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2016年11月30日水曜日

虚無の娯楽はやはり3万5000文字


 
 その人は「ドラゴンライダー」なる小説を読んでいた。
 
 ∧∧
(‥ )文字通り竜に乗る男の物語
\−  つまり竜騎士が主人公の
    ファンタジー小説だね
    作家はクリストファー
    パオリーニって人みたい
 
  (‥ )いや驚いたよ
      文字数を数えたら
      概算で
      一巻35万文字はある
 
 しかもそれ、何巻もある分冊のひとつ、それも上下巻の1冊だ。なんという文字の奔流
 
 ∧∧
( ‥)...あなた今の人間に
    3万5000文字以上の本を
    読む力も余裕も体力も
    財力も経済力も時間もないって
    言ってたじゃない
 
  ( ‥)まあでもこれ
    −/ 娯楽小説だしな
 
 それにこれは西欧のファンタジーだ。つまり学力や教養が高い人間だけが読むものである。そこまで実力がある読者の有り様を一般に広げることはできまい。
 
 ∧∧
(‥ )図書館の司書の人曰く
\−  学力の低い生徒は
    外国の作品を読めず
    ファンタジーも
    読むことができない
 
  (‥ )知らない単語
      知らない名詞
      初めて聞く概念
      それについていくには
      相当な力を
      必要とするからな
 
 学力の低い人間はノンフィクションなら読めるそうだ。まあそうだろう。ノンフィクションと日常には未知がない。
 
 ああ、そういえば年取ったオタクは日常系のアニメや漫画をたしなむと聞くな。
 
 ∧∧
(‥ )...他にもそのなんだ
\−  いっちゃなんだけど
    大人のラノベである
    課長島耕作とかも
    知らない単語は
    出てこないですよねえ
 
  (‥ )卒業して1世代
      30年も経過した
      おっさんでは
      ファンタジーは
      きつかろう
      ノンフィクションが限界!
 
 
 歳を取ると脳に回せるカロリーが減る。なれば学力が低い状態に近似となろう。それはやむを得ない。恥じることでもない。どうしようもないのだ。
 
 それにしても顧みればだ、いくら娯楽小説とはいえ、35万文字の小説がベストセラーとは。いやはや、驚かされる。
 
 いや、これこそが娯楽というものの偉大さであろうか?
 
 
 ∧∧
( ‥)あなたはこの成功を見ても
    読者の限界はせいぜいが
    3万5000文字という
    前提から離れませんか?
 
  ( ‥)35万文字は娯楽の
    −/ 成果だろ?
       俺が書いているのは
       科学の本だぜや
 
 科学は娯楽足り得ない。それは脳にとって甘美なものではなく、むしろ暴力だ。
 
 ∧∧
(‥ )科学には知的興奮があると
\−  力説する人もいますけどね
 
  (‥ )はははっ
      皆の言うそれはな
      知的興奮じゃなくて
      オカルト的興奮だろ?
 
 いや、むしろこういうべきだ。知的興奮こそ、オカルトであり黒魔術そのものであったのだと。
 
 だってそうであろう?
 
 地面に描いた正方形からピタゴラスの定理を導いた時、それが奴隷の少年でも容易に分かることを示したプラトンは、数学に基づけば真理に至ることは容易いと、絶頂に訴えたではないか。
 
 ∧∧
( ‥)でも実は違う
    そこにあるのは
    前提が内包している
    結論を導いているだけで
    真理でもなんでもない
    真理に至る
    知的興奮というのは
    単なる誤謬であった
 
  (‥ )要するに黒魔術さ
      すべての知的興奮は
      単なるたわ言
      ただの黒魔術だよ
 
 確かにこの宇宙は美しい整数比でなりたっているというプラトン主義やピタゴラス主義のたわ言でも役にはやったのだ。少なくとも数学と物理学においてその貢献は大きい。
 
 ∧∧
( ‥)でも生物学ではほとんど
    意味をなさないし
    むしろ論理的に
    破綻しているとさえ言える
 
  ( ‥)俺が書いている本の
    −/ ほとんどは
       生物関係か
       過去推論だから
       黒魔術が通用せんのよ
 
 黒魔術が通用しないのであれば、知的興奮などありえない。むしろここにあるのは苦痛だ。少なくとも知的遊戯という黒魔術にふけるような連中には耐えられない苦痛の世界。それが生物学と進化学の向こうに開いている。
 
 ∧∧
( ‥)でもあなたとしては
 
  (‥ )賢い連中が
      苦痛に身悶えする様は
      楽しい!!
 
 映画マトリックで一番最高のシーンはどこか? それはモーフィアスが脳にハッキングをかけられ、決壊寸前に身悶えする有様だ! 
 
 知的で屈強なデブが崩壊して単なる肉塊になってしまうのは絶頂にたまらない!
 
 マトリックスが1984年のオマージュだと言うのなら、あれは正しい。
 
 尋問にかけられるべきはやせこけたスミスであるべきではない。党のインナーパーティーの一員である知的で屈強で無敵の理論武装をしたオブライエンこそ適任なのだ。
 
 その無謬の理論武装が崩れる時こそ、無貌の混沌がその姿を顕現させる。汝はそのための生け贄ぞ。
 
 
 ∧∧
(‥ )偶然なのかどうか
\−  モーフィアスを尋問するのが
    スミスだってところが
    またなんともね
 
  (‥ )良いだろう?
      良いだろう?
      あれ最高
      機械の使徒であるスミスが
      どんどん
      馬鹿になってくのも
      たまらないね
      無様に堕天する様が最高だ
 
 これぞ娯楽ぞ。

 無限永劫に広がる苦痛と恐怖の世界。

 黒魔術が通用しない広大無辺虚無の空間。

 汝の足下には一切確かなものがなかったという深淵の恐怖を知るがいい。
 
 ∧∧
(‥ )...まあそれじゃあ
\−  売れませんし
    読ませられませんわなあ
 
  (‥ )というわけで
      俺の限界は
      3万5000文字だ
      苦痛と恐怖は
      小出しにするに
      限るからな
 
 
       
    
  
 

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