ‥)科学好きな人たちが言う
知的好奇心とやらも
結局はプラトン主義という
黒魔術に由来するもので
あなたが専門とする
生物学や進化学では
まったく通用しない
むしろ知的好奇心は
理解の邪魔になる
( ‥)反対に進化学や生物学で
−/ ヒットを飛ばした作家が
概して黒魔術主義者で
物事を歪めた
人々であったのは
印象的だよ
日本だと今西錦司だし、アメリカならグールドである。
結局、黒魔術だから彼らはヒットしたし、黒魔術だからこそ内容をゆがめたのだ。
だから正統派の研究者たちから、なんだこいつら? と唾棄された。
まあ、売れた作家の中には、ドーキンスという認識へのヤスリがけを顕現させたような立ち位置の人もいることはいる。しかし彼はアメリカにおける創造論と科学の戦争という対立構造における一方の旗手だから例外と見るべきだろう。
∧∧
(‥ )それにそもそも
\− あなたは人を不愉快にするのが
大好きだしね
(‥ )好きというのとは違うな
皆が大事に信じるものを
ひとつひとつ皮を剥ぎ
その芯にまで潜る
そうして
ほら、中こうなってるだろ?
俺たちが思ってるのと
違うだろ?
現実ってこれなんだよ
根拠なんてまやかしで
そんなものなかったのさ
俺たちの立場の底には
実は何もなかった
すべては虚無だ
それを追求する
それだけの話
たしかにこの過程で賢い人間たちが圧殺されていく有様は実に愉快極まるが、別にそれが目的ではない。
かような拷問の目的は悲鳴を聞くことでも蹂躙することでも優越感を得ることでも相手に対する支配を確立することでもない。
拷問の目的は拷問そのものなのだ。
機械でこじあけた時、見えたものは何も見通せない虚無の深淵。
確かに今書いている本は子供向けだ。そこまで深くは潜らない。だがそれでもなお、読むには苦痛の世界であることに変わりない。
∧∧
( ‥)しかるにその不快な本を
売らねばならぬ
弱ったものですなあ
( ‥)希釈以外の方法は
−/ 思いつかなかった
漫画化はこの前やったが
結果はこれからだし
次の仕事でこの手は
使えん
∧∧
(‥ )この先どう突破しましょうかね
\−
(‥ )色々な人が色々な手で
突破してきた
しかしここではそれが
通用しない
さあどうしようか?
失敗すると死ぬからな
死にたくはないよなあ
ああ、しかし、ただ生きるだけもつまらない。できれば楽しくやりたいものだ。
∧∧
( ‥)どう楽しく?
(‥ )皆が信じる真理の皮を
1枚1枚剥いでいく
そしてその芯に
何も無いことを示す
その時
皆が絶望する顔を見たい
∧∧
(‥ )結局そこかよ
\−
(‥ )できれば楽しく
やりたいものなのさ
分かってくれよ
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