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2016年6月29日水曜日

おっさんの脳はデリケートなので

 
 例えば深海生物の本はそこそこ売れた、という過去と実績がある。
 
 ∧∧
(‥ )でもそれって
\−  写真が無い時代に
    埋もれていた写真を
    大量に一気にそろえた
    からなんだよね
 
  (‥ )これがおかしな誤解を
      まねいたんだよな
 
 ようするに、深海生物の美しい写真がたくさんあるに違いない! という誤解だ。

 もちろん、そんなことはありえない、水は不透明な物体で光を吸収する。そんなことプールの中で眼を開ければ一目瞭然なんだが、我々はそれを忘れがちだ。
 
 だが消費者は美しい写真が山のようにあるに違いないし、水中カメラマンが撮影したウミウシや熱帯魚の写真集のように、それを楽しめるものだと勘違いした。編集者ですらそうである。
 
 こんな誤解はすっ飛び間抜けな勘違いに他ならないが、彼らはそうだと信じたし、思い込んだ。
 
 だから実際にはそういうことはできないよ、という現実を見せられても、首をかしげて、誰かが嘘をついているんだと思い込むか、さもなければ失望するだけであった。
 
 絶望的に馬鹿なのだ。
 
 いや、絶望的に自分の思い込みから離れられないと言うべきか。
 
 ∧∧
(‥ )だから深海生物の本なんか
\−  売れるわけないでしょと
 
  (‥ )少なくとも写真馬鹿を
      相手にするのは
      駄目だな
      ありもしないものを
      あると信じ込んで
      あるに違いないと
      思い込んで
      泣きわめく狂人共だ
      
 
 いや、深海生物に興味がある、と言っている人間でも駄目だろう。

 人間が理解できるのは既知の単語の組み合わせだけである。未知の単語を聞くと人は死ぬ。
 
 例えばダイオウイカが売れたのは、大きなイカ、という既知の単語の意外な組み合わせだからである。
 
 ダイオウグソクムシもしかり、大きなダンゴムシ、だ。
 
 ∧∧
(‥ )でも、もはやそういう
\−  深海生物はおりませんぞと
 
  (‥ )人間は
      詳しいことを知りたい
      わけでもないんだよな
 
 例えば、チョウチンアンコウの雄は雌に寄生して脳も心臓も退化する、という俗説を見ればそれが分かる。

 実際には、チョウチンアンコウの雄は雌に寄生しないし、類縁種で寄生する種類も、脳はあるし、心臓もある。
 
 ∧∧
( ‥)寄生して脳が退化する
    という情報だけで
    一般読者はお腹いっぱい
    間違ってても
    気にしませんぞと
 
  (‥ )それ以上の詳しいことは
      脳が受け付けないよ
 
 人間の脳は膨大なカロリーを消費する。25文字程度にまとめられた文章を把握するのが精一杯で、それ以上の詳しい内容には拒否反応を示す。

 端的に言えば、脳が死ぬ。

 あるいは脳がカロリー消費出血大サービスの危険を察知した時点で、考えることを止めるのだ。
 
 ∧∧
(‥ )じゃあ詳しい本って
\−  まったく無意味だね
 
  (‥ )馬鹿向けの本なら
     読者は読んでくれるが
     それは必然間違っている
     しかし正しい本を書くと
     読者の脳が死んで
     読まなくなる
     つまるところ
     詳しい本とか正しい本とか
     そんなものは
     まったく無意味なのだ
 
 いや、俺は詳しい本を読むぞ! と誇らしげに語る人もいるが、まあそういう連中は大概はグールドとかのめちゃくちゃ科学本を読んで進化の極意を得たり、とか絶頂に勘違いしてるさんたちなので無視してよい。
 
 まともな本を正確に読める人間などほぼ皆無だ(だいたい、まともな本を読みたいなら教科書を読むべきで、啓蒙書を読んでる時点で失格なのだ)。
 
 あるいはこう言えば良い。
 
 まともな本を正しく読める人間は確かに存在するが、商業上は無視して良い存在であり、存在しないと仮定しても結果に差は現れないと。
 
 ∧∧
( ‥)そしてここまで把握した時
    大人向けの
    本を書いてくれと言われた
    あなたは困っているわけだ
 
  (‥ )大人向けって…
     それはプライドだけは
     一人前になった
     こじれたガキ共向けに
     何か書けってことだろ?
     一体何をどう書けって
     いうのだ?

 
 うむ、まあ大人ってのはおっさん共のことだ(おばさんも所詮はおっさんだ)。
 
 彼らが何を考え、望んでいるのかは、およそ分かる。
 
 楽して手にしたいだ。

 自分を肯定して欲しいし、世間は間違っているし、お前だけが正しいと言われたい。
 
 ∧∧
(‥ )でも科学の本でしょ?
\−
 
  (‥ )科学の本でも売れるのは
      そういうものだろ?
 
 進化論に関する本などはその典型である。

 生存競争は間違っている。弱肉強食は間違っている。生物は助け合いだ、この世は血塗られた戦場ではない。お前が抱いていたダーウィニズムへの違和感は正しい。そして偉い科学者はそれに気づいていない。お前だけにその秘密を教えよう。
 
 とはいえ、進化論は社会的に巨大な影響力を持っているからこそ、こういう馬鹿をおだてて自尊心をくすぐり騙して売る、という自己啓発本や時代小説でよく使われる手法が適用できたのだろう。
 
 大部分の科学はもっとそっけないもので、この手法は使えない。

 いやまあ、昔、知り合いでこの手法を使うサイエンスライターがいたんだけども、この手は使いたくもない。

 というか、だいたいそもそも彼は、”評価されていないんだけどこの仮説が正しいはずなのです。偉い人はそれが分からんのです!”、と本気で信じていたのであるから。
 
 ∧∧
( ‥)あなたはそんなことは
    信じてないからね
    自己啓発な手は使えない
    じゃあ絵本だな
    おっさんの脳に負荷を
    かけない絵本だな
 
   ( ‥)なるべく線が少ない
     −/ 絵が良いだろうなあ
 
 おっさんたちはすでに老眼だ。細かい絵なんて見れないだろう。
 
 うん、後、ひとつにつき解説は1400文字は欲しいが、解説イラストを入れることで文字をもっと削った方がいい。

 人間が一度に把握できる事柄は10個まではいかない。さらに人間が一度に読める文章は25文字かせいぜい30文字。

 
 ∧∧
(‥ )だとすると本当は
\−  30×10で300文字程度しか
    人間は読むことができない
    それ以上を与えたら
    死んでしまうということですか
 
  (‥ )300文字を薄めて
      1200文字にすれば
      いいんじゃねえかな?
 
 少なすぎるとわけがわからない。多すぎると死ぬ。だとすると、300文字に要約できることを1200文字まで薄めれば良いんじゃなかろうか?
 
 ∧∧
( ‥)今度はそれをやって
    みましょうか
 
  ( ‥)何事も試行錯誤だからね
    −/
 
 本を書くというのは、カルピスを作ることに似ている。一般人や平均的な読者に原液を飲ませると死んでしまうし、さりとて水では見向きもしない。
 
 薄める濃度はどれが適切なのか? それはやってみれば分かること。
 
 そしておっさんの脳はもう死にかけだ、なるべく優しく扱わないといけない。ちょっと手荒に扱うとすぐ死ぬ。
 
 ∧∧
(‥ )あなたも説明書が長いと
\−  ぶち切れるしね
 
  (‥ )まーそーいうことでだな
      大人の気持ち
      分からんでも無いのよね
 
 
 
 
 

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